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» 2008年04月08日 00時00分 UPDATE

おもしろさは誰のものか:「出版界、このままでは崩壊する」――ダイナミックプロ、絶版ラノベ・SFを電子書籍化 (1/2)

新刊本が量産される一方で、絶版本が増え続ける。そんな負のサイクルを止めたいと、絶版本を電子書籍として復活させる販売サイトを、永井豪のダイナミックプロが開設した。「今、実践しなくては、取り残されるか、次世代には消滅するしかない」

[岡田有花,ITmedia]
画像 幸森さん

 「このままでは出版業界は崩壊する」――そんな危機感から、1つの電子書籍販売サイトが生まれた。絶版本を電子書籍で“復活”させる「ダイナミックアーク」だ。開設したのは、漫画家・永井豪さんの版権管理・マネージメント会社のダイナミックプロダクション。新刊書籍が量産されてはすぐに絶版になるという出版界の負の連鎖に、一石を投じたいという。

 ダイナミックアークでは、1冊315円で、絶版ライトノベルやSFを販売。一度購入すれば、いつまででも、何度でも読める。「売ったら終わり」ではなく、作家が作品を改訂することもあるという。出版社を通さず、作家と直接交渉してコンテンツを集めた。

 ネット時代の出版のあり方を探るためのテストケースにしたいという。「急速に変化するITの世界について行くためには、今、研究と実践を行わなくては、取り残されるか、次世代には消滅するしかない」――同社アーク事業部の幸森軍也部長は危機感を強める。

絶版本が量産されている

 「あの本が欲しいのにどの書店にもない」――そんなケースが増えている。「SFやライトノベルは、3年前のものだと絶版で手に入らないことが多い。半年前の新刊本すら絶版、というケースもある」

 出版不況と言われる中で、書籍の出版点数が年々増え、1冊当たりの販売部数は減り続ける。出版社はトータルの販売部数をキープするため、出版点数を増やすことで販売部数の減少を埋め合わせようとする。その繰り返しが絶版書籍を“量産”。作家が魂を込めた本が、読者に届かないまま消えていく。

 「1冊当たりの部数が減っているから、取次会社は全国津々浦々の書店に配本できない。小さな書店では出版物をそろえることができず、大きな書店でも棚が足りず、返品が増えている。Amazon.co.jpなどネット書店で買えればいいが、それで売り切れるともうアウト」

 出版不況は構造不況だと幸森さんは指摘する。出版社と取り次ぎ、印刷会社、ネット書店までもが株式を持ち合い、編集者は情と金で作家をつなぎとめる。再販制度は揺るがず、IT化による流通革命も起こらない。「Amazon.co.jp」や「セブン&ワイ」のようなネット書店にも取り次ぎが入って配本しているのが現状だ。

 「出版業界は旧態依然としたムラ社会。既得権益の確保と生き残りに必死で、ITに対して制度の上でも意識の上でも遅れている。放置すれば業界が崩壊していくことは明らか。それで影響を受けるのは、作家と読者だ。作家は生活の糧を失うことになり、読者は欲しい本が手に入らなくなる」

 ダイナミックアークは、この悪循環に一石を投じようという試みだ。書籍の流通から出版社と取り次ぎを抜き、著者と読者を直接つないで間のコストを省略する。その分高めの印税を設定して著者に還元。創作の糧にしてもらう。新刊の大量生産→絶版という負のサイクルのバイパスとなり、作品を直接、読み手に届ける。

 「作家が必死で作った作品が“消費”されてしまっている。これ以上消費させたくない」

原稿やイラスト、作者が書き直すことも

画像 ダイナミックアーク

 ダイナミックアークでは、絶版書籍をFlashの電子書籍に作り直して販売。Webブラウザ上でページをめくるようにして読むことができる。価格は1冊当たり315円で、1回購入すれば何度でもアクセス可能だ。

 著者やイラストレーターから書籍のテキストデータとイラストデータを預かり、1から打ち込み直して電子書籍化。作家から預かったテキストと出版された書籍とを照らし合わせ、口絵を挿入しながら本文を作成する。表紙も、表紙画像に著者名などを新たに合成して作る。

 もとの書籍を出版した出版社には「“仁義”という形で話はしている」が、出版社が持つデータをそのまま複製しているわけではない上、絶版本の著作権はすべて作家にあるため、出版社の許諾を得る必要はないとしている。

 まずは「聖王子ククルカン」(著者、イラストとも安彦良和)や、「影踏みシティ」(著者:あらいりゅうじ、イラスト:KEI)、「ザ・学園超女隊」(著者:団龍彦、イラスト:田中成治)など5作品の配信を開始。近日中に「幻獣の密使」(川又千秋著)、「蒼い人の伝説」(安彦良和著)など8作品を追加する予定だ(今後の配信スケジュール:4月1日現在)。読者のリクエストも聞きながら、収録作品を増やしていく。

 作家が原稿を改訂したり、モノクロイラストをカラー化するなど作品に手を入れることもあるといい、購入者は改訂後も追加料金なしで読める。「永井豪も、本を出した後になって『あそこをこうしたかった、ああしたかった』と言うことがあったから」。打ち切りになったシリーズの続編を電子書籍で配信する、といったことも視野に入れる。

 書籍の電子化やサイト運営だけで大きなコストがかかり、宣伝にはお金をかけられないが、作家が自分のWebサイトなどで宣伝してくれることを期待している。「この本はどこで売っているのですか?」――絶版本についてそんな質問が作家のもとに届くこともよくあるといい、「ここで読める、と言ってもらえれば」。レビューを投稿する機能や作者にコメントを送る機能も備え、読者との交流の場にもしたい考えだ。

出版社は電子書籍の印税率を上げるべき

 印税は売り上げの35%。作家に30%、イラストレーターに5%を配分する。幸森さんによると、紙の書籍の印税率は10%程度、出版社を通して電子書籍化する場合は15%程度が標準といい、35%は破格に高い。「電子配信は紙不要で流通コストもかからないのに、15%の印税率は低すぎる」と幸森さんは言う。

 35%という数字は、漫画コンテンツの無断配信で著作権法違反の罪に問われた「464.jp」の判決(判決文PDF)で、「漫画単行本を電子書籍化した際の印税率は、想定販売価格35%を下らないものと認めるのが相当」とされたことを基準に設定した。この裁判の原告は、漫画家11人。出版社は原告団に参加していない。

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