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» 2005年09月05日 13時32分 UPDATE

何でダメなの? ネットを使った選挙運動

ネットを使った選挙運動は違法――公選法のこんな規定が、ネットユーザーを困惑させている。ネットで何をするとダメなのか。なぜダメなのか。公選法改正の可能性はあるのか、探った。

[岡田有花,ITmedia]

 衆院選が公示された8月30日夕方、民主党のWebサイトの更新内容が削除された。「公職選挙法に抵触する疑いがある」と総務省に指摘されたためだ。

 自民党は、民主党が公示日以降もサイト更新やメルマガ配信していたことが公選法違反だと批判。民主党も負けじと、過去の選挙で自民党がサイトを更新していた、などと指摘した。

 更新が公選法違反にあたるかどうか――難しい判断に迫られているのは、政党のサイトだけではない。社長が衆院選に出馬したライブドアは、同社ニュースで選挙関連ニュースの扱いを縮小。立候補決定後は、名物の社長ブログも更新を停止した。

 「livedoor Blog」は、一般ユーザーに対しても「選挙運動に当たる書き込みは削除する可能性がある」とトップページで告知。ブログ各社も選挙運動の禁止を規約に盛り込んでいる。

ネット選挙運動、「文書図画の頒布」が違法

 ネットで選挙運動ができない根拠は、公選法142条にある。「選挙運動のために使用する文書図画は、はがきやビラ以外頒布できない」と規定されているのだ。総務省は、Webサイトやメールが「文書図画」にあたると解釈。サイトやメールを使った「選挙運動」は、候補者も第3者も行ってはいけないことになっている。

 「選挙運動」とは何を指すのだろうか。東京都選挙管理委員会によると「特定の選挙で、特定の候補者を当選させることや落選させることを目的に、投票行為を勧めること」。つまり「この人に投票してください」「この人には投票しないように」といった記事をブログやサイトにアップしたり、メール送信することは違法と考えられる。

 政党や候補者の場合は、投票行動を直接促す記述がなくても、選挙期間中にサイトを更新したりメールマガジンを配信するだけで選挙運動ととらえられる可能性もあるため、各党や候補者は、期間中の更新を止めているのが実情だ。

 公選法が禁止しているのは、選挙運動だけではない。予測市場の仕組みで政権獲得政党を予測する「総選挙はてな」も、公選法違反に当たる可能性があるとユーザーから指摘を受けた。根拠は138条の「人気投票の公表の禁止」。選挙で当選する人や、政党別の得票数を予想して公表してはいけないという規定だ。

広告や音声はOK?

 こうした規定の下、政党や候補者はネットの活用に腐心している。2000年の衆院選で、ある候補者がネットで音声を配信するという作戦に出た。公選法が規制を明文化しているのが「文書図画」だけなことに目を付け、選挙期間中に真っ白なページを作り、演説の音声を公開するといった試みを行ったのだ。

 自民党や民主党は、公示日以降もポータルサイトに党のバナー広告を掲示している。バナー広告は選挙運動に当たらない「政治活動」だと両党は考えているようだ。

 都選管によると、政治活動とは「政治上の目的をもって行われる一切の活動から、選挙運動にわたる行為を除いたもの」。つまり、選挙運動以外の政治的な活動すべてを指す。党のWebサイトの更新は「選挙運動」でも、広告出稿は「政治活動」に当たるという解釈のもと、広告は黙認されているようだ。

photo 「NIKKEI NET」に掲載された自民党の広告バナー
photo エキサイトでは先週、トップページに入る前に、民主党の全面広告が表示されていた

 一般ユーザーが開設しているサイトやブログには、「○○を当選させよう」「○○を落選させよう」などと、選挙運動に該当するとみられる記述もある。しかし「ネット上の情報はぼう大で、1件1件チェックできないのが現状」(都選管)。ネットで発信する人が増えるにつれ、公選法のほころびが目立ってきた。

10年前からあった改正議論

 ネット選挙運動を解禁しようという動きは、10年も前からあった。国会で初めて取り上げられたのは1995年の参議院決算委員会。1998年には民主党議員らが中心となり、Webサイトを使った選挙運動を解禁するための公職選挙法改正案を提出した。同様な法案は2001年にも提出。2002年には総務省が「IT時代の選挙運動に関する研究会」を発足し、ネット利用の問題点や実現性を議論。ネット利用を解禁すべきと結論づけた。解禁法案は2004年にも提出されている。

 何度も法案が提出されながら、法改正には至っていないのはなぜだろうか。慶應義塾大学政策・メディア研究科の金子郁容教授は「インターネットは既存の秩序を壊すパワーがあると思われているので、自分の立場を危うくする可能性がある制度を作ることに対して、法律を作る議員自身が消極的になっている可能性がある」と指摘する。

 麻生太郎総務相は、今年2月の衆議院予算委員会でネット上の選挙運動解禁について問われた際「インターネットの全然わからぬ方もいっぱいいるので、なかなか難しいところだと思っている」と発言。ネットに疎い議員が少なくないことを示唆した。「ネットというよく分からないもので選挙運動が可能になると、以前と同じ選挙運動では当選できなくなるかもしれない」――改正に前向きでない議員には、こんな思惑もありそうだ。

 都選管は「デジタルデバイドの問題もある」と話す。ネット選挙運動が解禁されれば、選挙運動がどんどんネットにシフトしていき、ネットを利用できない人が情報を得にくくなってしまう恐れがある、という考え方だ。

ネット選挙運動解禁の可能性

 自民・民主がネット利用をめぐって泥沼合戦を繰り広げた今回の選挙戦。選挙後の国会で、ネット選挙運動解禁の議論は避けられないだろう。民主党のマニフェスト(政権公約)では、ネットによる選挙運動の解禁を明言。自民党の武部幹事長も、ブロガーとの懇親会で「(公選法を改正してネット選挙運動が可能になるよう)次の選挙に向けて積極的に努力したい」と話しており、解禁には前向きな姿勢だ。

 解禁されるとすれば、どんな形になるだろうか。2002年の研究会は「候補者や政党は一定の制限のもと、第3者は自由に、Webサイト上で選挙運動をできるようにする。なりすましや誹謗中傷を防ぐため、氏名などの虚偽表示罪を整備する。メールによる選挙運動は、迷惑メールの大量送信などにつながる恐れもあるため禁止」などいった改正案を提示していた。民主党のマニフェストは「Webサイトや電子メール、ブログ、携帯電話などを活用した選挙運動を解禁する」とうたっている。

 ネット選挙運動が解禁されれば、大きな勢力が人手をかけてブログに大量書き込みをするなど、財力があり、ネットに強い陣営が有利になることも考えられる。「マスコミ報道(の受け止め方)と同様に、有権者の判断力が求められることになる」(金子教授)

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