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機内ネットサービスめぐりBoeing陣営とAirbus陣営が対決

» 2004年04月20日 17時49分 公開
[IDG Japan]
IDG

 機内インターネットサービスプロバイダー(ISP)のTenzing Communicationsは、接続速度の改善とワイヤレス機能の追加を計画している。これにより、Boeingが近く提供開始を予定している話題の競合サービスによる追撃をかわしたい考えだ。

 現在、米国や国外の幾つかの航空会社がTenzingサービスを採用しているが、業界観測筋によれば、同サービスのアップグレードにより、今後全く異なる2つのタイプの機内インターネットサービスモデルの間でバトルが勃発することになるかもしれない。

 Boeing傘下のConnexion by Boeingが提供するWi-Fi対応の機内インターネットサービスについては、独Lufthansa航空が今月中に長距離旅客機でサービスの提供を開始する予定だ(3月26日の記事参照)。このシステムは1機当たり約100万ドルの導入コストがかかると見られている。一方、Tenzingのサービスは機能は限られているものの導入コストは非常に低く、既に900機の飛行機に導入されている。Tenzingの株式は航空機メーカーのAirbusが一部保有している。

 現行のTenzingサービスは、この1年間でCathay Pacific、Continental Airlines、United Airlines、US Airwaysなどが採用しており、ユーザーは機内でノートPCを使って通常のアカウントからメールを送受信できる。専門家は、このサービスには企業ユーザーによる強力な需要があるはずだと指摘している。またこのサービスは、既に多くの航空機に装備されている機内の電話インフラを用いるため、ほとんどの場合、航空会社はサーバソフトをインストールするだけでシステムを稼動させられる。

 導入コストがほとんどかからないとはいえ、最近のWall Street Journal紙の記事でTenzingも認めているように、このサービスは今のところ、それほど多くは利用されていない。このサービスには、RJ11電話コードを介して接続しなければならない、接続速度が128Kbpsと遅い、仮想プライベートネットワーク(VPN)機能をサポートしない、大容量のメールや添付ファイルを利用する場合に割増料金がかかるといった制限がある。一方、Connexion by Boeingはダウンロード速度が5Mbpsでアップロード速度は1Mbps、VPNも含めあらゆるインターネット接続がサポートされ、ユーザーの利用料金はTenzingとほぼ同程度だ。

 そこでTenzingは自社のサービスを企業ユーザーにアピールすべく、アップロード速度とダウンロード速度を共に1.7Mbpsまで高める計画だ。またEmirates航空が初めてのWi-Fi対応のTenzingサービスの提供を予定している。

 Emiratesは今月始動予定の機内メールサービスを、業界初の商用Wi-Fi機内サービスだと宣伝している。ただし、Lufthansaに先を越される可能性もある。Emiratesは新しいAirbus A340-500機でWi-Fiと有線接続の両方をサポートし、その後すべての航空機に装備を拡大していく方針だ。またファーストクラスとビジネスクラスの乗客には、RJ45イーサネットジャックとノートPC用の電源ソケットが提供される。

 技術コンサルタント会社E-principlesのディレクター、ロビン・デューク=ウーリー氏によれば、ワイヤレス接続は便利なだけではなく、企業ユーザーはいずれワイヤレス接続を期待し、要求するようになる可能性があるという。「Wi-Fiはほとんどの新規ノートPCで標準の機能となるだろう。そうなれば、機内でWi-Fiを望む声も高まるだろう。この市場はWi-Fiという選択肢に行き着くはずだ。問題は、ケーブル接続がこの市場を軌道に乗せる有効な第一歩となるかどうかだ」と同氏。同氏によれば、Emiratesとの契約はTenzingが同サービスの促進に力を入れていることの現われで「同社自身を補おうとしているのかもしれない」という。

 アナリストによれば、多数のメッセージや大きな添付ファイルをダウンロードする機会が多い企業ユーザーにとって、接続速度は重要なポイントだ。Tenzingは最近、Iberia航空の長距離旅客機A340-600とA340-300向けに、さらに高速な接続速度を提供する契約を発表した。この高速接続は今年の10月から提供される。衛星大手Inmarsatの新規サービスにより、2006年初頭からは上りと下りの速度を864Kbpsか1.7Mbpsで提供できるようになるとTenzingは説明している。

 Inmarsat VenturesのBroad and Global Area Network(BGAN)衛星サービスは今年始動の予定で、432Kbpsのチャンネルを提供し、航空機は2つか4つのチャンネルを購入して地上のブロードバンドと同程度の速度を提供できる。ほとんどの国際線航空会社は既に電話とコックピットの通信用にInmarsatの機器を装備しているため、128Kbpsから864Kbpsへのアップグレードはシンプルかつコストのかからない移行になるはずだとTenzingは表明している。

 Tenzingによれば、高速サービスに必要となる送受信機のコストは10万ドル以下。またTenzingは大容量メールの割増料金の値下げも計画しているため、このシステムはユーザーの利用料金にもメリットをもたらすことになる。

 ただし、VPNの問題はそれほど簡単には克服できそうにない。機内でのVPNサービスの現時点での重要性については、専門家の間でも意見が分かれている。多くの出張客はWebブラウザやPOP3を介してExchangeとLotus Notesの通信にアクセスできるが、現在、多くの企業ユーザーはVPNを当然と見なしている。「企業ユーザーにはVPNが必要だろう」とAviation Strategyの代表取締役マーク・ダービー氏は語っている。

 またE-principlesのデューク=ウーリー氏は、基本的なビジネスメールにはVPNが常に必要というわけではないにせよ、企業ユーザーには企業イントラネットへのリモートアクセスが必要となる場合が多いと指摘している。「イントラネットへのアクセスにはVPNが非常に重要だ。そして、取引を行なうとなればセキュアなアクセスが必要となる」と同氏は語っている。

 Tenzingの当座の次善策は、個々の企業とVPNの調整を図り、Tenzingのプロキシサーバを介してセキュアなゲートウェイを構築するというものだ。ただしデューク=ウーリー氏によれば、Tenzingのサービスのほかの点にも言えることだが、このやり方は企業ユーザーにとってあまり使い勝手の良いものではないという。「ただダイヤルアップするのとは随分と違う。機能はするのだろうが、柔軟性も重要だ」と同氏は語っている。

 Connexionのサービス始動が目前に迫る中、Tenzingの取り組みはどこかちぐはぐに見えるかもしれない。だが、何かと制限の多いこのサービスにも、少なくとも1つ有利な点がある。それは、既に提供されているという点だ。Lufthansaの初のWi-Fi対応機は今月中に登場するもようだが、Lufthansaによれば、そのほかの旅客機については装備が整うのは2005年の見通しという。また、そのほかのBoeingの顧客に至っては、自社の旅客機へのシステム装備を今年後半以降に開始する予定になっている。

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