ITmedia NEWS > 社会とIT >
ニュース
» 2006年12月19日 09時12分 UPDATE

寄稿:小倉秀夫弁護士Winny裁判を考える なぜ「幇助」が認められたか (3/3)

[小倉秀夫(東京弁護士会),ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

――そうすると、その次の「新しいビジネスモデルが生まれることも期待して、Winnyが上記のような態様で利用されることを認容」していたという部分が「提供する際の主観的態様」に当たるということですか?

 そう読み取る他ないでしょうね。そうだとすると、結局のところ、「Winnyを公開すると、著作権を侵害する態様で広く利用することになると思うけれども、そうなれば著作権者の側でそういう状況に対応した新しいビジネスモデルを生み出してくれると思うので、それで構わないから、公開してしまおう」という程度の心理状態でも幇助犯として処罰できるということになりそうです。「新しいビジネスモデルが生まれることも期待して」という部分は、弁護側に対するリップサービスにすぎず、幇助犯の範囲を限定する要素にはなっていないようにも見えます。

――そうすると、殺人犯に包丁を売った刃物屋さんや、時速180キロまでスピードを出せる自動車を販売している自動車メーカーはどうなるのですか?

 とりあえず今の日本社会では、包丁なりリミッター無しの自動車なりの「社会における現実の利用状況」を見たときに、殺人行為に用いられる蓋然性が高いとか、速度違反に用いられる蓋然性が高いとまではいえないでしょうから、幇助犯としての違法性はないということになるとは思います。仮に、リミッター無しの自動車の多くが広く速度違反を犯すために用いられるようになり、そのことを自動車メーカーが認識していたのに、速度違反が広く行われても構わないとして、リミッター無しの自動車を出荷し続けた場合には、幇助犯とされる可能性があるとはいえるでしょうが。

――今回の判決は今後のソフトウェア開発にどんな影響を与えるでしょうか。

 「今後のソフトウェア開発にブレーキがかかる」という意見が散見されますが、今回の京都地裁の判決は、「その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識」を違法性認定の鍵にしていますから、「新しいソフトウェアに盛り込んだ新しい技術が悪用されるかもしれないと認識しつつ公開に踏み切った」程度では、「現実の利用状況」自体が存在しないのでので、幇助犯とはなりません。今回だって、Winny1の初期バージョンを公開したことが問題視されているわけではないのです。

 ただ、自分たちが開発し公開しているソフトウェアが現実社会において主として特定の種類の犯罪行為に広く利用されていることを知った時には、公開を停止するとか、そのような犯罪に利用されにくいように仕様を改善するなどの措置を講ずることが求められるとはいえるでしょう。金子さんとしても、Winny1を実験的に公開してみて、その提供する高度の匿名性が結果的に主として著作権侵害に利用されることを知った時点で、公開を停止するなり、著作権侵害に利用されにくい工夫を加えた新バージョンを開発したりしていれば、今回の京都地裁の論理では処罰されなかったと思います。

――そんなことは可能なのですか。

 金子さんも技術顧問として関与して開発した「SkeedCast」が1つの答えでしょう。これは、ファイル共有ネットワーク内に電子ファイルをアップロードできる人を特定の配信業者に限定したわけですが、「管理サーバーが流通経路とコンテンツを監視すること」が可能であるならば、身元確認ができた登録利用者一般に「アップロード権限」を付与することだって可能だと思いますし。

――地裁判決以降のネット上での議論について何か言いたいことはありますか?

 この事件での最大の悲劇は、Winnyが主として安心して著作権を侵害するための道具として利用され、もっとポジティブな利用方法をユーザーの方々がついに開拓してくれなかったことです。この点は米国のP2Pファイル交換ソフト「File Rogue」の場合と共通しており、他方、動画共有サービス「YouTube」の米国などでの使われ方とは大きく違っている点です。

 匿名で自由に情報発信ができるとなると、それを用いて著作権侵害とかわいせつとか誹謗中傷発言とかのネガティブ情報の発信に利用したいという誘惑に勝てない人たちがわんさか出てくるわけですが、それって新しい技術なりサービスなりの可能性を押しつぶす方向に働きやすいわけです。他方、そういう新しい技術なりサービスなりを、適法な、ポジティブな用法で活用する人たちがわんさか出てくると、その技術等が押しつぶされることなく存続できる可能性を高めてくれます。

 そういう意味では、金子さんを有罪に追いつめた最大の「戦犯」は、Winnyを安心して著作権侵害を行う為の道具として活用した利用者たちだということができます。そういう意味での利用者サイドの問題点を直視しないと、今後も、新しい技術なりサービスなりを開発し提供してくれた技術者や企業を法的に追いつめるということを繰り返してしまいそうに思います。ネット上での議論を見ていて、開発者1人に責任を負わせて知らん顔している違法ユーザーの問題を指摘する声があまり聞こえてこない点は、ちょっとどうかなあとは思いました。

関連キーワード

Winny | 著作権 | 著作権侵害


小倉秀夫氏のプロフィール

 1968年5月30日、東京都葛飾区生まれ。東京都立両国高校卒、早稲田大法学部卒。1994年より弁護士業を営み、2000年より中央大学法学部講師を兼ねる。大阪FLMASK事件、中古ゲームソフト事件、ファイルローグ事件、mp3.co.jpドメイン名事件、WinMX発信者情報開示請求事件、選撮見録事件、まねきTV事件などのエポックメイキングな事件を幅広く担当。

 著書:『著作権法コンメンタール』(東京布井出版)、『不正競争防止法コンメンタール』(レクシスネクシス)、『情報は誰のものか?』(青弓社)、『デジタル法律講座 インターネット事件と犯罪をめぐる法律』(オーム社)、『著作物再販制と消費者』(岩波書店)など。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.