ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

8月に投入する新しいOpteronで逃げ切りを図るAMD

» 2006年06月05日 00時00分 公開
[笠原一輝,ITmedia]

挑戦者と王者の立場を入れ替えた、AMDとIntel

 AMDの話題を取り上げる記事で、いきなり競合他社のイベントの話をするのもなんなのだが、2月にサンフランシスコで行われたIntelの開発者向けイベントであるIntel Developer Forumにおいて、ちょっと話題になる出来事があった。それがIntelによる、AMDベースのシステムとの性能比較だ。これまでIntelは決して競合他社との比較を行ってこなかったのだが、IDFのパット・ゲルシンガー副社長の基調講演において、AMDのOpteronを搭載したSun MicrosystemsのシステムとIntelの次世代Xeonである“Woodcrest”(ウッドクレスト、開発コードネーム)のシステムとを比較したワット性能(消費電力あたりの性能)データを公開したのだ。

 これまで、こうした比較は言ってみれば、AMDの十八番だった。Intelは常に王者の側にいたから、競合他社と比較する必要がなかったのだ。それに対して、AMDは追いかける側だから、どうしても王者と比較をしなければいけなかったのだ。

 だが、今はそれが明らかに入れ替わった。AMDが王者として君臨し、Intelがそれを追いかける側に回ったのだ。Intelが性能比較を行ったという事実は、このことを象徴していると言ってよい。

IntelがAMDを追いかけるプロセッサ設計のトレンド

 「弊社としては、Opteronのワット性能をアピールしてきた。そうしてアピールしてきたことにより、競合他社がよりワット性能を重視した新しい製品を出す。そのことはOpteronに対する最大の賛辞だと考えている」と日本AMD マーケティング本部マーケティング部長 神谷知信氏は、Opteronのワット性能をアピールする。

 AMDが2003年にリリースしたOpteronは、消費電力あたりの性能でIntelのXeonをリードしてきた。これはIntelのXeonが、クロック周波数を向上させることを性能向上の方向性として設計されたことに対して、AMDのOpteronはクロック周波数を上げなくても効率を改善することで、性能向上するように設計されたためだ。最高グレードのOpteronは、クロック周波数にして1GHz低くともXeonを上回る性能を発揮する。さらにピーク時の消費電力(CPU業界の用語ではTDP:Thermal Desgin Power、熱設計消費電力と呼ばれる)では、Xeonが100ワットを軽く超えてしまっているのに対して、Opteronは最大でも95ワット、低消費電力版に関しては55ワットに抑えることを可能にしてきたという歴然とした事実がある。

 「近年、サーバー市場では、省電力に対する要求が高まっている。それは単なる消費電力の低減という意味でもそうだし、ブレードサーバーのような発熱量を抑える設計が重要視されるソリューションでもそうだ。そうした製品でのニーズにOpteronがマッチしている」(神谷氏)との指摘通り、こうしたワット性能の高さはアドバンテージの1つになっている。実際、そうした点などが評価されてOpteronのシェアは急速に高まっている。先日も、これまでかたくななまでにAMDプロセッサを採用してこなかったDellがOpteronを採用する予定であることを明らかにするなど、市場での存在感は増していくばかりだ。

 Intelが第3四半期に導入する予定のWoodcrestでは、Xeonのこの弱点を補うために、AMDのOpteronと同じように、クロックが現行のXeonに比べて下がるものの、効率を改善して性能向上させる設計アプローチをとる。IntelがIDFなどで明らかにしたところによれば、TDPは現行Xeonの130ワットから85ワットまで劇的に下がるという。

 Intelとしては、このWoodcrestを持って、AMDのOpteronの伸張をなんとか食い止めたい、そういう意図があるものと考えられている。

次世代Opteronで引き続きリードを拡大するとAMD

 そうしたIntelのアクションに対して、王者となったAMDが繰り出す秘密兵器が、次世代Opteronだ。「AMDは今年後半に次世代Opteronを投入し、大きな性能向上を実現する」(神谷氏)との通り、AMDはまもなく次世代Opteronを投入する。 この次世代のOpteronでは、いくつかの改良が加えられている。「大きな改良点は、(メモリインタフェースが)新たにDDR2 SDRAMに対応すること。さらに、これまで“Pacifica”と呼ばれてきた仮想化技術「AMD-V」に対応していることや新しいソケットに対応することなどなどがあげられる。しかし、TDPに関してはこれまで通りのラインを維持する」(神谷氏)との通り、次世代Opteronではいくつかの改良点が加わるのに、TDPに関しては現状のラインが維持されることになるという。

 ただ、これに関しては若干の補足説明が必要になるだろう。実際には、AMDは次世代Opteronに関しては3つのラインを用意しているという。OEMメーカー筋の情報によれば、AMDは次世代Opteronで120ワット、95ワット、65ワットという複数のTDPの枠に対応した製品をラインアップしていくという。神谷氏は具体的な数字には言及しなかったものの、次世代Opteronで3つの枠のTDPがあることを認め「より性能が必要なお客様には現状よりやや高いものを、そして依然として効率を重視するお客様には現行製品と同じレンジのものを提供していく」(神谷氏)とのべ、引き続きAMDとしてワット性能にこだわっていく姿勢を示した。

