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北尾氏がソフトバンクに残した置手紙(1/2 ページ)

» 2005年06月23日 17時54分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 ソフトバンクの記者発表会は、孫正義社長自らが司会役を買って出ることで知られる。22日に開催された株主総会でも、いつものごとく孫社長がマイクを握って議事を進行していた。しかしある瞬間、主役の座が「孫社長以外のある人物」に移った。

 その人物とは、取締役を退任する北尾吉孝ソフトバンク・インベストメントCEO。同氏は発言の求めに応じて、異例ともいえる長口上を述べた。

 その内容は、「これ以上赤字経営を続けることは許されない」という手厳しいもの。ソフトバンクへの愛情の裏返しともとれるが、孫社長への諫言ととることもできた。発言中、北尾氏の胸中に去来したものは、何だったのだろうか。

「北尾氏はなぜ取締役を辞めるのか?」

 ソフトバンクの株主総会では、株主からさまざまな質問が飛んだ。株主の基本的な要求は「株価を上げてほしい」ということ。ただし、その日はもう1つ頻繁に投げられる質問テーマがあった。「なぜ、北尾氏はソフトバンクの取締役を退任するのか」だ。

 もともと北尾氏は、その有能さを見込まれて孫社長にヘッドハンティングされたといわれる。先のライブドアによるニッポン放送株式買収劇でも、北尾氏は“ホワイトナイト”として登場し、圧倒的な存在感を示した。これほど優秀な人材が、なぜソフトバンクを出て行くのかというのが株主の問いだ。

 孫社長はこの理由を「北尾氏はファイナンス事業に集中する」ためだと答えた。

 「(北尾氏は)ソフトバンクの成長に多大な貢献をしてきた。心から感謝している。守備範囲が広くなったためファイナンス事業に専念したいということだが、ファイナンスグループがソフトバンクの重要な企業集団であることに変わりはない」

 孫社長はまた、北尾氏とは今後も頻繁に会合を重ねると強調。北尾氏も横から、孫氏との協力関係は続けていくと言い添える。

 「孫さんという、偉大な経営者に感謝している。孫さんとは“同志”のつもりだ。離れても、お役に立てることがあれば全力でソフトバンクのサポートを行いたい」

 しかし、この説明に半信半疑な株主も多かった。北尾氏はもともと独立の気概を持っており、これをきっかけにソフトバンク本体とは距離感を置くのではないか。そう見る業界関係者も多い。

 北尾氏自身、折に触れ「ソフトバンク本体が赤字覚悟の投資を重ねるため、ソフトバンク・ファイナンスとして追加投資を行えない」と発言している。ソフトバンクの庇護のもとにあるのでなく、自らリスクテイクして単独事業に乗り出したい。そんな思いが北尾氏にあることは事実だろう。

 株主からは「これからは資金調達も(北尾氏任せでなく)社長自ら手がけることになるのか」という質問も出た。これに対し孫社長は「元富士銀行の副頭取の、笠井和彦氏がいる」と紹介する。北尾氏の役割は、笠井氏に引き継がれることを示唆した。

そして始まった、北尾氏の長口上

 会場では個人の株主から、孫社長ばかりが話すのでなく取締役にもしゃべらせてはどうかという素朴な意見が出た。これに応じて、孫社長は各取締役に一言ずつ自己紹介をするよう促す。

 宮内謙氏をはじめ、各役員が手短かに自分の役割と抱負を述べる。やがて北尾氏の順番が回ってきた。

 そして、北尾氏の長口上が始まった。

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