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実践編――振り向けば切断。衛星電話の意外な落とし穴アジアから降ってくる衛星電話「ACeS」(2/2 ページ)

» 2004年03月17日 10時22分 公開
[河野寿,ITmedia]
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 そうだと言われたところでおもむろに通話を開始……しようとしたが、ちょうど前線が通過している関係で、外は物凄い波と風である。

 本来なら、空が見えるデッキに立って通話したいところだが、あまりの風のために写真を撮ることができない。窓ガラス越しに反射波を拾えるかと思ったが、かなりいじくり回したもののアンテナは立たずじまいだった。

外は波しぶきと強風

 しかし、ここで止めては意味がない。波洗うデッキに立って電波だけなんとか捕獲したのが、以下の写真である。本土から約300キロほど離れた場所であるが、電波は問題なく降り注いでいるようだ。ただし、とても通話のできる状況ではなかったので、テストはここで断念。

電波だけはなんとか拾えた(四角い枠内)

 日を置いて、改めて試してみた。今度は快晴のなかアンテナも5本立っている。日本付近からだと東経123度のGaruda-1は45度程度の仰角になるため、アンテナは傾いている。とはいえ、実際に使ってみるとアンテナの傾き加減は割といい加減でよく、方角さえ合っていれば直ぐに電波は拾えた。

 この状態で日本へ電話をしてみる。

 電話番号は、例えば03-1234-○△□×だったら、最初に00+81(日本の国番号)を付けて「008131234○△□×」という具合になる。

 呼び出しまでには、さすがに衛星からゲートウェイ(この場合はフィリピン)を経由するだけあってけっこうかかる。また、ときどきネットワークが切れてしまって接続できないこともあったが、もう一度かけ直せばほとんどの場合はつながった。

 一度つながってしまえば、音声自体は「ひと昔前の携帯」と言う程度で、さほど音質が悪いとも感じない。言われなければ相手も普通の携帯からかけていると思ったようだ(表示される番号が奇妙なのでかなり怪しまれるかもしれない)。

 ただし、高い高度にある静止衛星を使っているだけに、レイテンシ(遅延)はけっこう感じた。衛星の高さを約3万6000キロとして、光の速度から計算すると、衛星の垂直下にいたとしても往復で0.24秒ほどかかる。日本ならさらに0.01〜0.02秒は遅くなろう。

 このほかにゲートウェイから日本までの時間もかかるので、会話はTVの衛星中継のように少し間があくような感じになる。ちなみに、イリジウムのような低軌道の衛星の場合、地上からの距離は800〜2400キロなのでレイテンシははるかに小さく、0.03秒以下である。

 もう一つ、通話中はアンテナの向きに気をつけなくてはいけない。

 先述したように、日本のように衛星の直下でないような場所では、アンテナを真上ではなくある程度の角度(およそ45°)に傾ける必要がある。

日本から衛星を捕獲するにはアンテナを傾ける必要がある

 この状態で通話するわけだが、通話している最中にうかつに振り向いたり横を向いたりすると、アンテナが違う方向を指してしまうのだ。結果は「No network」になってしまう(短時間ならそのまま通話が継続できる)。

 もっとも、これは実験中にわれわれが考案した「一度電話機を耳から離してから振り向く」というワザを使えばよく、単なる慣れだろうということに落ち着いたのではあるが、使ってみるまでは分からない衛星電話ならではの問題といえよう。

 とはいえ、例え切れたとしても、もう一度かけ直して「いや〜衛星を見失っちゃって」などと友達に言えるのも、それはそれで楽しい。そういう自慢をしたい人は、いますぐR190を持って公海へ出るのがよかろう。

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