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» 2006年11月08日 20時25分 UPDATE

「著作権保護期間の延長、議論を尽くせ」――クリエイターや弁護士が団体発足

「著作権保護期間の延長にメリットはあるのか」――クリエイターや弁護士など64人を発起人とした団体が発足し、保護期間延長を議論なしで決定しないよう文化庁に要望書を提出した。Webサイトなどで意見交換を促し、望ましい著作権のあり方を考える。

[岡田有花,ITmedia]

 「著作権保護期間の延長については、国民的な議論を尽くすべきだ」――クリエイターや弁護士など64人が発起人となった団体「著作権保護機関の延長問題を考える国民会議」は11月8日、文化庁に対して、議論を尽くさずに保護期間を延長しないよう求める要望書を提出した。今後はWebサイトやシンポジウムを通じて意見交換を促していき、望ましい著作権のあり方を考える。

画像 「著作権保護機関の延長問題を考える国民会議」発起人

 日本の著作権法では、一般著作物の著作権・著作隣接権は著作者の死後50年間保護される。しかし米国や英国、フランスなど欧米先進国の多くでは70年間。日本音楽著作権協会(JASRAC)や日本漫画家協会など16の著作権保護団体は、日本も欧米に合わせて70年に延ばすべきと訴え、このほど文化庁に要望書を提出した(関連記事参照)

 保護期間の延長は、著作物のあり方を大きく左右する可能性があるにも関わらず、十分な議論がされていない――同会議はこんな危機感から設立された。保護期間の延長にただ反対するのではなく、著作権について改めて考え、議論を尽くして適切な結論を得ることを目的としている。

 会議の呼びかけ人は、ライターの津田大介さんと弁護士の福井建策さん。発起人には、編集者の竹熊健太郎さんや劇作家の別役実さん、ライターの小寺信良さん、スタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授などが名を連ねている。

 11月9日にWebサイト開設して意見を発信していくほか、12月11日に、延長賛成派・反対派を交えて議論するシンポジウムを、東京ウェイメンズプラザホールで午後5時半から開く予定。その後も議論を続けていく。

延長すれば「創作意欲が高まる」?

 「米国が著作権保護期間の延長を毎年のように要求してきている。国内の著作権管理団体も延長するよう要望している。だが、延長することは本当に、日本にとってメリットになるのだろうか」――福井弁護士はこう指摘し、会議で賛否さまざまな意見を集めていく方針を示した。

 著作の多くをフリーで公開することで知られている評論家・翻訳家の山形浩生さんは、保護期間延長に反対の立場だ。「私が2050年に死ぬとして、2100年まで守られていた著作権が2120年まで延びると言われても、『すばらしい! これで安心して創作活動できる!』などと思うわけがない」(山形さん)

 弁護士の金井重彦さんは「著作者が生きている間は権利が守られるのは重要。だが、死後に孫の貯金通帳に印税が振り込まれることを、著作者は創作時に想像するだろうか」と疑問を投げかける。

延長で文化は発展するのか

 別役さんは、「銀河鉄道の夜」の戯曲化の経験から、延長に反対する理由をこう語る。

 「銀河鉄道の夜はかなり以前から戯曲化したいと思っていたが、宮沢賢治作品の中でも特にガードが固く、許可がもらえなかった。死後50年経ってやっと使えるようになり、まずアニメのシナリオにし、戯曲にした。このように活用されることで、作品も活性化されたのでは。著作権法保護期間が切れるということは、私財が公共の物になるということ。自分の戯曲も含め、公共物になる時期は早いほうがいいと思う」(別役さん)

 山形さんは、自由な2次利用が著作物の価値を高める可能性を指摘する。「ジョージ・オーウェルの小説や、ケインズの経済学書ももうすぐ著作権が切れるため、翻訳しようと楽しみにしている。海外の名著で、偉い先生がひどい翻訳をしているが、偉い人だから誰も手を出せない、というケースもある」(山形さん)

 また、著作者の死後何十年も経つと、権利を相続している人を探し出すことも難しい。「延長してしまうと、2次利用したい時に著作権者を捜すことが今よりも大変になり、古い著作物が死蔵される可能性が高まる。延長は、著作権法の目的としている『文化の発展』につながるのだろうか」(金井弁護士)

延長で誰が得するのか

画像 竹熊さん

 竹熊さんは「延長で誰が得するのか分からない」と疑問を投げかける。「著作権管理団体はみな、権利者に代わって守ると言っているが、50年が70年に伸びたところで権利者が得しているのか、正直言って分からない」

 小寺さんは「著作権保護期間を延長しても、クリエイターには全く関係ない、という事態もありうる」と指摘する。著作財産権が譲渡可能。保護期間が延長されても、得するのは著作者本人の相続者ではなく、財産権の譲渡を受けた第三者、という可能性もある。

国際標準は70年なのか

 欧米先進国では保護期間を70年としている国が多い。ただ福井弁護士によると、著作権に関する国際条約「ベルヌ条約」加盟国のうち、70年に延長したのは3分の1だけ。「古い作品の輸出額が多く、延長すると得になる国が延ばした。日本は今延長しても経済的にはデメリットの方が大きいのでは」

 米国で弁護士経験がある城所岩生成蹊大学法学部教授は、米国が70年に延長した背景に、先行して70年に延ばしていた欧州との不均衡を是正し、米国が不利にならないようにするため、という理由があったと指摘する。

結論ありきではない議論を

 会議には、延長反対派だけでなく、態度を保留している人、条件によっては延長に賛成する人などさまざまな立場の人が参加しているが、「より深い議論が必要」という点では意見が一致している。

 城所教授は、延長については「ニュートラルな立場」だが、議論を深める必要があると語る。「1998年、米国で著作権保護期間が延びた。『ミッキーマウス保護法』と呼ばれる通り、ディスニーのロビー活動の成果ではあったが、米国では広く議論され、最高裁まで行った」(城所弁護士)

 日本では、映画の著作権保護期間が2003年に70年に延長された。映画配給会社代表を務めるくまがいマキさんは「映画業界関係者は、保護期間の延長について知らなかった。欧米で延長が決まった際はきちんと議論されており、日本で議論がなかったのは恥ずかしいこと」と語る。

 慶應義塾大学経済学部の田中辰雄助教授は、延長する場合としない場合の経済的利益を比較すべきと指摘する。過去の延長について、延長の前後で創作物の量が増えたかどうか、消費者にとってのメリットが高まったかどうかを調査し比較すれば、どちらがメリットがあるか見えるという意見だ。

 会議は、まずシンポジウムを開いて延長賛成派・反対派を交えて議論して論点を整理。今後の活動を検討していく。

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