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(1)アピール不足だったかもしれない──自主規制の現場同人誌と表現を考えるシンポジウム(1/5 ページ)

» 2007年05月21日 07時18分 公開
[小林伸也,ITmedia]

 「同人誌と表現を考えるシンポジウム」が5月19日、東京・池袋で開かれた。

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 警察庁「バーチャル社会のもたらす弊害から子供を守る研究会」(以下、「研究会」)が昨年12月にまとめた最終報告書では、「同人誌等の即売会についても、イベントの主催者に対し、子どもを性行為等の対象とするコミック等を18歳未満の者に売らないための対策の強化を求めていくべきである」と明記された。漫画同人誌の性表現について直ちに法規制を求める内容ではないが、警察の報告書に同人誌が取り上げられること自体が異例とされる。

 非常設の即売会に足を運ばなければ入手できなかった同人誌だが、専門書店やネット通販の発達で比較的容易に購入できるようになるなど、同人誌が一般に浸透しつつある現状が報告の背景にあると指摘されている。シンポジウムは、即売会や印刷業者らの団体が主催。同人誌とその表現の現状を見直し、今後も同人誌ならではの自由闊達な表現を守るためにどうすべきか、同人誌の現場の関係者や有識者が集まって話し合った。

 都内は午前中に強い雨が降る荒れ模様だったが、約900人が参加して議論に耳を傾けた。半分がサークル参加者(つまり同人誌の実際の描き手)、2〜3割が一般参加者(同人誌の受け手)で、即売会スタッフや印刷・出版関係者も少なくなかった。

 シンポジウムでは即売会主催者や印刷所による自主的な修正などが紹介されたが、一般にあまり知られていないため、「もっと同人界の取り組みを発信していくべきだ」という意見が多かった。

 同人誌や表現に何らかの形で携わる人なら、各出席者の発言について、ささいな点であっても興味深く感じることもあるだろう。全体の印象などは他メディアや参加者のブログなどにお任せし、以下では当日の様子を最小限の編集にとどめて数回に分けて紹介しよう。

 *による注のうち、出席者のプロフィールは当日報道向けに配布された資料を転記した。

「アピールが足りていなかったのかもしれない」──主催者あいさつ

坂田文彦さん*1 (ガタケット事務局) 本日はご多忙のところ非常に多くの方々にご参集いただきましてまことにありがとうございます。

photo 坂田さん

 私は新潟で「ガタケット」という同人誌即売会を主催しております。同人誌に関するさまざまな問題を解決するゆるやかなネットワークとして「全国同人誌即売会連絡会」というのを立ち上げ、ここ何年間にわたって表現や著作権、わいせつ問題についていろいろと勉強会を開催して参りました。しかし今回、警察庁の「研究会」で、漫画の同人誌が初めて公の報告書に取り上げられる事態に至りまして、「同人誌と表現を考える会」というものを発足し、同人誌即売会連絡会、COMIC1準備会、日本同人誌印刷業組合の3団体で今回のシンポジウムを開催する運びとなりました。

 「研究会」が、特にバイオレンスと性表現に関して、18歳未満に対してどういうゾーニングを設けているのかということを課題にしていますので、それに対してわれわれが今どうしているのか、今後どうしていくのかに関するシンポにしたいと思います。ですので、2次著作に関する問題等は今回一切触れる時間がないことをご了承ください。

 ここにご参集のサークルさん、一般参加者さん、印刷業組合さんはご存じのように、われわれ同人界はかなり昔から、性表現に関する規制には厳しく対応して参りました。ですが、どうやらアピールが少し足りていなかったのかもしれないなという今回の一件なんですが、第1部は同人誌関係者による、今までわれわれがどういう規制を行ってきたか、そして今後どうやっていけばいいのかということを中心に、第2部は有識者の方々に、刑法175条*2、児ポ法、「研究会」や青少年健全育成条例とか、最近あまり話題にのぼっておりませんが、青少年有害社会環境対策基本法案、これはまだ案のままでどうなっているのかはっきりしませんけども、そういったことを含め幅広く性表現に関する現状と今後についてを語っていただくことになっています。

「バーチャル社会のもたらす弊害から子供を守る研究会」とは?

三崎尚人さん*3同人誌生活文化総合研究所) 「研究会」をご存じない方はきょうはいらっしゃらないとは思うんですが、一応念のため、前提知識ということで解説させていただきたいと思います。

 「研究会」は2006年4月10日に、警察庁の生活安全局長の諮問機関として作られました。設立趣旨は「子どもを取り巻く性や暴力に関する情報の氾濫(はんらん)やゲームやインターネットにのめり込むことの弊害について幅広く議論し、問題点を整理して社会に問題提起するとともに、その改善策を探ろうとするもの」ということになっています。

 当時の生活安全局長の竹花豊さんが実質責任者ということになります。竹花さんは広島県警(本部長)の時の暴走族の撲滅運動などが評価されて、東京都の副知事に引っ張られて、2年間くらいお務めになられて、新宿・歌舞伎町の浄化運動や、都青少年健全育成条例の改定などに携われて、05年に警察庁に戻られて生活安全局長ということになってます。取材などでも発言が多くて、Webとか見ていだくとこの方の発言を拾うことができるんですけども、竹花さんが返し述べられてきた問題意識というのが「研究会」に直結しているようなところがございます。


*1 坂田文彦(ガタケット事務局) 1983年より、新潟市を拠点に同人誌即売会ガタケットの創設メンバーとして運営に携わり、1989年、同即売会代表となる。全国同人誌即売会連絡会発起人。にいがたマンガ対象実行委員会副会長。

*2 刑法175条 わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。

*3 三崎尚人(ライター/同人誌生活文化総合研究所主宰) マンガ、あにめ、同人誌などについてのライター。1996年より、Webサイト同人誌生活文化総合研究所を主宰。主な仕事として「同人誌バカ一代」(岩田次夫著)の監修。

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