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バンダイはドラえもん建造計画を成し遂げられるか?

» 2005年03月07日 04時20分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 2010年までに本物のドラえもんを作る――。バンダイが以前打ち上げた「リアル・ドリーム・ドラえもん・プロジェクト」(RDDP)は同社にとって、そしてわたしたちにとって何をもたらすのか? 先週開催された「日本SGI ソリューション・キュービック・フォーラム 2005」では、バンダイロボット研究所所長の芳賀義典氏がその熱い思いを語った。

芳賀義典氏 「日本SGIの発表したマネキン型ロボットは、人間に近づくことだけがロボットではないということを示唆した1つの例」と芳賀氏

夢・クリエイションが根幹に

 バンダイというと多くの方は「オモチャのリーディングカンパニー」と思い浮かべることだろう。限定的な部分ではラジコン二足歩行ザクなども手がけているが、なぜ同社はロボット研究を行うのか。そこには大きく分けて「21世紀のおもちゃの基礎研究」、「新しいカテゴリーへの挑戦」そして「子供に夢を提供するため」という3つの狙いが存在している。バンダイらしいのは、「子供に夢を提供するため」の部分だろう。同社が企業スローガンとして掲げる「夢・クリエイション」にも関連するが、「感動」を創りだすという分野で常に上を目指そうとする姿勢が見て取れる。

「どのように楽しいものを届けるか。提供するまでがエンターテインメント・プロバイダーの仕事」(芳賀氏)

フレンドリー・ロボティックスとロボットエンジン

 バンダイでロボット開発を行っているバンダイロボット研究所は部署名ではない。あくまでプロジェクト名である。現在、5名程度が本来の業務と兼任という形で従事している。

 研究所自体はまだまだ歴史が浅いが、バンダイとロボットの関係をさかのぼっていくと、1980年代のロボットブームあたりまでさかのぼる。科学万博のマスコットキャラクターとして「コスモ星丸」に注目が集まっていたころだ。そのころから数多くのロボットを開発してきた同社は、「フレンドリー・ロボティックス」という言葉を掲げている。これは、人間にフレンドリーなロボットで、かつ自分好みに成長させられるものであるという2つの意味を持っているという。

 また、技術的なバックボーンとなる「ロボットエンジン」については、非常にシンプルなものとなっている。あくまでセンサーを介して得た外界の情報をトリガとして、あらかじめ決められた反応を返すというものだ。後述するドラえもん・ザ・ロボットに実装されたワードスポッティング機能なども基本的にはこの延長線上にある。

ロボットエンジン バンダイの考えるロボットエンジン(クリックで拡大)

動き始めたRDDP

 それまで開発してきたロボットたちの要素技術を生かし、かつ、子供や大人に「夢」を提供するにはどうすればいいか。そうした考えから生まれてきたのが「リアル・ドリーム・ドラえもん・プロジェクト」(RDDP)である。原作者である藤子プロや多くの関係企業、ロボット研究に従事する企業・研究機関・教育機関との協力により、バンダイがその商品を開発・発売していくもので、端的にいえばロボット応用技術を開発しつつ、誰しもに愛されるキャラクターである「ドラえもん」を具現化していこうとする夢のあるプロジェクトである。

 このプロジェクトの基礎開発ラインで出てきたものを商品開発ラインに落とし込んだ最初の成果物が、2004年3月に発売された「ドラえもん・ザ・ロボット」(DTR-01B)である(関連記事参照)。「個人的には少し高かったと思う」と話す芳賀氏、2005年末には豊かな表情表現や、音声認識の機能を強化したバージョンを提供する予定であるという。もちろんここで得られた各要素技術は、技術応用ラインに落とし込まれることで、別のキャラクターでの展開など今後さまざまな派生製品が登場するだろう。

 この「ドラえもん・ザ・ロボット」とは異なる基礎開発ラインで2007年中の商品化を目指しているのが、「ドラえもん・ザ・フレンド」。こちらでは、複合のセンサーを効果的に使うことで環境を認識する点に重点が置かれたものになるようだ。

 そして、これらの基礎開発ラインをまとめたものとして2010年に提供を予定しているのが、論理型思考A.I.による自己進化型ロボット「リアル・ドリーム・ドラえもん」なのである。ここでのポイントは背格好だけでなくその振る舞いも「ドラえもんであること」、邪魔にならず、しかし必要なときにはそばにいる「気の置けない存在であること」の2点が挙げられるという。

従来のバンダイのアプローチで実現困難な部分は?

 しかし上記2点を実現するには、これまでのバンダイのアプローチでは難しい部分もある。特に、事象から演繹(えんえき)的に行動を選択する「論理判断」の部分と、外部のさまざまな反応に対して、その時に必要な情報だけを認識する「確実な認識能力」の部分は実現困難だと予想される。人間は自分の知覚を自分の関心のあることに限定できるが、ロボットでそれを実現しようと思うなら、情報を取捨選択するフレームシステムの構築は欠かせない。

 このようなこともあり、芳賀氏は現在の技術開発の方向性について、「ヒューマンインタラクション」と「カスタマイズ性」を挙げている。

 ヒューマンインタラクションの現在のアプローチは、ある程度(芳賀氏の言葉で言えばまあまあの)機能を持つ複数のセンサー信号を総合的に利用し、柔軟な構造を持つ階層的分散処理系を実現するセンサーフュージョンと、最低限の情報だけを与え、環境に対する適応能力を徐々に上げていくサブ・サンプション・アーキテクチャのようなボトム・アップ式の学習システムによるインタラクションの生成が念頭に置かれているという。前者は「ドラえもん・ザ・フレンド」で実装されてくるのだろう。また、後者はアルゴリズムからの解放を意味し、アイデアとプラクティカルなアプローチが可能となる。芳賀氏は1つの例としてテキスト理解によるプログラムなどの可能性も示していた。

メールを受信することで学習する可能性も

 かなり前の話になるが、バンダイはエボリューション・ロボティックスという企業の「エボリューション・ロボティックスのエボリューション・ロボティックス・ソフトウェア・プラットフォーム」(ERSP)を採用したと発表している。ERSPは独自のナビゲーション機能と視覚能力、開発インフラストラクチャにより、ロボットによる自律的な判断と制御をリアルタイムで可能にするもの。こういった技術も取り込まれていくのかもしれない。

 「エンターテインメント・ロボットである一方、商品として考えれば、けなげな機械、というのがキーワードになると思う。『かわいい、うれしい、愛してる』という気持ちをユーザーが持てないと一緒には暮らせない。役に立つ機械であれば家族になれるというわけでもない」と話す芳賀氏、講演の最後にはレトロな姿のロボットが子供たちと手を取り合って踊るイラストを示し、「夢のままで終わらせたくない。(このような世界を)実現したい」と述べ講演を終えた。

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