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» 2006年12月19日 09時12分 UPDATE

寄稿:小倉秀夫弁護士Winny裁判を考える なぜ「幇助」が認められたか (1/3)

Winny開発者の判決は「予想より軽かった」と小倉秀夫弁護士は述べ、幇助とは何かを解説。「最大の悲劇は、Winnyのポジティブな利用方法をユーザーが開拓してくれなかったこと」と指摘する。

[小倉秀夫(東京弁護士会),ITmedia]

 著作権法違反を幇助(ほうじょ)したとしてWinnyの開発者を有罪(罰金150万円)とする判決が、今月13日に言い渡された。「FLMASK 裁判」などの弁護人として知られ、ネット上の著作権に詳しい小倉秀夫弁護士に、この判決について一問一答形式でまとめてもらった。

――まず、「罰金150万円」という結論についてはどう思いますか?

 日本の刑事裁判官は無罪判決を下すことを極度に嫌いますから、おそらく執行猶予付きの懲役刑が言い渡されるのではないかと予想していたのですが、それと比べると軽かったです。

――「FLMASK」(画像にマスクをかけたりはずしたりするソフト)の開発者は、執行猶予付きの懲役刑でしたよね。これと比べても軽い罪ですが、それでもWinny開発者は即日控訴しましたね。

 FLMASKの時と違って支援者も大勢付いていますから、保釈金の返還を受けてその中から罰金を納めてそれでおしまいというわけにはいかないでしょう。

――Winnyを開発して配布したら著作権侵害の幇助、という裁判所の論理はどうですか? ネット上では「そんな拡大解釈は許されない」といった議論が盛んですが。

 法律的に言うと、議論の方向は逆なのです。どちらかというと、Winnyを開発して不特定人に対して配布した金子さんに幇助責任を負わせないで済むような縮小解釈ないし限定解釈を裁判所が採用しなかったのはいかがなものか、という議論をしないといけないのです。

――原則と例外が逆ということですか。

 ええ。まず、刑法上の「幇助」というのは、正犯の犯罪行為を容易ならしめることをいいます。容易ならしめる方法としては、物理的に手助けすることだけでなく、犯意を強化することでもよいとされています。

――Winnyの場合でいうと、どういうことですか。

 「第三者の著作物を自動公衆送信する機能を有するP2Pファイル共有プログラムを正犯に提供した」ということが「物理的な手助け」に当たります。この場合、正犯の実行行為(送信可能化行為)自体を、その手段を提供することによって、直接物理的に手助けしているということになります。他方、送信可能化行為者の匿名性を高める機能をそのP2Pファイル共有プログラムに付して提供したということは、第三者の著作物を送信可能化しようという正犯の犯意を強化することに当たるといえます。

――報道機関向けの「判決の骨子」を見ると「被告人の行為は各正犯の客観的な助長行為となっていない」との弁護側の主張に対して、「被告人が開発、公開したWinnyがAとB(正犯)の各実行行為における手段を提供して有形的に容易ならしめたほうか、Winnyの機能として匿名性があることで精神的にも容易ならしめたという客観的側面は明らかに認められる」とされていますが、これはそういうことなのですね。

 そうです。

――「各実行行為における手段を提供して有形的に容易ならしめた」というのはある意味当然だと思うのですが、「Winnyの機能として匿名性があることで精神的にも容易ならしめた」という判断はいかがなものでしょうか。

 違法行為ないし、その行為者の発覚を困難とする行為が幇助に当たると認められた裁判例というのは昔からあるので、その点は意外ではないです。例えば、オービスによる撮影を困難にするナンバープレートを販売する行為が道路交通法違反(制限速度違反)の幇助に当たるとされた例などがあります。見張り行為なんかもそうですね。匿名性を高める機能を提供するという行為は、「違法行為の行為者の発覚を困難とする行為」に含まれると言わざるを得ないでしょう。

――うーん、そうですか。でも、金子さんは、このAさんのこともBさんのこともおそらく知らないし、おそらくメールのやりとりもしていないのですよ。それでも幇助犯になってしまうのですか?

 幇助犯が成立するためには、正犯との間に意思の連絡があることは不要です。といいますか、意思の連絡がしっかりあると、幇助にとどまらず、共謀共同正犯に問われる可能性すら出てきます。もっとも、金子さんは特定の2人にWinnyをダウンロードさせてあげたのではなく、不特定人にダウンロードさせてあげたところその中にこの2人が含まれていたに過ぎないという点は注目に値します。これが「幇助」ではなくて「教唆」であれば、教唆の相手方は特定人であることを要する、ということで無罪となり得ますから。ただ、幇助の相手方が特定人であることを要するかについて触れた文献は目にしたことがないです。

――金子さんは、ユーザーに著作権侵害をさせようと思ってWinnyを開発したわけではないのですよね。「判決の骨子」をみると、「Winny によって著作権侵害がインターネット上にまん延すること自体を積極的に企図したとまでは認められない」となっています。それでも、幇助犯になってしまうのですか?

 そこは難しい問題ですね。まず、著作権侵害罪のような故意犯について幇助罪が成立するためには、幇助者にも「故意」が必要とされます。そして、「故意」ありと認められるためには、犯罪結果を積極的に企図・意欲することまでは必要ではなく、犯罪結果の発生を認識し、認容していれば足りるとするのが刑法上の多数説です。

 もちろん、正犯の故意については犯罪結果の認識・認容だけでよいが、幇助の故意については犯罪結果を積極的に企図・意欲することまで必要だと考えれば話は違ってくるのでしょうが、そういう見解は現行法の解釈としては見あたりませんでしたし、過去の裁判例を見る限り、積極的な企図・意欲まではない場合にも幇助犯の成立を認めているようです。

――「認容」という言葉は「判決の骨子」にも出ていましたが、どういうことなのですか?

 「犯罪結果を生じさせても構わない」という心理状態のことをいいます。「犯罪結果を生じさせようと積極的には意欲しないが、犯罪結果が生じてしまったとしてもそれはそれで構わない」という程度の心理状態のことを、講学上「未必の故意」といいます。この場合だったら、「Winnyを公開すると、これを利用して第三者の著作物が送信可能化されてしまうかもしれないが、それでも構わない」という心理状態をいいます。裁判所は、金子さんにもWinnyを公開することにより第三者の著作物が違法に送信可能化されるという結果が発生しても構わないという程度の意識はあっただろうと認定しているわけです。

――でも金子さんは、Winnyによりどの著作物が送信可能化されるかまではわからなかったのではないですか。それでも「結果の発生を認識・認容」していたといえるのですか?

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Winny | 著作権 | 著作権侵害


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