現実の世界でも学校や職場に1人はいたようなオピニオンリーダーが、他のメンバーへ与える影響は大きいものがあります。
500万人以上の登録ユーザーを集めて国内最大のSNSとなったmixiは、早くから音楽に関するオピニオンリーダーが多かった、という特徴があります。mixiユーザーには音楽好きが多く、全コミュニティの10.3%が音楽関係といい(関連記事参照)、音楽業界の市場規模と他のジャンルの市場規模を比較しても音楽に興味を持つ人が相対的に多いといえます。
音楽という広いすそ野をもったジャンルでオピニオンリーダーを多く持っていたことは、その後に他のジャンルのピニオンリーダーを集めることにも貢献したのではないか、と思われます。
米国のSNSでも、後発の「MySpace」が、先行していた「Friendster」を追い越し、今では圧倒的な差をつけています。「MySpace」も開始当初から音楽関係のオピニオンリーダーとファンが多く集っていた特長があり、この点はmixiと共通しています。
音楽に関するオピニオンリーダーが重要だからといって、音楽係SNSが成功している訳ではなく、むしろ苦戦しているものも多いのが現状です。
ネットワーク外部性を引き出すには、発信者と受信者の境目はあいまいで頻繁に入れ替わる、双方向参加型のアーキテクチャが必要ですが、音楽系のSNSは、音楽の作者(発信者)と受信者が完全に別れているものが多く、ネットワーク外部性を引き出しにくくなっていると考えられます。
デザインやインタフェースなどの機能が他のSNSより優れていることは当然のことながら重要ですが、それらの機能の中でも特に注意すべきことは「軽さ」です。
トップシェアを持っているサービスは、必ずと言っていいほど競合他社よりも軽快に動作するという特長があります。CGMプラットフォームではないネットサービスでも、最もユーザーに支持されているものの大半に、この傾向が見られます。これはトップになったから軽いのではなく、サービス開始当初から軽かったのです。
例えばGoogleも、ページランクなどさまざまな優れた点はありますが、根本的に優れているのは、その情報量に対して検索結果の表示が、他の検索サービスよりも0.2〜0.3秒くらい速いことだと思います。
ナローバンド時代は、ページが表示されるまでに8秒以上かかると利用者は他のサイトに行ってしまうという「8秒ルール」などが言われていましたが、ブロードバンドが当たり前の現在は、テレビリモコンのスイッチ並みのレスポンスがないと、ユーザーはストレスを感じるのではないかと思います。
先に述べたいくつかの重要な要素が伴い、会員が増加し、クリティカルマスに達した時、CGMプラットフォームはネットワーク外部性を発揮し、爆発的な成長を始めます。
クリティカルマスとは、強力なネットワーク外部性を発生させる為に必要な会員数の閾値(いきち)であり、それは各CGMプラットフォームよって異なります。Web2.0の概念における「双方向参加型のアーキテクチャ」が優れているものほど低く、それがないものは、永遠に届かないこともあると考えられます。
mixiが過去に発表したデーターからクリティカルマスを推測してみましょう。
時期 | ユーザー数 | ユーザー数に到達するまでの1カ月間平均の増加数 |
---|---|---|
2004年3月3日 | オープン | |
同7月26日 | 5万人 | 約1万1000人 |
同11月25日 | 20万人 | 約3万7500人(最も伸び率が高い) |
2005年11月21日 | 30万人 | 約5万人 |
同4月3日 | 50万人 | 約9万5000人 |
同8月1日 | 100万人 | 約12万5000人 |
2004年7月26日から11月25日までの増加率が最も高く、会員数15万人あたりからネットワーク外部性が強く発生しているように見え、ここでクリティカルマスに達しているようです。
その他のSNSでも会員数15万人を超えるものはありますが、mixiが15万人あたりでクリティカルマスに達したのは、先に述べたいくつかの重要な要素が、他のSNSよりも少しだけ優れていた結果だと思われます。
ブログやSNSを見渡すと、機能面の圧倒的な違いや、何十年も早くサービスを立ち上げたものは存在していません。しかし、圧倒的な会員数を獲得したCGMプラットフォームには、サービス開始当初に「マッチングの精度」「オピニオンリーダー」「双方向参加型のアーキテクチャ」「軽さ」などがほんの少し優れていました。その結果クリティカルマスに到達し、ネットワーク外部性が強力に発揮され、爆発的な成長期を迎えていると言えそうです。
GoogleとMySpaceの提携の可能性
Googleが、米最大のSNS、MySpaceに検索サービスを提供する契約を結びました(関連記事参照)。Googleが持つ、ネットワーク外部性を引き出すために必要な基礎的な条件である「マッチングの精度」(サーチエンジン)とMySpaceの「オピニオンリーダー」、「双方向参加型のアーキティクチャ」ネットワーク外部性の強化をする上で理にかなっており、さらなる驚異的な勢力へと成長するでしょう。
第3回:口コミがマスコミを超える日
第4回:「のまネコ」「やわらか戦車」に見るCGMビジネスのリスクとチャンス
ライブドア社長室長 コーポレート担当。グループ会社全体のWeb戦略を推進している。
1996年、メール配信システムのシノックスの取締役として創業から参加。退職後、ユーティリティー系ソフトを販売するプロジーグループに入り、オンザエッヂ(現ライブドア)による買収と同時にオンザエッジに合流。
2002年、オンザエッヂの旧ライブドア買収に伴い、無料プロバイダー・ライブドアの責任者として運営に当たる。2003年、ポータルタルサイト ライブドア立ち上げ。同時にスタートしたブログが国内最大のサービスに成長した。このほか、約2年半で50以上のネットサービスを立ち上げる。
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