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「ストリーミングの覇者」になるのはAppleかMSか?

» 2004年06月14日 12時34分 公開
[IDG Japan]
IDG

 米Apple Computerのメディア再生ツール「QuickTime」のダウンロード件数が2億5000万件を突破したとの6月10日のニュースを受け、業界アナリストたちは、MicrosoftとAppleはいずれも、ストリーミングメディア競争で首位を狙う態勢にあると語った。このレースの明暗は、各社が標準規格をどの程度サポートするかによって分かれるかもしれない。この点では現在のところAppleが先行している。

来る戦いに備える

 市場調査会社Frost & Sullivanによれば、現在ストリーミングメディア市場ではApple、Microsoft、RealNetworksの3社が99%のシェアを占めている。同社は具体的な内訳について直接コメントはしていないが、同社の最近の調査では、Microsoft Windows Mediaのシェアが38.2%、QuickTimeが36.8%、RealNetworksが24.9%となっている。

 Frost & Sullivanのデジタルメディア担当アナリスト、ムクル・クリシュナ氏は「私の見解としては、AppleとMicrosoftは等しく(首位狙いの)態勢を整えている――どちらが勝ってもおかしくない」と語った。「以前のように『Appleには市場に浸透していないのでMicrosoftの勝ちだろう』とは言えなくなっている。現在のAppleは浸透しており、あとはそれぞれの戦略にかかっている」(同氏)

 Appleの戦略は、標準規格――具体的には(QuickTimeの基盤となっている)MPEG-4、3GPP、3GPP2――を中心に立てられている。同社は、QuickTimeとこれら3つの標準規格の成長を、デジタルストリーミングメディアの将来と見据えている。今のところ、その成長が見込めるのは、携帯電話間のビデオ送受信が可能なネットワークが確立している環太平洋地域だが、将来的に米国と欧州地域で同時に成長が見られれば、Apple、Microsoft、RealNetworksにとって新たな市場が生まれることになる。

 クリシュナ氏は次のように語る。「機能性に関して言えば、これらビッグ3はすべて予想範囲内にある。コンシューマーにどれだけの柔軟性が提供されるか、キャリアが各社のアプリケーションをどれだけ採用したがるかにかかっている。AppleはQuickTimeとMPEG-4で一歩先んじたスタートを切り、一方Microsoftは実際に市場に定着している。Real(Networks)は欧州地域である程度の影響力を持っているが、市場リーダーを決めるのはアジア市場だ」

 3G(第3世代)携帯電話でビデオを撮影する際には、MPEG-4規格が採用されている。このため、そのビデオが携帯電話からユーザーのデスクトップPCに送信され、再生される場合は、QuickTimeプレーヤーが自動的に起動することになる。これによりAppleは、標準規格に対応した自社ソフトの広大な配信ネットワークを掌握するだろう。3G分野がAppleにとって賢明な投資であるという点でアナリストの見解は一致している。

 「投資という点で、Appleがフォーカスすべき絶好の場所であることは確かだ」とGartnerのM2メディアチームのリサーチディレクター、マイク・マクガイア氏は話している。

標準に関心を示さないMS

 Appleが標準規格の支持に突き進んだのに対し、MicrosoftとRealNetworksはその道を信じていないようだ――Appleは以前からこの2社に、標準対応のストリーミングメディア構築支援に参加するよう呼びかけているが、これまでのところ2社抜きでの開発が進められている(2000年12月18日の記事参照)。

 AppleのQuickTimeプロダクトマーケティングディレクター、フランク・カサノヴァ氏はこう語っている。「標準規格を基盤としたこのまったく新しい分野を開拓したとき、当社はReal (Networks) とMicrosoftに参加を呼びかけた。排他的な標準などあり得ないからだ。Realはプラグインを通じて、ある種代用の形で(標準を)取り入れているが、アーキテクチャのコアに組み入れるには至っていない――私たちとしては、体験を向上させるためにもそうするよう勧めている」(同氏)

 さらに同氏はこう続けた。「Microsoftは残念なことに、Windows Mediaアーキテクチャで標準規格に対応しないという異なるビジネスモデルを採用している。MicrosoftがMPEGを支持してくれれば業界全体に素晴らしいメリットがもたらされると当社は信じており、同社のサポートを心から願っている」

