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「訳が分からないことをやらないと勝てない」――ニフティ和田社長(1/2 ページ)

» 2007年09月18日 15時35分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 y or nのキャンペーンサイト

 「y or n。これからはヤフーがライバルです(社長談)」――ニフティが今夏に展開したこんな広告が、ネット上で話題になった。

 「ニフティはヤフーになり得たのではないか。パソコン通信からネットへの転換期に、何かを大きく誤ったのではないか」。和田一也社長のそんな意識が、社内を動かしている。

花咲かなかった「NIFTY-Serve時代の種」

 パソコン通信「NIFTY-Serve」時代のニフティは、インフラからコミュニティー、コンテンツまで一手に提供し、大きな存在感を示していた。

画像 和田社長

 だがインターネット時代に入って様子が変わる。「安心・安全」を旗印に掲げたISPとしてインフラを提供。「@nifty」というポータルも持ちながら、ISPユーザー以外への存在感は薄まった。「ニフティの利活用(ポータル・コンテンツ)分野は無名」と和田社長は言い切る。

 ISPとして堅実に事業を進め、付加サービスはISP会員向けに中心に提供する――これまでの経営陣が、あえて選んできた道だ。ISP事業は安定した収入が見込め、同社の連結売上高の9割近くを占めている。

 「だがISPは地味で分かりにくい。安定収入はあるが、FTTHはもうかる仕組みではないし、NGNやWiMAXなど次世代サービスが始まりつつあり、将来にわたって安定とは言えない。接続ユーザーだけがお客さんと思ったままで、ネット時代に生き残れるのだろうか」

 NIFTY-Serve時代の開拓精神と、当時培ったコミュニティーやコンテンツ作りの手法。それらをネットでもいかすべきではないか。和田社長が昨年まで在籍した親会社の富士通社内では、そんな意見もくすぶっていたという。

 「富士通にはNIFTY-Serve時代の想いがある人がいっぱいいる。NIFTY-Serveには、今で言う楽天市場のようなショッピングモールやオークションのような、サービスのシーズ(種)がたくさんあったのに、それはネット時代に花を咲かせなかった。当時夢見ていたものを他の企業がやっていて、ニフティはやってない。何でだよ、と」

ニフティは「競争していなかった」

 「競争を諦めているのでは」――和田社長が、副社長として富士通からニフティに移籍した昨年。社内の様子にそんな危機感を覚えたという。「ネット企業は競争が激しく、同じパイを食い合うつぶし合いだが、ニフティの従業員にはその意識が乏しかった」

 和田社長は富士通の法人営業出身。勝ち負けにこだわって仕事してきた。「営業は勝ち負けの集合体が業績に直結する。だがネットの競争は、ページビュー(PV)の数字ぐらいでしか見えない。激しい競争をしているはずなのに、意識できない」

 だから「他社をベンチマークし、敵を意識しろ」と発破をかけ続けた。ヤフーもベンチマーク先の1つ。「『ヤフーとはビジネスモデルが違う』と言った社員がいたが、Yahoo!BBとYahoo!JAPANを合わせれば、企業ドメインは全く同じ。何百周離れていても敵は敵だ」

 y or nのキャンペーンは「ニフティのポータルやコンテンツもYahoo!JAPANと同様、誰でもアクセスできる」と対外的にアピールすると同時に、「あのヤフーですらライバル。ベンチマーク対象だ」と社内に向けて宣言する意味も大きかった。

 ヤフーなら規模があまりに違うため、キャンペーンに利用させてもらってもけんかにはならないだろう、という計算もあった。キャンペーン前にはヤフーに出向いて説明し、理解もしてもらったという。

「楽しさを10倍に」――横連携で勝負する

 「楽しさを10倍にしろ」――東証2部上場の2カ月前となる去年の10月ごろから、利活用分野で思い切った投資を決断。同時に、サービスごとに縦割りだった社内の人間関係を横につなぎ、スクラムを組ませようと取り組んでいる。

 高校でラグビー選手だった和田社長はこう例える。「ラグビーには『パックを固める』という言葉がある。スクラムを組んだときに選手同士のすき間をきっちり詰めることで、突破力を付け、強い敵にも立ち向かえる。1人でぱらぱら走っても、突破できない」

 人間関係の横のつながりを強め、サービス同士もがっちりと肩を組む。パックを固めさえすれば、10倍、100倍も強い敵にも伍して戦うことが、あるいはできるかもしれない。

 「隙を見て走る『ウィング』もいてもいいが、力で押す場合はパックを固める必要がある。『デイリーポータルZ』担当者とかスタープレイヤーはすでにいるから、これ以上はいらない(笑)」

「仕事の仕方を知らなかった」社内

 縦割りで横のつながりがない部署、対面ではなくインスタントメッセンジャー(IM)で会話することに慣れた社員――和田社長がニフティに来た当時は、パックを固めるどころか、スクラムを組むこともできない状態だった。

 「仕事の仕方を知らないと思った。チームで仕事をする、仲間と仕事をする、意思を伝える――ひとことで言うとコミュニケーションができていない。つかみ合いのけんかなど、見たこともない」

 社長に就任してまずやったのは、社長室に大きなホワイトボードを3枚入れること。「何のために入れるか分からなかったんだろうね」。数日待っても納入されないため、購買担当幹部を社員の前で叱責した。

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