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新CEO 伊藤穣一氏に聞く、クリエイティブ・コモンズとは(1/3 ページ)

» 2008年04月15日 15時37分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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 ネオテニー社長で、ベンチャーキャピタリストの伊藤穣一がこのほど、クリエイティブ・コモンズ(CC)のワールドワイドのCEOに就任した(関連記事:伊藤穣一氏がCreative CommonsのCEOに)。CCを提唱したローレンス・レッシグ教授が、政治的腐敗の追及に力を移すのに伴い、CEOの職を引き継いだ。

 CCは、米国で2001年にスタートした、ネット上の著作物の流通を円滑化しようという試みだ。クリエイターが自身のコンテンツについて、「商用利用OKか」「改変OKか」「そのコンテンツを使った作品も、同じライセンスで公開することを義務付けるか」という3つの条件を組み合わせた6つのライセンスから1つ選び、コンテンツにマークを付けて公開することで、利用者は、クリエイターから個別に許諾を得ることなく、コンテンツを2次利用できる。

 2003年からCCの理事を務め、06年からはチェアマンに就任、今年4月にCEOに就任した伊藤さんに、CCとは何か、CCによってネットの創作はどう変わりつつあるのか、CEOの役割とは何かなどを聞いた。

CCとは

――CCとは何かを、改めて教えてほしい。

 ネットの世界で、TCP/IPとかHTTPといった標準を作ることで物がつながる、という発想があるが、CCもそういう発想だ。みんなが同じライセンスを使うことで、世界中でコンテンツのリミックスが簡単に行えるようになる。APIでコンテンツをシェアする際も、ライセンスに互換性がないとできない。

 CCに何らかの形で関係している人は約80カ国にいて、うち半数の40カ国ぐらいには、弁護士や裁判官がおり、各国の法律との整合性を見ながらライセンスを決めている。

 CCのコアのライセンスは「表示」「表示-継承」「表示-改変禁止」「表示-非営利」「表示-非営利-継承」「表示-非営利-改変禁止」の6つある。だが「これじゃなきゃだめだ」「これが絶対いい」ではなく、アーティストがチョイスをしたい選択肢を、各国の著作権法をベースに選べる仕組みだ。

 ライセンスと同じぐらい大事なのはCCのメタデータのフォーマットと、それをネットワークが認識することだ。「CC+」(CCプラス)というものがあり、商用コンテンツにCCを付ける際に、著作権以外の条件などのメタデータに付けられる。

 コンテンツがアプリケーションからアプリケーションに移動した際に、ライセンスの種類や、「商用利用ならここにリンクを張りましょう」というメタデータも一緒に移動する、ということが重要。米Yahoo!は、CCのメタデータを処理できる仕組みをバックエンドに入れようとしている。そういった仕組みがなしでは、手動では面倒で、コンテンツからライセンスが外されたりしてしまう。

携帯カメラにもCCを

 許諾を取るのが面倒だから、と著作権法違反してしまうケースは多いだろうから、コンテンツに自動でライセンスが入ったほうがいい。

 携帯電話のカメラにもCCライセンスを入れるべきだ。写真のEXIFとか、動画ファイルのメタデータの中にも入れるべきだろう。写真や動画を撮ったら自分のサイトのURLなどを含めて写真のメタデータに入って、Flickrやニコニコ動画に投稿された際もライセンスが表示される――ということは、今の技術ならば、サービスプロバイダやハードが対応すれば、簡単にできるはず。今はみんな、ライセンスのメタデータを適当に入れてるが、検索サイトなどがちゃんと理解できるようにしたい。

 そういう意味で、家電の国である日本はすごく重要。日本は、ソニーの動画共有サイト「eyeVio」にも入れてくれたし、ニフティの動画共有サイトにも入れてもらえたし、比較的話はしてくれる。ただ、時間がかかるだろう。

CCとOSSの違いは

――CCは、オープンソースソフトウェア(OSS)の活動の流れを汲むもの、と考えていいのか。

 CCはコンテンツレイヤーのOSSに近いが、OSSより少し夢が大きい。OSSのライセンスは500以上あり、ぐちゃぐちゃで互換性も悪くて理解しにくい。僕はオープンソース・イニシアティブ(OSSを推進するためのNPO)の理事もやってたが、腐ってるライセンスを全部なくしてしまおうとしていた。広がってしまったぐちゃぐちゃをどう整理するかが今のOSS。OSSは1つ1つが大きなプロジェクトだが、CCは小さなピースに互換性を持たせるためのもの。

 CCで今問題になっているのはWikipediaのライセンス。OSSのGFDLライセンスを使っているが、できるだけCCと互換性を持たせたいというプロジェクトが進んでいる。

CCで公開すれば、コンテンツが世界に広がる

――CCでコンテンツを開放すると、どういったメリットがあるのか。

 例えば僕はブログをCCライセンスで公開しているが、いい内容の投稿は8カ国語に翻訳してくれる。CCライセンスを明示しているから、いちいち許諾する必要なく翻訳してくれ、きちんとブログへのリンクも張ってくれる。すると、ぼくの写真や記事はいろんなメディアに載って、ぼくの名前やブログURLも入る。

 自分がいいと思う人だけに複製権を渡したいと思うこともあるだろうが、複製する側からすると、いちいち許諾を得なくちゃならないのは面倒。特に、日本語や英語が分からない人は、面倒で僕のブログに来なくなる。互換性のあるしっかりしたライセンスでないと、例えば、「どうぞ使ってください」と僕のブログに書いていても、使われ方によっては「そういう使い方はOKしてないよ」ともめる元にもなる。

許諾は面倒くさい

 僕も昔DJをやっていたのだが、アーティストから月に数百もレコードが送られてきて、「ミックステープに入れてくれ」と電話がかかってきた。そういったことは、ネットの世界になって、法律がどうのこうの、と厳しくなってやりにくくなった。法律は破っちゃいけないものだし、言語の壁とか地域の壁があると、取引コストが高くなる。

 だが、プロでも「この用途なら無料で使ってもらっていい」という人はけっこういる。よくあるケースとしては、フォトグラファーのもとに「サイトにUPされている写真を使ってもいいですか?」と毎日何通もメールが来るという例だ。返事をするのも面倒だし、条件をいちいち書くのも面倒。だが、CCのライセンスがあれば、その条件は40カ国で適用されて、いちいち返事をする必要がない。

 クリエイターへのコンテンツへの自覚を高めることにもつながる。例えば「自分の音楽を使っていいよ」と言った時、本人も、使われ方まではあまり考えていないことが多い。だが、CCのライセンスを選ぶ時は「こういった使われ方は気持ち悪いけど、これは気持ち悪くない」と考えた上で表示でき、提供する方も使う方も安心できる。

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