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ブランドイメージの「負の側面」を考えよう

» 2006年10月03日 17時33分 公開
[Peter Coffee,eWEEK]
eWEEK

 米Intelが1991年に「Intel Inside」のブランディングキャンペーンを開始したとき、わたしの頭の中ではMBA的な発想から、すべてのPCメーカーに対する警報が鳴らされた。各社とも、常識よりも近視眼的な欲得に駆られ、共同マーケティングに大金を投じていたからだ。

 聞くところによれば、それまでコンポーネント部品の1サプライヤーにすぎなかったIntelに対し、これらのOEM各社がもたらしたブランド価値は数十億ドルとも言われている。Interbrandの2006年の調査によると、Intelブランドの価値は約300億ドルに相当し、Coca-Cola、Microsoft、IBM、GEに次いで世界で5番目に高い価値を有するブランドとなっている。わたしに言わせれば、Intelブランドの消費者認知度の少なくとも3分の2は、大手PCベンダー各社のTV広告が流れるたびに、いつも最後におなじみのメロディーとともにIntel Insideのロゴを15年間にわたり見続けさせられてきた成果だ。

 ソニーがノートPCのメーカー各社向けに製造したバッテリーをめぐる騒動からも、コンポーネントのブランディングをめぐる問題の新たな側面が見て取れる。わたしはDellなどが提供するポータブル機器の広告で「ソニー製バッテリー」がうたわれているのを見たことがないが、こうしたデバイスのメーカー各社が素晴らしい柔術でこの事態を切り抜けたのは確かだ。つまり、危険性を備えた自社のハードウェアに対する責任をうまいことソニーになすりつけたというわけだ。

 わたしが思うに、もしソニーがOEM向けのバッテリーセルを製造する会社を別の社名でスピンオフしていれば、ノートPCのメーカー各社は顧客の怒りの矛先を、例えば、「The Lucky Acme Energy Module Company」などといった無名の会社に向けさせるのに、もっと苦労していただろう。だが実際には、ソニーというブランドは、人々の怒りや落胆の格好のターゲットとなるのに十分な認知度を有している(同社のブランド認知度は世界第26位)。

 Webサービスやホスティング型のSaaS(サービスとしてのソフトウェア)の登場により、エンタープライズアプリケーションのベンダーについても、同様の問題が生じている。おそらくTargetやBordersなどの大手小売りサイトで「Amazonのサーバを使用」といったロゴが表示されることはないだろうが、先月、Amazonのサーバが減速した際には、3社のサイトすべてに影響が及んだ。なぜなら、これら競合2社のサイトは部分的にAmazonがホスティングしているからだ。また、IBMとSunがサービスプロバイダーやリモートITホストとしての立場の確立に成功したことも、リスクの可能性を示唆している。多数の有名企業に一斉に責任追及される立場に置かれるようなことになれば、こうした企業のブランドはアクシデントが1つ起きただけでも、取り返しのつかないほど、あるいは少なくともひどく深刻な状態まで、汚されてしまう危険性をはらんでいる。

 Disneyが一般成人向けの映画製作事業に乗り出した際、同社は新規分野でDisneyブランドを危険にさらすようなことはしなかった。同社はPG指定やきわどいコンテンツ向けのプラットフォームとして1984年にTouchstoneブランドを立ち上げ、現在、その系列会社のTouchstone Televisionが「デスパレートな妻たち」や「ロスト」といった大人向けの番組を提供している。ブランドは資産としてとらえ、慎重に吟味しながら確立し、使用するのが賢明だ。

 今日のように資本や才能が世界規模で移動する世の中において、ブランド価値は、新規市場への参入を目指す競合他社が潤沢な資金をもってしても、まったくのスタートアップ企業では太刀打ちできない数少ない資産の1つだ。どのようなブランドアイデンティティを確立し、それをどのように活用するかについては、慎重な判断を下さなければならない。そして、ブランドの背後にある状況をよく調査し、説明責任の所在を明らかにしておくことも肝要だ。

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