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漫画数万冊?違法ネット公開「464.jp」運営者ら逮捕

» 2006年02月14日 19時21分 公開
[ITmedia]

 「コミックの配信を停止しました」とそのサイトが告知したその日、運営者は家宅捜索を受けていた。福岡県警は2月14日、スキャンした漫画本の画像を権利者に無断でWebサイトにアップロードし、ユーザーに無料で閲覧させていたとして、著作権法違反(公衆送信権の侵害)の疑いで、東京都大田区の漫画・ネット喫茶経営者の男(52)ら3人を逮捕した。

 男らは「464.jp」という古本販売サイトを開設。「漫画5万冊が試し読みできる」という触れ込みで漫画の画像データを大量に公開し、インターネット上でも一部では有名な存在だったが、今年1月下旬、突然更新を停止していた。

photo 無断で公開されていた単行本
photo 現在は更新を停止している「464.jp」。「このままでは問題が出ると考え配信を停止いたしました」としているが、実は家宅捜索でサーバなどを押収されていたため

 逮捕されたのは経営者の男のほか、千葉県市川市の自営業の男(43)、同区の会社員の女(34)。

 調べでは、男らは昨年7月から、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」「MONSTER」「ラブひな」など9作品をスキャンしたデータを、自ら同区内に設置したサーバに複製し、サイトを通じて不特定多数のネットユーザーに対し自動的に送信できるようにしていた疑い。

 コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)などによると、昨年9月下旬ごろから、弘兼憲史さんら漫画家約750人でつくる「21世紀のコミック作家の著作権を考える会」と出版社が、男に対し画像掲載を止めるよう文書などで警告してきたが、画像の掲載とサイトの運営はそのまま続けていた。県警がサイバーパトロールで同サイトを発見し、権利者側に照会したのをきっかけに、同会らが告訴。県警が捜査を進めていた。

 県警は1月25日、男が経営する漫画喫茶などを家宅捜索し、漫画の単行本1万7552冊とサーバ31台、PC5台、スキャナ3台、単行本をスキャンする際に使った裁断機などを押収。逮捕した2月14日も家宅捜索し、出納帳などを押収した。

「どうせ引っかかるなら全部公開」

 ACCSによると、漫画喫茶経営者がサイト運営全般を、自営業者がサーバ構築を、会社員がスキャンなどを分担していた。男らは容疑を認めており、報道では「漫画喫茶の宣伝のために数ページずつ公開したが、どうせ著作権法に引っかかるのなら全部公開しようと思った」などと話しているという。

 「464.jp」は「立ち読み」と称して漫画を公開し、検索ページに掲載されていた作家数は649人に上っていた。ネットユーザーの間では「無料で大量の漫画が読める」と話題になり、アクセスが急増したため、昨年12月20日ごろから無料の登録制に移行していた。

 4月1日から「立ち読み」を月額380円の有料制とし、登録を始めた1月23日から家宅捜索までの2日間で約1000人の登録があったという。停止中のサイトでは「著作権料を支払う仕組みを提案した」などと説明しているが、「協議をした事実はまったくない」(21世紀のコミック作家の著作権を考える会代理人の山崎司平弁護士)という。

 サイトでは「全日本漫画著作権管理機構」が監修していると説明し、あたかも著作権処理を行っているような印象を与えていたが、実体がない架空の団体と見られる。同団体名義のドメイン名は漫画喫茶経営者の男が取得していた。

 今後、民事訴訟で損害賠償を求める可能性については「慎重に対応して検討したい」(山崎弁護士)とした。

「漫画界の衰退を防ぐため」

 「漫画界全体に対する侵害行為。放置すれば漫画界全体が衰退する」──ACCSが開いた会見で、ビデオ参加した同会の弘兼憲史さんは力説した。

photo 会見にビデオで参加した弘兼憲史さん

 同会は、いわゆる新古書店や漫画喫茶から漫画家に対し正当な対価が支払われていない、として漫画家の権利を守る目的で2000年に発足。書籍・雑誌に対する貸与権を認める著作権法改正を働きかけてきた経緯がある。著作権侵害への対応は今回が初めてというが、「もっと金をくれ、と言ってるわけではない。正当なリターンがないと人材が集まらなくなり、業界が衰退すれば、読者も本を読めなくなる。衰退を防ぐための活動だと理解してほしい」(弘兼さん)という。

 ようやく立ち上がり始めた電子書籍ビジネスへの影響を懸念する出版社側の思惑もある。今回、作家側の告訴に協力したのは講談社、小学館、集英社ら8社。小学館の大亀哲郎知的財産管理課長は「電子書籍市場の半分がコミックになるのでは。出版社としてもネットで読むということを視野に入れ、トータルで作家のためになるように取り組んでいる」と話す。

 「464.jp」で無断公開されていた画像は「ページが斜めだったり、折れたままだったりと非常に雑。描いた側としては感情的には面白くない」(弘兼さん)というものだったが、一方でははるかに“高品質”なデータが雑誌や単行本の発売直後にファイル交換ソフト「Winny」などで出回っている実態もある。

 ファイル交換ソフトによる漫画データの違法流通については「認識はある」(ACCSの葛山博志・戦略法務室長)が、「権利者と今後必要があれば対応する。今の段階でどうするということは決めていない」(同)とした。

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