 Frost & Sullivanによれば、今日の市場はMicrosoftのソリューションよりもMPEG-4を支持する傾向にあるという。

 「人々はMicrosoftに縛られることを嫌っている。市場全体の感情はMPEG-4に向かっており、デフォルトはQuickTimeになりつつある」とクリシュナ氏は見ている。

シェアか売上か

 市場シェアを拡大することと、そのシェアから利益を得ることは大きく違うが、Appleのカサノヴァ氏は、同社の戦略はその両方を実現するものだと強調する。

 「3G分野には、Xserve上で完ぺきに連係するQuickTimeクライアントとQuickTime Streaming Serverを提供している。さらに当社はエンドツーエンド型のコンテンツ作成、コンテンツストリーミング・再生モデルを確立しており、数十社に及ぶ世界中の通信企業の関心(と購入注文)を引きつけている。当社は、新たな収入源を生み出すインフラ製品を販売している」と同氏は説明した。

 QuickTime Proへのアップグレードもまた、Appleに豊かな収入源をもたらした。カサノヴァ氏はQuickTime部門の売上を明かそうとはしなかったものの、その数字は「かなりのもの」であり、「QuickTimeへの投資を続けることができる」レベルだとしている。

次世代ビデオコーデック「H.264」

 Appleは現在、同社が言う「次世代ビデオコーデック」のテストを行っている(6月12日の記事参照)。4月に開催された放送機器展NABでは、先進HD(高精細)ビデオコーデック「H.264」(MPEG-4 Part 10)が披露された。ほかのコーデックと異なり、H.264には拡張性があり、コンテンツ作者は最新3G携帯電話からHDに至るあらゆる機器向けにコンテンツを作成することができる。

 カサノヴァ氏は、あらゆるメディア向けにコンテンツをエンコードできる能力を持つH.264が、今後DVD映画、CATV会社、ホテルのオンデマンドTV、次世代携帯電話など日常的に使われる機器の多くで採用される可能性を見出している。

 「(H.264は)明らかに優勢になるだろう。品質面と効率面で、これまでで最も重要なビデオコーデックになる」と同氏。

2億5000万件のダウンロード

 カサノヴァ氏は、1人で複数のバージョンのQuickTimeをダウンロードしたユーザーが一部いることを認めつつも、(ダウンロード件数)2億5000万件には、QuickTimeとともに出荷された225種のデジカメ、マルチメディアタイトル、エンハンスドCD、コンテンツ作成ツール、Software UpdateコントロールパネルまたはQuickTimeアップデート機構を通じてダウンロードされたアップデートが含まれていないことを考慮すべきだと語った。

 「当社では、これらについてどのくらい広範に配布されているかさえ把握していないため、ダウンロード件数には含めていない。ダウンロード件数のカウントに関して当社は非常に控えめだ。2億5000万件のダウンロードは、フルパッケージを実際にダウンロードした人々によるものだ――増分アップデートではない」と同氏は強調した。

 またこのダウンロード件数には、「AOL 9」、ソニーの「VAIO」などのデバイス、Hewlett-Packard(HP)、中国PCメーカーFounder Groupの製品に搭載されて流通している分のQuickTimeも含まれていないという。HPとFounderは、QuickTimeを含むiTunesのWindows版をプリインストールしている。

 QuickTimeダウンロードの大多数はWindows PCによるものだ。出荷されるすべてのMacintoshにはQuickTimeがプリインストールされており、そのアップデートはSoftware Updateを通じて入手可能となっている。

 「QuickTimeは(Windows)PC上で信じ難いほどの人気を博している。当社からダウンロードされる95%が、(Windows)PCによるものだ」とカサノヴァ氏は言い添えた。

 全体的に、Appleは市場におけるQuickTimeの成功に満足しており、「標準規格を基盤とした技術開発」という方向性にも自信を持っている。

 「当社は業界において最も速いペースで成長し、標準規格を最も遵守し、そして最も有望視されたビデオアーキテクチャを持っている。ユーザーが継続的に最新バージョンを入手している状況にとにかく喜んでいる。この数字(ダウンロード件数)は光栄だ」(カサノヴァ氏)

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