マルチメディア教材は“画面の外”へ――歴史と現在をつなぐHMD(1/2 ページ)
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とヘッドフォンを装備し、東大安田講堂に向かう並木道をゆっくり歩く。ふと立ち止まり、講堂をしばらく見上げる。また少し歩き、立ち止まり、講堂に見入る――。
HMDとヘッドフォンからは、安田講堂の歴史を映したドキュメント映像と解説音声が流れている。講堂の創設から東大生の学徒出陣、学園紛争の攻防戦――映像の安田講堂と現実のそれとが一体となり、過去の安田講堂がここにあるかのような錯覚に陥る。
これは「Past Vewer」という名の歴史学習システム。HMDで投影した過去の映像と、実際の目で見る現在の様子を重ね合わせ、歴史に対する印象と興味を深める教材だ。
HMDは島津製作所製の単眼式。ウェストポーチに入れた「VAIO U」と接続し、映像を再生している。ディスプレイ部は半透明になっており、目で見る今の安田講堂と、映像で見る過去の安田講堂とを重ね合わせられる。
映像の再生は、ワイヤレスマウスで指示する。マウスをクリックすると再生スタート。数分間のドキュメントが音声とともに流れる。章が終わると場所を移動するよう指示が入り、再度クリックすれば次の章が再生される。ユーザーの居場所や見ている対象を認識するシステムは今は組み込まれておらず、再生トリガーはマウスクリックだけだ。
Past Vewer着想の原点は、まるでドラえもんの道具。「『歴史メガネ』を作りたかった」――東大大学院情報学環の山内祐平助教授は、開発当時を思い出しながら話す。
山内助教授の研究室で研究していた大学院生・中杉啓秋さんが、2002年に修士論文として発表したPast Viewer。歴史的建造物を実際に見ながら、眼鏡のようなもので関連情報を得られないかと考えて行き当たったのが、そのころ実用化が始まったばかりのHMDだった。島津製作所を訪ね、40~50万円するHMDを購入。当時は動作が安定せず、2台も壊してしまった。
コンテンツは、NHKのドキュメント番組を再編集して作った。歴史に思いを馳せながら見られるよう、動画と静止画を織り交ぜ、ポイントごとに適切な場所に移動するよう指示するなど構成を工夫した。
VAIO Uもなかった当時、接続用PCにはIBMの「ThinkPad」を使った。もちろんウエストポーチには入らない。リュックに入れ、背負って安田講堂に向かった。
10代から40代の男女10人に使ってもらって感想を聞いた実証実験では、「歴史の中に自分が入った感じがした」「当時のことを思い、感動した」など、多くが強烈な印象を受けたと語った。「学徒出陣のシーンで泣いた人もいた。ウェアラブルディスプレイで泣いたはじめての人ではないか」(山内助教授)。
発表から3年経った今、HMDの価格は手ごろになり、PCは小型化した。「Past Viewerは実用段階に入りつつある」(山内助教授)。神社や仏閣など、古い歴史を持つ建造物と解説映像を組み合わせたり、建物にRFIDタグを組み入れ、ポイントごとに適切な解説が自動再生されるような教材ができればと考えている。
RFIDを活用、“モノ”が自身を語る
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