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» 2006年04月07日 15時17分 UPDATE

ITは、いま:個人アニメ作家にFlashがくれた“力” (1/3)

安月給で馬車馬のように働く末端クリエイターの環境に、1人の制作マンが疑問を持った。「ネットがあれば、個人クリエイターでもビジネスできるはず」――彼は都内を飛び出して島根に移住。個人製作で食べていこうと決めた。

[岡田有花,ITmedia]

 映像も音声も、ほとんど1人で作った個人製作のFlashアニメ「古墳GALのコフィー」「秘密結社 鷹の爪」が、4月5日からテレビで放映されている。1人のクリエイターが、作品の力だけでテレビ局と渡り合う――「Flashがなければあり得なかった」と、作者のフロッグマンこと、蛙男商会会長・小野亮さん(34)は語る。

画像 作業中の小野さん

 「年収60万円ぐらいでした」――2002年、31歳で島根県に来た当時、生活は苦しかった。夢は映画監督。18歳から映画・テレビ業界で制作スタッフとして働いた後、結婚を機に島根に移住した。「映像制作は島根でもできるはず。Webムービーで発信すればいい」とそう考えていた。

 甘かった。島根には、役者もいなければスタッフもおらず、実写映像の自主制作は不可能に近かった。100坪で家賃3万円と土地ばかり広い家に住み、町の祭りの撮影など、近所の人からたまに頼まれる映像仕事でわずかな謝礼金をもらいながら、妻の仕事の収入と、貯金を頼りに暮らした。

 東京で働いていたころ、映画やテレビ業界の仕組みに疑問を持っていた。映画がヒットし、何十億円もの興行収入が入っても「製作委員会」が持って行く。末端のクリエイターは、寝る間もなく働いても月給たった10万円――そんなケースが珍しくなかった。

 製作委員会との意識のずれも感じた。委員会を構成する配給会社や出版社──出資者──が要求する「売れる作品」は、クリエイターが作りたい作品とは必ずしも一致しない。しかし製作費を出してもらう以上、委員会には逆らえない。

 テレビ番組でも、クリエイターの立場は弱い。クリエイターが所属する制作会社は、テレビ局の下請け。安い製作費で番組を作らざるを得ないケースが多く、給料も安かった。生活が困窮し、能力があっても辞めざるを得ないクリエイターも見てきた。

 一方で、巨額の製作費を出せず、コンテンツ不足に悩むメディアも多い。「個人クリエイターが安価にコンテンツ製作できれば、ニーズはきっとある」。作りたい物を作りながら、クリエイターにもお金が回ってくる仕組みが、ネットを使えば作れそうな気がしていた。

Flashアニメならできる

 とはいえ、役者もスタッフもいない島根では、実写映像の制作は無理。目を付けたのがFlashアニメだ。「Flashなら1人でも作れる。これだ!と思いました」。アニメ制作の経験はゼロ。映画業界出身のFlash作家・青池良輔さんの作品に出会い、自分でもできそうと感じた。

 マシンは、近所のスーパー「ジャスコ」で8万円で買った、型落ちのSOTEC「Afina」。ストーリーを作り、声色を使い分けながら音声を録音し、あらかじめ描いておいた絵と組み合わせ、Flashで簡単な動きをつけた。

 同じ絵は2度と描けないから、最初に描いた絵を最後まで使い回した。通常のテレビアニメと比べると動きは極端に少ないが、ストーリーやせりふ回しで勝負。数分のストーリーを、数時間から数日で作れるノウハウを確立した。

 初の作品「菅井君と家族石」は、都内で活躍していた黒人ソウルミュージシャン家族が島根に移住し、極貧にあえぎながらも面白おかしく暮らしていくというシュールなギャグストーリー。島根で苦しい生活を続ける自分自身の境遇を重ね合わせていた。「半分自暴自棄でした」

画像 菅井君と家族石。背景は自宅の写真だ

 2004年2月の公開後、雑誌やニュースサイトで紹介され、8月には1日に4万ページビューを稼ぐ人気コンテンツに。しかしページビューでは食べていけない。仕事が欲しかった。

 作品を地元企業やテレビ局に持ち込み「アニメコンテンツが必要な時に声をかけてください」と売り込んだが、反応はほとんどない。妻の稼ぎを頼って食いつないでいた。

 そんな折、妻が妊娠し、仕事を辞めざるをえなくなる。生活はいよいよ困窮し、出産費用の50万円も払えそうにない。「自分が産婆になってとり上げるか」――こんな会話も、冗談ではなかった。

 映像制作をあきらめ、近くにできたローソンの店員になろうと本気で考えたが、妻に止められた。なんとか食いつながないと――賞金付きのコンテストを見つけては「菅井君〜」を出品したが、ことごとく落ちた。

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