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「旅の窓口」創業者が斬る、ネット宿泊予約戦国時代

» 2005年08月30日 13時00分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 ネット宿泊予約業界が揺れている。楽天トラベルの手数料値上げに呼応して、ライブドア傘下のベストリザーブが手数料無料キャンペーンを発表。楽天トラベルは実質値下げを余儀なくされた。ヤフーとリクルートは宿泊分野で提携し、楽天に迫る規模に拡大した。

 楽天トラベルの前身である「旅の窓口」(創業時は「ホテルの窓口」)を1996年に立ち上げ、2000年にベストリザーブを創業した小野田純社長に、各社のビジネスモデルの違いや、ネット宿泊予約業界の今後を聞いた。

photo 「コンピュータ屋として、情報流通に興味がある」と小野田社長

 小野田社長は「楽天トラベルの手数料値上げは、販売手数料を取るビジネスとしては正しい選択」と見る。楽天トラベルは、旅の窓口時代から一貫して一律6%だったシステム利用料を、利用形態に応じて7〜9%にアップした。楽天トラベル向けに部屋を多く確保すればするほど、また、楽天サイト上での露出を高めるほど、利用料が上がる仕組みだ。

 楽天トラベルのビジネスモデルは、ネットビジネスよりもリアルビジネス――旅行代理店の手法に近いと小野田社長は言う。ネット以前の宿泊予約では、施設よりも代理店が優位。代理店に多額の手数料を支払ったり、代理店主催の研修に参加するなどして関係を強化するほど、部屋を優先的に売ってもらえるという仕組みになっていたという。楽天はこのモデルに回帰しようとしていると、小野田社長は分析する。

 ベストリザーブのネット宿泊予約の思想は、旅行代理店モデルとは一線を画す。「提供するのは情報伝達のプラットフォーム。最適な宿を探せる専用電話みたいなもの」――部屋を売り込む営業マンではなく、ホテルとユーザーを最適にマッチングするシステムだけを提供し、宿の価値はあくまでユーザーに決めてもらい、特定の宿を推薦することはない。

 中立の立場を貫くため、サイト上には宿の広告も表示しない。「東京証券取引所は、株式売買のプラットフォームを提供するけれど、『この株買いなはれ』とは言わないでしょう。それと同じイメージ」(同社Livedoor事業推進部の藤村寿之企画部長)

 一律5%のシステム利用料は、モノを売るための対価ではなく、公平な情報流通の対価。販促の努力は、個々のホテルに任せる。「ネットを活用して、オープン、自由、平等な仕組みで、情報流通を加速させたい」と、元船舶エンジニアで技術志向の小野田社長は話す。

photo ベストリザーブ。初期画面から検索結果まで、最少の操作ステップ、最短時間で到達できるよう設計してあるという

「これまでと同じことをやっても面白くない」

 宿側の対応によって手数料を上下したり、サイトに広告を掲載して広告料収入を得れば、売り上げはアップするかもしれない。しかし「世の中の仕組みと同じことをやっても面白くない」と小野田社長は笑う。ネットだからこそできる中立的なプラットフォーム作りにこだわる。

 勝算はある。価格比較サイトの流行につれ、ユーザーが販売のカラクリに気付き始め、店舗側の思惑通りにモノを買わなくなってきた。この流れは今後も加速すると小野田社長は考え、宿泊料金を公平に比べられるベストリザーブ型システムのニーズは高まると見る。この手法で旅の窓口やベストリザーブを順調に成長させてきたことも、自信につながっている。

競争で業界は伸びる

 「公正な競争が行われる限り、業界は良くなる」と小野田社長は期待する。楽天トラベル、ヤフー、リクルート、ベストリザーブ……競争が激化する中で、それぞれが信じたビジネスモデルを追求していけば、業界が活性化するという。

 旅行予約全体に対してネット予約が占める割合は、5%前後で頭打ちの状態。他事業者と切磋琢磨を重ね、この状態を打開していきたいという。

 これまでホテル予約専門だったベストリザーブだが、レジャー向け旅館の予約サイトを9月に作る計画だ。「ビジネス向けのホテル予約は抵抗なくネットを使ってもらえるが、レジャー予約となると条件が厳しくなり、成功している事業者はいない」(小野田社長)。食事の内容や景色、到着時間、温泉の様子――宿に直接電話して細かい条件を知った上で予約したいというニーズは高く、ネット予約は苦戦しているという。「誰も成功していない分野だからこそ面白い」と、小野田社長は楽しそうに話した。

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