 ところで、Opteronが95ワットを維持するといっても、IntelのWoodcrestは85ワットになるではないか、という指摘もでてくるのではないだろうか。確かにこの数字だけをみれば、次世代OpteronがWoodcrestに劣るように見えてしまう。だが、神谷氏は「実際はそうではないはずだ」という。「IntelのTDPはピーク時の数値ではなく、あくまでOEMベンダがデザイン時に使う数値。実際に製品がでてみないとなんとも言えないが、ピーク時でとってみればTDPの差は小さいと考えている。また、IntelのTDPにはメモリコントローラ分が含まれていない。弊社のプロセッサはメモリコントローラがCPUに統合されているので、その分も勘案する必要がある」(神谷氏)と、AMDとしては依然として次世代Opteronで電力効率でリードを保てると考えているようだ。

FB-DIMMに比べて消費電力が少なくて済むRegistered DIMMを採用

 さらに、メモリの比較でも、AMDは競争で有利にたてる可能性がある。「弊社の次世代OpteronはRegistered DIMMのDDR2 SDRAMを採用する。これはIntelが採用を予定しているFB-DIMMのDDR2 SDRAMに比べて消費電力の点で有利だ」と神谷氏は指摘する。

 IntelはWoodcrestにおいて新しいメモリモジュールの規格であるFB-DIMM(Fully Buffered DIMM)を導入する。FB-DIMMは、メモリコントローラとメモリの間にバッファチップを置き、バッファからメモリへアクセスすることで、汎用のDRAMを利用しながらメモリコントローラとDIMM間をポイント・ツー・ポイントで接続することができるようにする規格だ。FB-DIMMを採用することで、1つのメモリコントローラに接続できるメモリモジュールの数を増やすことができる。

 現在のIntelのプロセッサで採用されている、チップセットのノースブリッジにメモリコントローラを内蔵するやりかたでは、大量のメモリを搭載可能とするには、1つのメモリコントローラに接続できるメモリモジュールの数を増やさないといけないので、FB-DIMMのようなアーキテクチャーは必然となるのだ。通常のDIMMでは、1つのメモリコントローラに接続できるソケットはせいぜい4つが限界だが、FB-DIMMのような仕組みをとることで最大で8つまで増やすことができる。

 だが、AMDのOpteronのアーキテクチャーではこのFB-DIMMを必要としない。というのも、AMDのOpteronではプロセッサにメモリコントローラが内蔵されているため、プロセッサが増えた分だけメモリソケットを増やしていくことができるからだ。CPUソケットを増やせばその数倍のメモリソケットを増やしていくことが可能になるのだ。例えば、シングルプロセッサで4ソケット可能である場合、2ウェイになれば8ソケット、4ウェイになれば16ソケットという具合にだ。

 こうしたアーキテクチャーを採用しているため、AMDは次世代Opteronでも、現在のDDR SDRAMと同じようなRegistered DIMMを採用する。このRegistered DIMMは、FB-DIMMに比べて消費電力の点で有利だ。なぜかと言えば、FB-DIMMにあるバッファチップが必要ないからだ。ある業界関係者によれば、バッファチップの消費電力は最大で5ワットにも達するという。つまり、メモリを最大限搭載するような使い方をすれば、メモリモジュールの数×5ワット分の消費電力が増えていく計算になる。

 こうしてシステム全体の消費電力を計算していくと、消費電力の点で、引き続きAMDがIntelをリードするというAMDの主張は十分根拠のあるものだと言える。

CPU-メモリ間の接続イメージ 従来型Xeon、Woodcrest、OpteronそれぞれのCPU-メモリ間の接続イメージ

新しいインフラとなるソケットの導入でクアッドコアにも対応へ

 将来へ目を向けるのであれば、新しく導入されるCPUソケットにも注目したい。従来のOpteronでは940ピンのSocket 940が採用されていたが、次世代Opteronでは新しく1207ピンの「Socket F」が導入される。「既存のお客様にはご迷惑をおかけする形になるが、この新しいソケットは、AMDの新しいインフラのスタートラインとなる。2007年に導入を予定しているクアッドコアのCPUへのアップグレードも可能となる」(神谷氏)と、新しいソケットは、次世代Opteronだけでなく、さらにその先にあるクアッドコアのOpteronもサポートすることができるという。

 このように、挑戦者Intelを迎え撃つ新王者AMDの体制は万全だ。あとは、両方の製品がリリースされ、そのベンチマークの結果がどのようなものになるかにかかっている。DDR2 SDRAMによる性能向上が、次世代Opteronの大きな武器となるが、さらにその先には、昨年ドイツにオープンした新工場Fab36で生産されることになる65nmプロセスルールのOpteronも控えており、面白い戦いになるのではないだろうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.