ITmedia NEWS >

掃除機とコンロで作る2足歩行ロボット(1/2 ページ)

» 2006年05月08日 13時29分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 ロボットクリエイターの高橋智隆さん(31)は、滋賀県にある実家の2階で1人、ロボットを手作りする。アイデアを練り、スケッチを描き、不確定なまま作り出す。「あとは試行錯誤。ギリギリ入らないからもうちょっと削ろう、とか。職人ですね」

 設計図はない。「設計図が必要なのは、開発メンバーと情報を共有したり、部品を外注に出して作ってもらう時。1人でやるときは不要」。商品化が決まると、現物で納め、そこから設計図を起こす。

 材料は、ホームセンターと通販でそろう。機材は掃除機とカセットコンロ。誰でも手に入れられるものから、彼にしか作れないロボットが生まれる。

 削った木材に瞬間接着剤をかけて木型を作り、カセットコンロで熱したプラスチックを押し付け、裏から掃除機で空気を抜いて成型する。掃除機は、切りくずの掃除にも使えて一石二鳥だ。

 コンロの熱で部屋は暑い。窓を開け放して換気しながら、1日中作業する。温度が上がりすぎ、掃除機の電源が切れてしまうと、家用の掃除機も参戦。交代でクールダウンさせながら使う。

 工房は寝室も兼ねている。机と本棚を一緒にした手作りベッドから起き上がると、そのまま顔も洗わず作業。「毎日がロボット合宿状態」。とても効率がいいと笑う。

画像 高橋さんと、手作りのロボット「クロイノ」(左)、FT(右)。(京都大学構内にあるベンチャービジネスラボラトリーのオフィスで)

バーチャルが、好きになれなかった

 分解したり作ったりするのが好きだった。車を改造したり、釣りのルアーを手作りしたり。「改造癖という、病気のようなものがあって」

 小さいころ「鉄腕アトム」を読み、天馬博士やお茶の水博士にあこがれたこともあった。でも大学は文系。銀行にでも就職するのかなと、漠然と考えていた。

 就職活動期に自己分析し、改めて、ものづくりが好きな自分に気づいた。第一志望は釣具メーカー。歯車で動く、実体のあるものを作りたかった。

 ちょうどITバブルのころ。「ぜんぶがバーチャルに置き換わっていくという雰囲気が好きになれなかった」。目に見えて、手に感じられるものを作りたかった。

 釣具メーカーの面接には、釣竿のリールを手作りして挑んだ。でも落ちた。悔しくて、考えた。究極のものづくりって何だろう――答えは、車かロボット。どちらにするか。車はもう完成していて、シェアを奪い合うしかない。ロボットはまだこれから。市場を作っていける。ロボットに決めた。

 最初の大学は内部進学だったから、改めて受験なるものも体験してみようと、ロボット工学が学べる京都大学物理工学科を目指し、受験勉強を始めた。

 何でも寝転がってやるタイプ。ベッドに寝そべって勉強しながら、気が散るとノートの隅に落書きした。業界を驚かせたあのアイデア――足裏に電磁石を埋め込み、鉄板の上を歩く2足歩行のロボット――も、最初はノートの落書きだった。

 合格すると早速、落書きのアイデアを形にした。ガンダムのザクのプラモを改造した2足歩行ロボが、半年ほどで完成した。2足歩行の実現には大企業も頭を悩ませているなどまったく知らず、「1人で操縦してウヒョウヒョ言ってた」だけだった。

 ビジネスになるとは思っていなかったが、「いい感じにできたからちょっと見てもらおうか」と、大学にある「ベンチャーラボラトリ」(VBL)に持ち込んでみたところ意外なほど高評価。TLO(技術移転機関)を通じて特許を取得し、おもちゃメーカーに持ち込むと、商品化が決まった。

 評価に背中を押され、1つ、また1つとロボットを作っていった。「ROBODEX 2002」に、唯一の個人参加者として出品した「マグダン」や、卒業研究として作ったキュートな外観の「ネオン」。理論的な論文が求められる研究室で、「理論もへちまもなく、ただコツコツ作って、制作日誌みたいなので無理矢理卒業させてもらった」という。

画像 ネオン

 同級生が大学院に進学していく中、1人、起業を選んだ。「字を読むのが嫌いなんですよ。大学院に進んでも、人の論文ばかり読まなきゃいけない。論文で、しかも英語で書かれるとなおさら嫌」。そんな風に言って笑う。

 起業や産学連携、ロボットが盛り上がってきていた時期。VBLなら、京大キャンパス内に格安でオフィスを借りられる。条件はそろっていた。「好きなことを続けてくには、結局、起業の方がいいのかな、と」。2003年、28歳でロボットベンチャー「ロボ・ガレージ」を設立。ずっと1人で運営してきた。

画像 VBLの共用オフィスで
       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.