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ITでアートが身近に――NHK番組イベントから次のバウリンガルが?デジタルアートフェスティバル東京2004

» 2004年07月23日 16時38分 公開
[中嶋嘉祐,ITmedia]

 新鋭デジタルアーティストの作品を一同に集めた「デジタルアートフェスティバル東京2004」が7月23日、東京・有明のパナソニックセンターで開幕した。NHKのBS1で毎週土曜24時から放送中の「デジタル・スタジアム」(デジスタ)で紹介されたデジタルアートの中から、反響の大きかった作品が展示されている。27日までの開催で、入場料は無料だ。

 デジスタは若手クリエイターの発掘・育成を目標に掲げ、2000年4月に放送を開始。回を重ねるうちに「作品を見る人の反応を生で見たい」「せっかくの作品を番組だけでお蔵入りさせるのはもったいない」といった声がスタッフの中で上がるようになり、昨年からパナソニックセンターでイベントを開催する運びとなった。

photo 昨年は台風直撃で電車が運行停止になるなどの悪条件を抱えながら、10日間で1万人が来場。天候に恵まれた日は、親子連れや美大生などの若者たちで埋まり、移動に困るほどだったという。今年は5日間で約7500人の来場を見込む

 会場には、ハイテクを取り入れたおもちゃなど19点を展示する「東京ガジェット展」、デジスタのベストセレクションに選ばれた映像作品を上映する「デジスタ展」、デジスタ一押しの幻想的な作品を集めた「東京ミステリヨ」といった展示がある。ほかにも、バウリンガルの開発秘話が明かされるワークショップ(27日15時から)や、CGを使った宇宙映像を楽しめるバーチャルリアリティシアター「太陽と9つの惑星」(ほぼ1時間ごとに上映)などの企画がある。

「王様の耳はロバの耳ー」

 会場の入り口付近にある東京ガジェット展の作品は、ユーモアに富んだものが多い。

 中でも、外見上の変哲のなさで逆に気になってしまったのが「音カン」だ。パッと見ただけではただのお茶っ葉を入れるカンだが、実は“音を閉じ込める”機能がある。

photo 音カン

 ふたが開いたときに音声を録音し、閉まったら溜め込んだ音を流す――。どこかで聞いたような話だと思ったら、発想の元になったのは童話「王様の耳はロバの耳」だそうだ。

 音カンを創ったのは、遠藤孝則氏と繁田智行氏。2人は大学生のころから、直感的に使えるインタフェースについて研究している。「(ラジカセなどで親しんでいないと)ボタンを押すことが録音につながるなんて思わない」と遠藤氏。『入れた音を閉じ込める』というイメージから音カンを考えたという。

 カンの中ほどには金属板で敷居を作り、隠した下半分にふたの開閉を検知する光センサー、声の録音・再生用ICと電池を入れる。センサーが光を検知したら録音を始め、暗くなったら録音を停止して今度は再生を始めるわけだ。

 カンの中に装置をどうやって仕舞い込むかには悩んだが、もっと苦労したこともあるという。「元々は児童館の出し物で使うために依頼された作品。子供の数だけ必要で、50個も用意することになりました……」。

 音カンのほかにも、電灯の光量を調節するツマミ型スイッチに代わるものなどを考案している。明るすぎる場合は電球のイラストを黒く塗りつぶすことで光量を落とす仕掛けで、塗れば塗るほど暗くなる仕掛けにした。「昔から機械いじりが好きで、製品の仕組みを理解することに興味があった。学生時代にデザインを学び、どんなインタフェースにすれば直感的に仕組みを動かせるようになるのか関心を持った。それが創作活動のきっかけ」(繁田氏)。

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photo 実演中の繁田氏。さほど音は大きくないので、耳元まで近づける必要がある。遠藤氏は現在、色弱の人にも使いやすい携帯電話のメニューなどを研究。遠藤氏は情報科学芸術大学院大学(IAMAS)に残り、助手を務めている

「アーティスト=貧乏」の時代はもう終わり?

 「アート」と言われると、つい高尚なものかと身構えてしまう。そんな人でも東京ガジェット展に行けば、音カンをはじめ、自分の手元に置きたくなるような作品をあちらこちらで見つけられると思う。

 コースターの上にグラスがあるときだけ音楽を鳴らす「APRICOT SYMPHONIC COASTER」を考えたcanadeの山本尚明氏は、自分が日常生活の中でふと欲しいと思ったモノを創っているだけだと話す。

 「友達とコーヒーを飲んでいると、相手につられてカップを口元に運ぶことがあると思う。音楽や友達との会話が徐々に消えて、静寂が生まれる。僕はその間が好き。みんなでテーブルを囲んでいるという実感を得られるから」(山本氏)。

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photo APRICOT SYMPHONIC COASTER。コースターの下に圧電スピーカーを仕込み、机と接触した場合は振動を伝えて音を鳴らす

 東京ガジェット展には、コンテストの役割もある。来場者の投票から「東京PRIZE」(東京都知事賞)が選ばれるほか、スポンサーとして参加するタカラが選ぶ賞もある。

 タカラと言えば、ラジコン飛行船「SKYSHIP」や犬とコミュニケーションできる「バウリンガル」などの販売元。デジスタを担当するNHKエンタープライズ21の岡本美津子エグゼクティブ・プロデューサーによると、昨年受賞したクワクボリョウタ氏の「VideoBulb」も今年3月に製品化されており、今回の受賞作が製品化される可能性も十分にあるそうだ。

 「昔のアーティストに対しては、貧しい生活の中でも創作活動を続けるというイメージがある。でも、最近のデジタルアーティストには(商業主義に走らないといった)こだわりはない。仕事とアートをはっきり分けて考えている。それなら、アートで生計を立てるためのチャンスは、多い方がいいと思う」(岡本プロデューサー)。

 会場では、アーティスト自らが作品近くに立ち、来場者に説明してくれる。作品を見て、気に入った映像作家にCM制作を依頼したり、ガジェット作家に製品化を持ちかけたり――。主催者側は、そんな業界人も大歓迎のようだ。

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