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» 2007年04月13日 15時30分 UPDATE

業界変われば著作権も変わる? 落語、同人誌、ソフトウェアの場合

著作権をどう扱うかは業界によって異なる。落語はネタを無償で弟子に教えるから著作権料は取らないし、ソフトウェアはライセンスでしっかり契約する。著作権法という1つの法律で決めてしまうことの難しさ。

[岡田有花,ITmedia]

 著作権保護期間を、著作者の死後70年に引き伸ばすか、現状の50年のまま維持するか――著作権保護期間延長問題を考えるフォーラムは4月12日、シンポジウムを都内で開いた。落語家や現代芸術作家、ソフトウェアの専門家などが、それぞれの著作物に関わる業界の慣習と著作権法との関わりについて語り合った。

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 著作権保護期間延長問題を考えるフォーラムは、著作権保護期間延長に反対するクリエイターや、中立的な立場の作家などが参加し、ボランティアベースで活動している団体で、十分な議論なしで保護期間延長に踏み切らないよう訴えている。

 シンポジウムは今回で3回目で、パネリストは落語家の三遊亭圓窓氏、現代芸術作家の椿昇氏、マイクロソフト最高技術責任者補佐の楠正憲氏、早稲田大学大学院客員助教授(経済産業省出身)の境真良氏の4人。慶応義塾大学の金正勲准教授がコーディネーターを務めた。

 これまでのシンポジウムでは、著作権保護期間の延長の是非について主に議論していたが、今回はパネリストほぼ全員が延長に反対していたこともあり、著作権法と、落語・ソフトウェア、現代アート、同人誌の各業界の慣習との矛盾について、議論が盛り上がった。

落語はタダで教えるもの

画像 圓窓氏の話はまるで漫談。何度も笑いを取っていた

 著作物に著作権があり、それが著作者の死後も守られる――この考え方は、落語業界の慣習とは矛盾していると、圓窓氏は指摘する。

 「落語は、ネタを弟子にはタダで教える。もちろん著作権料なんか発生しない。師匠のネタを弟子がやりたいなら、生きているうちなら一言言ってからやるもんだが、死んだ後は自由」(圓窓氏)

 こういったおおらかな慣習を持つ落語だが、著作権法をガチガチに適用すると、落語家の死後もネタを著作物として保護し、弟子がやるにも許諾が必要――などと不思議なことになってしまう。

 「例えば私は永井路子さんの小説を落語のネタにした。原作料を支払いますと言ったが、永井さんは笑って『いらない』と言ってくれた。だが、ネタを弟子に教えた場合はどうなるのだろう。この先、永井さんが亡くなった後、相続人から私の落語にクレームが来ないとも限らない」

 実際、10年前に死去した小説家の作品を落語にしてみたいというアイデアをテレビ番組の収録で話したところ、その小説家の相続人から「そんなこと聞いていない」とクレームがあり、圓窓氏は困り果てたという。

 「遺族に『アイデアを持っていると話すだけで何か権利を侵害しているのなら謝罪するし、小説家の著作権をきちんと管理したいというのであればご説明に行く』という内容の手紙を送ったが返事がない。その小説家の創作物はすばらしく、尊重したいのだが……」

現代美術、著作権とは別次元

画像 椿氏のパロディ作品

 「現代美術はほとんどがBtoBで、著作権とは無縁の世界だ」──椿氏は現代芸術家という立場から指摘する。現代美術の作品は、大富豪が自家用ジェットで、億単位で買いに来るか、美術館に入って2度と出てこなくなるかのどちらか。「マーケットバリューとしては、著作権料は大きなウェイトは占めていない」(椿氏)

 有名政治家を皮肉ったパロディ作品も多く発表している椿氏だが「最近の若者は、何か過激なことをやろうとするとすぐに『そんなことしていいんですか? 訴えられませんか? 著作権は大丈夫ですか?』と聞いてくる」と語り、おとなしい若者の“遵法意識”が芸術を縮めていると残念がる。

 椿氏自身は、自分の作品すべてをパブリックドメインにしているという。「パレスチナで作品を作っていた時、パレスチナ人にパブリックドメインにしろ、と言われたからそうした(笑)」。肥大する米国文化へのアンチテーゼ、という意味もあるという。

“ゆるい”管理が創造につながる同人誌

画像 「始めてコミケに行ったのは25年前」と境氏

 漫画に詳しい境助教授は「著作権を最大に行使すると、コミケのパロディ作品は、裁判所としては違法と判断するものになり得る」と、ポケモン同人誌事件(ポケモンの同人誌を作っていた女性が著作権法違反容疑で逮捕された事件)などを引き合いに説明する。

 「パロディがすべていいとは言わないし、常軌を逸したものはどうかと思う。そこは社会常識で判断し、ある程度は許容する法律的な“セーフハーバー”を作って欲しい」(境氏)

 日本の同人誌は、著作権法上の縛りが比較的ゆるいため、韓国など同人誌への縛りが厳しい国の作家が作品を発表する場としても注目されているという。

ソフトはライセンスしっかり 「業界ごとに考えるべき」

 ソフトウェアも、1980年代から著作権法で守られるようになった。ただ、公開後50〜70年も現役で利用できるソフトはまず考えられないため、保護期間延長問題とは直接関係しそうにない。

画像 「保護期間延長は、ソフトウェア業界からは遠い話」と楠氏

「コンピュータ業界で50年、70年は長すぎる。70年前はアラン・チューリング博士が最初の計算機の理論模型を作った頃だ」とMSの楠氏は語る。

 再利用という観点でも、他の著作物と違いがある。「再利用されたほうがメリットがあるため、再利用されやすいように作ってライセンスする。大規模なビジネス利用が中心だから、作った人がどう使って欲しいか表明できる仕組みもしっかりしており、問題もあまり起きていない」(楠氏)

 「ソフトウェアのライセンスは、オープンソースならGPLやBSDなどがあり、マイクロソフトのOSにもオープンソースのソフトが組み込まれている。MSもSDKなどで、開発者が利用しやすいような形態でソフトを公開している」(楠氏)

 著作権をどう扱うべきかは、業界によって異なる。「落語のように、2次利用契約なしで利用するのが慣行となっている業界もあるし、ソフトウェアのように法律に則って契約する業界もある。それは業界ごとに考えればいい」(楠氏)

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