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(4)言うべきは言い、守るべきを守る同人誌と表現を考えるシンポジウム(2/3 ページ)

» 2007年06月01日 06時07分 公開
[小林伸也,ITmedia]

三崎尚人さん同人誌生活文化総合研究所) これだけの文化というのはどこにもないんですね。コミックマーケットに申し込んでいるのが5万サークル弱。たぶん全国に7万とか8万とかいうサークルがあると思います。これだけの人間が表現を、紙メディアで表現をしている国ってどこにもないんですよ。世界的にも非常に驚きをもって受け止められている。

 スタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授*4が一時日本に長期滞在していて、先方からリクエストがあってわたしと米澤嘉博さん*5が会って、いろいろ彼に吹き込んだらですね、一時期「コミケ」「同人誌」って講演で言いまくって「オタクじゃねえか」とか言われてたんですけれど(会場笑い)。そんな彼が提唱した「クリエイティブ・コモンズ」なんかにもつながっていくわけです。

 米国のアルバート・ゴア副大統領のスピーチライターを務めたダニエル・ピンク*6という有名なジャーナリストがいます。日本の漫画に興味があるということで来日しているんですが、どうやら日本には同人誌というものがあるらしいと。で、行きたいというので「COMIC1」に来てものすごく喜んで、とあるサークル名を何度も連呼してたとかいう話もあるんですけど(会場笑い)、その後ほかにはないのかという話になって、4月30日がCOMIC1で、5月3〜4日の「スーパーコミックシティ」にも現れて、3日間ずっと有明に張り付きでした。

 アメリカのジャーナリストなんで、あなたが成功するか否かはこれで決まる、みたいないかにもアメリカチックな言い回しでちょっと同人文化にはなじまないんですけれども、次の時代はクリエイティビティや共感、そういった総括的な展望を持つことによって社会や経済が築かれるというようなことを以前に主張していて、そういう彼の視点からすると、これだけ漫画書いてるやつがいることが驚異なわけですね。そういう形でこういう文化は非常に大事だし、それをアピールしていかなければならないと思っています。

 政府も日本の国際競争力をどうやって維持していくのかを一生懸命考えている。一昨年、経済産業省の内部の研究会があって、新しい日本の創造をどうしたらいいのか、みたいなことを彼ら真剣に考えているわけですよ。その時に、米澤さんが呼ばれて、局長さんとかがいる前でコミケの話を一席ぶって帰ってきたという話があるんです。

 日本のコンテンツビジネス、漫画・アニメの文化は非常にすそ野が広いからこそあると、いいものだけを輸出するみたいな感じにどうしてもなりがちですが、そういうのってすそ野の広さがあって成立するもんですよと。しかもそのすそ野の中には同人誌も含まれるんじゃないか、その同人誌はやっぱり、表現は豊かにに幅広く、極力規制がない形じゃないとうまく行きませんよね──といういまのフレームワークを、担当の課長さんは米澤さんが言う前から言っている。というくらいにお役人さんも現場レベルでは結構理解があったりする。

 どうしてもわれわれは「いいですから、隅っこでやってますから」みたいな感じになりがちなんですけれども、われわれが持ってる良さっていうのを、言うべきことは言っていかないと。自主規制などをちゃんとやってるんだよということもそうだし、ちゃんとモノを作ってるんだよということも発信していかなければならないんじゃないかなと思うんですよね。

*4 ローレンス・レッシグ(Wikipedia) スタンフォード大学ロースクール教授。著作物の2次利用をスムーズに行えるようにするクリエイティブ・コモンズを提唱。

*5 米澤嘉博(Wikipedia) 漫画評論家、コミックマーケット準備会代表。2006年10月に逝去。

*6 ダニエル・ピンク 米労働長官補佐官、ゴア副大統領の首席スピーチライターを務め、フリージャーナリストに。邦訳著書に「フリーエージェント社会の到来−『雇われない生き方』は何を変えるか」(ダイヤモンド社・2002年)、「ハイ・コンセプト『新しいこと』を考え出す人の時代」(三笠書房・2006年)。

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