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SNS「mixi」が支える恋――オタクとキャリアの物語(2/3 ページ)

» 2005年06月08日 15時40分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 悩んだ。悩みながら、メール交換やデートを重ねた。その様子を、mixiの日記でも少し触れた。驚くほどたくさんの人から「面白い」「もっと知りたい」とコメントが来た。

 反響があまりに大きかったため、日記には59番さんとのことだけを書いていこうと決めた。「文章にして、気持ちを整理したかった」。12月4日、日記「59番(1) 〜出会い編〜」は、こうして生まれた。

日記「59番」

 アルテイシアさんは、59番さんの強い思いや意思の強さ、深い知識に惹かれながらも、その行動が時々理解できなかった。デートで食事代をおごろうともせず、レシートを見せてくる。漫画の話で楽しく盛り上がり、別れた後、キレながら「僕のことどう思っているんですか?」と電話してくる。これまで付き合ってきた“モテ系”恋愛コード――1軒目はおごる、愛の告白はさりげなくスマートに――が、まったく通用しなかった。

 いつもの軽妙な文体に、混乱した気持を織り交ぜてた日記には、何人もの男性から500文字、1000文字の長いレスがついた。「59番さんの気持ち、分かる」「キャリア女性の恋愛文法をオタクにあてはめないで」「説明してあげないと分からないよ、他人同士なんだから」――59番さんに共感する人々からの丁寧なアドバイスが、心底ありがたかった。

 「キャリア友達に相談していたら『オタクはやめとけ』って言われたと思います。mixiに書いててよかった」。自分がいかに狭い世界で生きてきたか、コメントを通して実感したという。

 デートを繰り返し、アニメや漫画、恐竜、昆虫について語り明かし、クリスマスには2人で「ガンダムツリー」「ガンダム川柳」を作り、心のキズを見せ合い、つらかった過去を明かし、ケンカもして、セックスして――日記には、59番さんとの日常を面白おかしく、でも赤裸々につづった。評判が評判を呼んで読者が増え、たくさんのアドバイスをもらった。読者と一緒にアルテイシアさんは、59番さんという“異文化”への理解を深めていった。

 好きになった人はこれまで1人だけ、女の子と付き合ったこともない――そんな59番さんは、アルテイシアさんという異文化に1人で立ち向かい、時には傷ついたり疲れたりしながらも、深く理解していった。

クリスマスに作ったガンダムツリー。「トップにはクリスマスらしく黄金に輝く百式をあしらって。左下にはジャブローでジムを一撃中のシャアズゴ。見えないけど、背面にはエルメスと、ラストシューティング中のガンダムさんが」

 アルテイシアさんと59番さんの恋は、現在進行形。関係が安定してきた今も時おり、日記を更新して現状を報告する。

「キャリアとオタクは似ている」

 「オタクとキャリアは、実は相性がいいんです」とアルテイシアさんは言う。オタクは、得意分野について過剰なまでの知識を持ち、とことん極めていく。キャリアも仕事を極め、上へ上がろうと努力し続ける。「何かが“過剰”というところが似てる」

 自分を曲げてまで異性にモテたいとは思わない点も似ているという。「キャリア女性には『男好みのかわいい女性になってたまるか! という意識があると思います。例えば、合コンの席で『お酒飲めない、タバコ苦手なの』と男が気に入るセリフを言うのは簡単です。でもそこまでしてモテたくない」

 オタクも、一般的にカッコいいとか、モテるとされることに反発をおぼえる人が多い。「オタクは、バリバリ仕事して純白のメルセデスに乗り、いい女を抱くのが男の道――といった価値観から解放されていて、自分の道を究めることに価値を置いている人が多いと思います。もともと女性に興味がない人もいますし。59番も『コンパで女の子の相手するぐらいなら、世界の謎について考えていたい』と言っていたぐらい」

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