ITmedia NEWS >

「DRMが普及すれば補償金縮小」で合意へ私的録音録画小委員会

» 2008年01月17日 19時35分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像

 文化庁長官の諮問機関・文化審議会著作権分科会の「私的録音録画小委員会」の第16回会合が1月17日に開かれた。文化庁は「著作権保護技術(DRM)の動向を見ながら、私的録音録画補償金を順次縮小していく」という方向性を改めて示し、委員として参加した権利者団体代表者や学者は、おおむね賛同した。

 文化庁は前回の会合で「DRMによってコンテンツの複製回数を完全にコントロールできれば、補償金は不要になる」という前提に立ち、補償金制度自体を廃止する可能性を示していた

 ただ、委員会に参加している権利者団体代表者らはこれまで補償金制度の堅持を求めており、文化庁が提示した「将来、補償金が不要になる」という案は、権利者側の立場と対立している。

 また、電子情報技術産業協会(JEITA)は、「ダビング10」が採用される地上デジタル放送機器については「補償金は不要」と訴えてきているが、文化庁は「例外として、地上デジタル放送機器は補償の対象とすべき」としており、JEITAの立場とも対立している。

 文化庁は「各団体内部での意見調整に時間がかかるだろう」と年末に予定していた小委員会をキャンセルし、年末年始にかけて「各関係団体などと意見交換してきた」(文化庁の川瀬真・著作物流通推進室長)という。

 今回、文化庁が提出した資料は、各団体からの意見や、パブリックコメントで寄せられた内容などをまとめた結果。権利者や機器メーカーの意見を色濃く反映しているが、ユーザーの立場に配慮した文言は少なく、委員からは「消費者不在」といった批判も出た。

 IT・音楽ジャーナリストの津田大介委員は、海外出張中として欠席した。


画像 文化庁が提出した資料
画像
画像

「権利者が要請するDRM」が付いていれば補償金は不要

 私的録音録画補償金制度は、MDが普及し始めた1992年に著作権法に導入された。「音楽や映像の著作物は『私的使用』の範囲で無劣化でデジタルコピーされ、それによって権利者に損害が出るだろう」という前提で、権利者の損害をカバーするための制度だ。

 だがDRMが普及し、コンテンツが「私的に複製」される回数を権利者が制限できるようになってきている。権利者は、DRMで複製可能な回数を決め、それに応じた価格設定をしておけば「複製による損害」を防ぐことが可能だ。

 文化庁が提出した資料では「『権利者が要請するDRM』が付いた著作物の私的録音録画については、原則として補償の必要性がないことは、関係者に異論はないと考えられる」と書かれている。

 その上で、メーカーのDRM開発努力を評価。「DRM開発や対応機器普及に尽力しているメーカーに対して、補償金回収の負担まで負わせていることが関係者の理解を得られなくなってきている」とし、「現行の補償金制度による解決は、今後縮小するべきだろう」という方向性を示す。

 ただ、補償金でカバーすべき「例外」も2種類示した。(1)音楽CDからの録音、(2)無料デジタル放送からの録画――だ。(1)は現在、事実上コピーフリーとなっているため。(2)については、地上デジタル放送の「ダビング10」が「権利者の要請に基づくルールではない」ため、「補償金で手当てすべき」としている。

 補償金について定めた著作権法30条2項の改正案については、「録音録画は無償で可能とした上で、有償の場合は権利者とユーザー間の契約にゆだねる」という方法のほか、「(DRMを活用し、ユーザーと権利者が契約ベースでコピー回数を決められる)ネット配信事業などから段階的に30条の適用範囲を縮小し、権利者が利益を確保しやすくする」――といった方法を提案する。

「消費者不在」の指摘も

 補償金縮小のアイデアは「関係者にとってドラスティックな変更で、いろいろな立場の人に譲ってもらった内容が含まれている」と川瀬室長は言う。補償金制度の維持を前提に議論してきた権利者や、「DRMがあれば補償金は不要」と主張し、「ダビング10」ルールが採用される地上デジタル放送の録画機器も補償金が不要と主張してきたJEITAにも、大幅な譲歩を迫る内容だ。

 それだけに、それぞれの立場に配慮し、「『権利者が』要請するDRM」や、「機器メーカーは、権利者が望まない録音録画の抑制について一定の役割を果たしている」などといった文言が盛り込まれている。

 参加した委員は、資料で示された方向性についておおむね同意したが、「消費者不在」を指摘する意見も出た。イプシ・マーケティング研究所社長の野原佐和子委員は「ユーザーの利便性の確保についての記述が非常に薄い」と指摘する。

 慶応義塾大学教授の小泉直樹委員は「この書き方で一般国民が納得できるのか疑問。『権利者の要請するDRM』とあるが、例えば権利者側は『ダビング10』は権利者の要請ではないと主張しているなど、誰の要請によるDRMなのかは消費者から分からない。権利者の要請かどうかで考え方が分かれる理由を、もっと説明したほうがいい」と指摘した。

 主婦連合会の河村真紀子委員も「『権利者の要請』を厳しめにしておけばいい、ということにもなり得て、もやもやしたものが残る。例えば『補償金を支払えば複製が自由』というなら分かりやすいが」と指摘する。

 日本音楽作家団体協議会の小六禮次郎委員は「権利者も一利用者。利用者の利便性もぜひ確保してほしい」と要望。委員会の主査を務める中山信弘・東京大学教授も「ユーザーの損害は権利者の損害。一般消費者の視点もぜひ盛り込んでほしい」とした。

 川瀬室長は「消費者の利便・利益の確保をないがしろにしたつもりはない。その点にも目を向けて整理し直したい。委員が所属する各団体などに持ち帰り、検討してもらいたい」などとコメントした。

 次回の小委員会は今期最終回で、1月23日に行われる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.