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“官製SNS”で地域コミュニティー復活 行政スリム化も

» 2005年06月21日 13時41分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 ソーシャルネットワーキングサイト(SNS)で、失われた地域コミュニティー復活を――総務省がSNSを地域活性化に生かそうとしている。

 総務省は12月ごろから、地方自治体やNPOなどの協力を得て、東京都千代田区と新潟県長岡市でSNSコミュニティーを構築する実証実験を行う予定だ。まず住民同士の交流ツールとして活用してもらい、ゆくゆくは行政参加のきっかけに育てるほか、災害時の連絡手段にも活用する計画。ネットとリアルを縦断して住民同士が助け合える体制を作り、行政のスリム化にもつなげたい考えだ。

photo 「現実社会とネットが融合したSNSなら、コミュニティーの絆を結び直せるのでは」総務省情報政策企画官の牧慎太郎さん

 自治体の電子会議室がなかなか使ってもらえない――そんな問題意識が出発点だった。ネットが本格的に普及し、電子会議室を設置する自治体は全国で733を数えるが、ほとんどは参加者が少な過ぎたり、匿名の参加者によって荒らされるなどといった問題を抱えており、健全に機能しているのは4団体しかないという。

 議論が活発な電子掲示板を調査すると、地域情報の掲示板などコミュニティー機能が充実していることが分かった。どんなテーマでも自由に議論できるコミュニティーがあれば、行政問題も気軽に論じてもらえる――信頼性の高いコミュニティーが構築できるSNSに着目したのはこういった背景からだ。

 実験では、SNSで地域の人々と自然に交流してもらいながら、行政に関する意見も吸い上げる計画。本名参加を原則にし、本人認証を確実にして荒れるのを防ぎつつ、若年層や一人暮らしのサラリーマンなど、地域コミュニティーや行政に対して消極的な人々の意見を取り入れられるツールにしたい考えだ。

SNSを災害時の“草の根メディア”に

 SNSは災害情報伝達にも威力を発揮する。新潟県中越地震時は、mixi上に専用コミュニティーが登場。被災地のユーザーが状況をリアルタイムで伝えた。

 「マスメディアで報道されるのは、被害のひどい地域の衝撃的な映像ばかりだが、被災住民が本当に必要なのは、どこなら安全か、どこに食料があるのかといった生活情報」――総務省情報政策企画官の牧慎太郎さんは、SNSに災害時の“草の根メディア”としての役割を期待する。

 情報の提供元は、個人情報をある程度開示し、実名を前提にしたコミュニティーのメンバー。匿名で誰でも投稿できるブログや掲示板などと異なり、信頼できる情報が集まるだろうと期待する。

SNSコミュニティーが税金を減らす?

 SNSで地域の人々が盛んに情報交換したり、オフ会を開いて地域コミュニティーが活性化すれば、行政のスリム化につながる可能性もある。例えば、SNSを通じて近所の人の顔や名前、人となりが判明すれば、夜道も必要以上に警戒する必要がなくなり、地域パトロール関連コストを削減できる──かもしれない。ごみや子育て、介護の問題など、近所の人と協力すれば解決できるものは多そうだ。

 「都市部は住民1人1人が孤立しているために、行政に依存する割合が高くなる。コミュニティーで住民同士がつながれば、住民だけで解決できる課題もあるだろう。少子高齢化で税収が伸びない中、地域コミュニティーを活発化することは重要」(牧さん)

地域SNSを全国へ

 長岡市と千代田区の実証実験は今年12月ごろから始める計画。住民同士の結束が強い長岡市は、SNSでさらに交流を深めたい考えだ。オフィス街の千代田区は、区内に通勤する人と地域住民とのコミュニケーションをSNSでとってもらい、お互いに理解を深めてもらう。

 両地域に住んだり働いている人なら、招待なしで参加できるようにする予定。本名参加が原則だが、本名の公開レベルは選べるようにし、友人以外はニックネームで通すことも可能にする。

 日記や掲示板の情報を外部にRSS配信したり、外部ブログやSNSの日記を取り込む機能も盛り込む。ほかのSNSをメインに使っている人は、地域SNSの更新情報をメインSNSにRSS配信すれば、2つのSNSをバラバラに管理せずに済む。地域の地図や災害、天気情報など、地域限定の情報も得られるようにする予定だ。

 実験終了後は、地域の飲食店やスーパーの広告を入れるなど、ビジネス化も検討する。実験がうまくいけば、地域SNSを全国に広げ、日本全体の活性化につなげたい考えだ。

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