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» 2007年06月01日 06時07分 UPDATE

同人誌と表現を考えるシンポジウム:(4)言うべきは言い、守るべきを守る (1/3)

「同人誌作ってまーす」と会社で言えない人は多そうだが、われわれが担ってきたものについて、もっと胸を張ってもいいのかもしれない。そして故・米澤氏は「あいまいの良さ」を語っていたという。

[小林伸也,ITmedia]

 →(1)アピール不足だったかもしれない──自主規制の現場

 →(2)イベント会場でマジックで塗るということ

 →(3)「貧しい漫画」が向き合ってきた自由と責任と

永山薫さん(マンガ評論家) 斎藤さんの話はすごく面白かったんですけれども、逆に言うとですね、バーチャルなものに対して規制をかけていくとどういうことになりますか。

斎藤環さん(精神科医) いや、それこそ健全な性犯罪が増加するんじゃないかなと(会場爆笑)。

永山 少子高齢化という問題を考えると、規制したほうがいいのかも(会場笑い)。

坂田文彦さんガタケット事務局) 同様の質問に法曹の立場から。

望月克也さん(弁護士) なぜ表現の自由が定められていて、結構強い権利としてある1つの大きな理由として、表現の自由はいったん制約が始まてしまうとどんどん浸食されていく可能性がある。「良い表現」と「悪い表現」の境目というのはとてもあいまいなわけで、線引きがよく分からないままどんどん食い込んでくる可能性があると。しかもその表現の自由は、1回押さえつけられてしまうと書く側が萎縮する。今度やったらまたパクられるんじゃないだろうかとか、またつかまるんじゃないか──と、正しくない言い方かもしれませんが「表現者を殺していく」可能性があるということから最大限保障すべきだというのが、憲法の基本的な理念なんですね。

 制約がどんどん進んでいくと、ものが言えなくなる。実際はセーフなんだけれど「ちょっとマズいかな」という思いがどんどん強くなって、表現者個人が萎縮していっていまう可能性が出てくる。非常に古典的な話ですが、そういう問題は常にあるのではないかと思います。

伊藤剛さん(マンガ評論家/武蔵野美術大学芸術文化学科講師) 僕も新聞の取材とかを受けると、同じ質問を記者さんからされたりします。結論をいうと、表現がやせてしまいますと、ある種の豊かさというのが失われますよと、そしてそれは誰の利益にもなりません──という風にお答えしています。

 例え話でいうのは、昔の小咄(こばなし)で、殿様が家来に、菊の花の一番下の葉っぱをむしっておけといって外に出て行く。で、帰ってくると葉っぱが全部むしられていて、花しか残っていない。なんだこれはといって殿様が怒るとですね、「一番下の葉をむしったところまだ一番下があります、それをむしるとまだ一番下があります……」と。それで結局丸坊主になってしまった。規制をしたいという欲望(と言っていいと思いますが)には何かしらの歯止めがないとこうなってしまいますよ、という例え話として出しています。

 憲法も刑法もそうですが、この場合は直接の被害者がいないわけですから、これは利害の調整、社会の中で生きている成員のお互いの調整としての法があると。だからお互いに対してそれが歯止めになっている部分がある、という理解がいいのではないかと思います。

 「良い漫画」「悪い漫画」あるいは「良い文化」「悪い文化」という区別というのは、これはやっぱりグラデーションなので、つけられないと思います。でもこれは自分は良くないと思う、見たくない、という権利はもちろんあります。僕自身、ジャンルとか作家さんの名前は出しませんけれど、ちょっとやめてっていうのはあるんですが、だからといってそれを出すな書くなというのは当然言わないわけですね。他方、電車の中でエロマンガを広げるというのもしません。対面に座った人が嫌な気持ちになる可能性があるからですが、だから実はゾーニングということも、広くいうと利害の調整ということとしてあるのではないかという気がします。

 だからサークルさんとかですね、あるいは買ってる方、ブログなどを持っている方に対してですね、冷静な対応をしていただきたいのは、そういう大枠の中での話だと思うんですね。

 とかく、わざとワルぶってみせたりとかですね、(オタク口調で)「こんな文化はくだらないものだから知らないほうがいいですね」とかいうようなことを言う人っていうのは、実際コミケであの、「CUT A DASH!!」*1に並んだ時に隣の人から言われたんですけれど(会場爆笑)、友達に頼まれて並んでくれと、2時間外で寒い中並んだんですけどね、その時隣の人から言われたんですけど、あのー、僕はわかるからいいですけど、それは、あのー、知らない人は本気でそういうもんだと思いますから、えー、よろしくないのではないかと思います。

藤本由香里さん(編集者/評論家) 児童ポルノ法改正時の反対アピールの時にも確か斎藤先生も一緒に行ったんですけれども、いまは被害者がいないということで児童ポルノ法の対象からアニメ、コミック、ゲームは外されています。今のところそれを入れよという動きは今回はあまり強くなってはいないようですが、前回はかなり強かったりしたんですね。このことに関してはかなり本気で反対していくほうがいい。

 というのはですね、児童ポルノ法の「児童」は18歳未満なんですね。そして法文をそのまま適用すると、18歳未満の人間が性的な対象になっているコミック、アニメ、ゲームは全部軒並みダメなんですね。文脈とか関係ないんです。法文の中に文脈は書いてないので。

 実際、アニメや漫画が対象になるらしいという情報が伝わった時、ある有名な書店さんが「ベルセルク」*2を引っ込めたという話が本当にあるんですね。チャイルドアビューズ(児童虐待)に当たる場面があるからで、つまり「ベルセルク」や、今回手塚治虫文化賞の大賞を受賞した「舞姫(テレプシコーラ)」*3などはダメなんですよ、「良くない漫画」「有害コミック」、法的な規制で見てはいけない漫画ということになってしまうんです。例えそれが、悲惨な体験としてそれを訴えるために書かれているものでも、そういう場面があるということで規制の対象になってしまう。

 だからそういったことに対しては、反対の声を上げていかなければならない。逆に、そういう話が出てこない前に、伊藤さんが言う「利害の調整」というようなところで、わたしたちも自覚的になっていかなければというふうに思います。


*1 CUT A DASH 「こみっくパーティー」などで知られるみつみ美里さんのサークル。コミケ男性向け最大手サークルの1つ。なぜか一般入場前から同人誌を求める長蛇の列ができ、夏は灼熱の太陽を、冬は海から来る冷たい風を数時間忍ばないと入手できないとされる。

*2 三浦建太郎「ベルセルク」(Wikipedia) 白泉社刊。手塚治虫文化賞マンガ優秀賞(2002年)。

*3 山岸涼子「舞姫(テレプシコーラ)」(Wikipedia) メディアファクトリー刊。手塚治虫文化賞マンガ大賞(2007年)。

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