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» 2004年07月02日 18時34分 UPDATE

WebアクセシビリティのJIS化はデジタルデバイド解消の“坂本竜馬”

高齢者・障害者でもWebコンテンツにアクセスできるよう、サイト構築の基準を定めた「WebコンテンツJIS」が策定された。デジタルデバイド解消の切り札となるだろうか。

[岡田有花,ITmedia]

 「黒船に日本中が戦々恐々とし、人々が竹やりで応戦しようとする中、坂本竜馬は『黒船が欲しい』と言った」――幕末のワンシーンになぞらえて情報アクセシビリティの重要性を語るのは、NTTデータの島田孝宜チーフエンジニア(公共システム事業本部技術統括部オープン技術推進担当ユニバーサルデザイン推進グループ)。

 黒船はインターネットなどのIT技術、竹やりを構える人々は、ITを使いこなせないデジタルデバイド層。そして坂本竜馬は、ITの重要性を認識し、誰でもアクセスしやすいIT環境を作ろうとするエンジニアやJIS規格策定者、という構図だ。

「坂本竜馬」としてのJIS

 ITという黒船への恐怖感を、デジタルデバイド層から取り除き、便利な技術を万民に使ってもらうための指針を示す――黒船来訪時の坂本竜馬の役割を果たすのが、JIS X 8341だ。「8341の由来は“やさしい”。ITを人にやさしくしたい、という策定者の想いがこめられている」と、策定委員の一人でもある島田チーフエンジニアは言う。

 JIS X 8341は3部構成。第1部はアクセシブルなIT環境を構築するための全体的な指針、第2部はハード、ソフトメーカーが開発時に配慮すべき指針、第3部はWebコンテンツ作成時の基準を示す。

 第3部の正式名称は「JIS X 8341-3 高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス−第3部:ウェブコンテンツ」(WebコンテンツJIS)。6月20日に制定された。

 Webブラウザでアクセスできる情報(CD-ROMなどのコンテンツ含む)を、高齢者や障害のある人でも手軽に使えるようにすることことが目的。コンテンツの企画、開発、運用時に配慮すべき事項をまとめた。

 例えば背景と前景色には十分なコントラストをとり、識別しやすい配色にすること、文字サイズを変更可能にすること、音声ブラウザに対応することなど、計39の確保基準を示し、画面例やHTML例などを掲載している。

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アクセシビリティはいずれあなたのために

 「アクセシビリティというと、障害者への配慮が真っ先に思い浮かぶかもしれないが、障害者のうち6割が高齢者。高齢者に配慮することは、障害者への配慮につながる」(島田チーフエンジニア)。

 デジタルデバイド層の多くを占めるのは高齢者。特にインターネットを使いづらいと思う高齢者は多い。Webサイトの画面が見づらかったり、操作が難しいといった理由で、利用をあきらめる高齢者は少なくない。

 高齢者へのアクセシビリティを高めることは、ネット人口拡大につながる。2003年の国内ネット利用率を見ると、40歳代までは8割を超えている一方、50歳代は6割、60-64歳で4割、65歳以上で15%程度にとどまる。「若年層は飽和に近づいているが、高齢者層は伸びる余地が大きい」(島田チーフエンジニア)。

 2015年には4人に1人が65歳以上になるといわれている日本の現状では、サイトを高齢者に使いやすくするのは急務だ。

yu_ntt_01.jpg 50歳代以上のユーザー数伸び率は、40歳代以下よりも高い
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“先進国”米国との違いは

 米国系IT企業は、アクセシビリティへの対応を既に始めているところが多い。アドビシステムズは、Acrobat 6.0にアクセシビリティチェック機能を装備。PDF原稿の配色が見づらい場合や、ALTテキストのない画像などを指摘・修正してくれる。音声読み上げソフトベンダーとの連携も進めており、Reader 6.0以降なら多くの読み上げソフトが対応するという。

yu_net_05.jpg アクセシビリティチェック機能。問題のある箇所が黄色く表示される

 またマイクロソフトは、Windowsに音声読み上げ機能や表示色切り替え機能などを備えるほか、アクセシビリティ支援技術開発者向けに情報提供している。マクロメディアもJIS化に合わせ、Webサイトで情報提供を始めた。

 米国での取り組みの背景には、2001年に改訂された「リハビリテーション法508条」がある。同法は、公共サイトは障害者が利用可能でなければならないと定め、基準を満たさなかった場合に調達者に罰則を課す踏み込んだ内容だ。

 一方、JISは規格に準拠しているかどうかチェックする基準やリストがまだない。「基準が明確化されれば、自治体などのWebサイト調達時にJIS準拠を要求するケースが増えるだろう」(島田チーフエンジニア)。

 JISが第1の適用対象としているのは政府や地方自治体など公共サイト。総務省調査によると、自治体の8割以上がアクセシビリティへの対応を不十分だと自覚している。

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 国内企業も徐々に取り組みを進めている。NTTデータは、開発工程にJIS基準を取り入れたガイドラインを策定し、活用を始めている。富士通も早くから取り組み、独自の指針をサイトに適用(関連記事参照)している。

 「WebサイトやWebシステムの構築には、ハード・ソフト開発者、SI事業者、デザイナーなど多くの企業・個人がかかわる。JIS規格策定をきっかけに、これまでバラバラだったアクセシビリティの意識を統一できれば」(島田チーフエンジニア)。

 JIS規格は今後、ISOへの提案や、W3Cのアクセシビリティ基準「WCAG」との整合性など、国際規格への対応を進める。

アクセシビリティ向上の先にあるもの

 WebコンテンツJISに準拠したサイトが増えれば、これまでWebサイトを敬遠していた人でも利用しやすくなる。「ネットを通じて自治体運営などに参加する『e-デモクラシー』」も加速する」とNTTデータ技術開発本部 システム科学研究所の高木総一郎氏は言う。

 「自治体の行政運営に市民が参加するケースが増えているが、参加には公民館や市役所などに出向く必要があり、移動のつらい高齢者や障害者にはハードルが高い。高齢者や障害者が、遠隔地からでも無理なく参加できるネットコミュニティなどが構築されれば、政治への市民参加はさらに加速するだろう」(高木氏)。

 島田チーフエンジニアは、ネット上のシニア向けサービス市場の拡大が見込めることや、高齢者同士のネットコミュニティ形成などを、JISの先にある可能性として挙げた。

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