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61歳人気ブロガーが語る、Web2.0時代のアクセスアップ術

» 2006年08月25日 13時59分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 田中善一郎さん(61)がブログを始めたのは、勤めていたIT系出版社の定年を前にした2年前。「年を取って、聞いたことや学んだことをすぐに忘れてしまうようになったから。ボケ対策、備忘録です」――あくまで自分用だったはずが、熱心な読者が付き、ページビューは1日約2万。何もしなくても自然に増えるという。

 ブログの名は「メディア・パブ」。海外のオンラインメディア事情を英文ネットニュースやブログから読み解き、明快な文章で解説する。出版社でネット戦略を練っていた当時、集めた情報を整理するために書き始めた。

画像 シンプルデザインの「メディア・パブ」。日本のブログは、ニュースに対する感想や意見を書いたものが多いが、田中さんはファクトやデータを重視して載せている

 読者を呼ぶつもりはなかったから、デザインはデフォルトのまま。トラックバックも打ったことがない。だが検索エンジンやブログの口コミ、ソーシャルブックマーク、RSSリーダーといった「Web2.0的」な仕組みが、新規の読者を次々に運んでくる。「ブログが勝手に読者を連れてきてくれる。昔のホームページなら、ありえなかったでしょうね」

 ブログ以前、個人サイトでアクセスを集めるには、Yahoo!カテゴリなどネットの“マスメディア”に登録したり、人気サイトに「相互リンク」を頼んで手作業で露出を高める、といった努力が必要だった。リンクを「トップページ限定」としているサイトも多く、メディアの入り口はあくまでトップページ。個々の記事はトップページからたどって探し出すものだった。

 だがGoogleの登場とRSSリーダーの普及で、環境は変わった。トップページだけでなく、検索でひっかかる個々のキーワードや各エントリーへの固定リンクがサイトへの入り口の役割を果たすようになり、RSSで配信したエントリーのタイトルが読者が呼び込む。トップページのブランドではなく、個々の記事が集客エンジンになる。

検索向きの記事、RSSリーダー向きの記事

画像 YouTubeについては「Napstarと似ていると言われるが、音楽業界すべてが反対していたNapstarと異なり、YouTubeは全員が敵ではない。映画業界がプロモーションツールとして活用するなど、業界の一部に“応援団”ができている」と語る

 読者の数や性質、アクセス経路は、記事によって異なるという。例えば、メディア事情に関する堅い話のエントリーにはそれほど多くのアクセスは集まらない。しかし一度アクセスした人がRSSリーダーやソーシャルブックマークに登録してくれることが多く、リピーターを呼び込む。

 一方で、YouTubeなど旬のネタに関するエントリーはアクセスが多く、その大半をYahoo!検索などの検索エンジンからが占める。だがこういったエントリーの新規読者は、リピーターになる確率が低い。

 堅い記事が固定客を、旬の記事が大量の“一見さん”を呼び込み、全体のアクセスが伸びていく。独自性のある記事さえ書いていれば、PRにコストをかけなくても、新規顧客がひとりでに増える。

 ブログは情報整理ツールとしても秀逸だ。田中さんは以前から、さまざまな情報整理法を試してきた。新聞の切り抜きに始まり、KJ法、超整理法――どれも長続きしなかったが、ブログだけは続いた。ランダムに書き入れたエントリーを、時系列やテーマ別などさまざまな切り口で整理でき、ネットさえあればいつでもどこでも取り出せる点が気に入っている。

シニアブロガーのススメ

 日本で人気のブロガーは、20〜30代の若者が多い。田中さんもブログの内容から20〜30代と勘違いされることが多く、会うたびに驚かれる、と笑う。

 米国では、ベテランのメディア業界人による良質なブログが多く、田中さんの貴重な情報源になっている。「日本人のベテランは『新しいことを若い人と競争しても勝てない』と思い、ネットに手を出さない人が多い。だが米国人は、新しいメディアに飛びつく傾向がある」

 ブログ開設時、出版社の役員だった田中さんだが、ブログは肩書きは明かさずに書き続けた。「個人の名刺・個人のブランドを高めるために何ができるか試してみたかった」からだ。

 その結果、オンラインメディアに詳しい1ブロガーとして、多くの若者から「会いたい」「意見を聞きたい」とメールをもらい、出版社で培った人脈とは全然違う分野の人に出会えた。定年退職後、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)「GREE」を運営するグリーに監査役として勤め始めたが、同社の田中良和社長とも、ブログを通じて知り合った。

 定年を控えた団塊の世代に、ブログ活用を勧める。「団塊の世代は、会社の名刺で生活してきた会社人間が多く、退職後に地域の集まりなどで人と会っても、『元○○社の誰々です』という自己紹介しかできず、話が続かない。ブログ1つで、会社とは別の軸で人間関係を築くことができ、若い人とも交流できる」

「ブロガーネットワーク」――次に来るネットメディア

 「去年のCES(Consumer Electronics Show、米ラスベガスで開かれる家電の見本市)でビル・ゲイツは、PC雑誌ではなくガジェット系ブログのインタビューを受けた」――ブログのメディアパワーが徐々に強まっていると田中さんは話し、新たなメディアとして「ブロガーネットワーク」に注目する。

 ブロガーネットワークは、カリスマブロガーが複数の人気ブロガーを束ね、読者や広告を集める仕組み。米国では、シリコンバレーの有名ブロガーを中心とした複数のブロガーネットワークが形成され、ビジネスとしても成立ちつつあるという。個人の声の集合が、マスメディア以上の力を持つ時代を予見する。

 とはいえ、日本のネットメディアは、米国ほど急進的には変わっていかないだろうと見ている。

 「米国は移民の国で、若い世代がどんどん増えていくが、日本は高齢化社会。マスメディア主導で情報を供給する仕組みに慣れている中高年にとって、ブランドのある会社がおすすめ記事を提供する“Web1.0的”な仕組みの方が安心できる。日本では古いメディアが長続きするだろう」

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