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MicrosoftのYahoo!買収断念が意味するもの(1/2 ページ)

» 2008年05月12日 09時41分 公開
[eWEEK]
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 米Microsoftの米Yahoo!買収断念で、巨額の金と大きな思惑が絡み、かかわる企業と顧客、業界全体に鑑みて大きな影響をはらんだ3カ月の攻防が終わった。

 MicrosoftはYahoo!買収額を50億ドル上乗せし475億ドルにまで引き上げたが、交渉は決裂した。Microsoftのスティーブ・バルマーCEOによると、2月に株式と現金による買収を提示した際の1株31ドルから、33ドルにまで引き上げたが、Yahoo!が求めていたのは1株37ドルだった。

 バルマー氏は次のような談話を発表している。「買収額を約50億ドルも上乗せするなど最善の努力をしたにもかかわらず、Yahoo!は提案受け入れに動かなかった。慎重に検討した結果、Yahoo!が求めている額は当社が納得できるものではなく、Microsoftの株主、従業員などのステークホルダーにとって、提案撤回が最善の策だと判断した」

 MicrosoftはYahoo!を買収して、Web検索最大手Googleへの対抗姿勢を強める狙いだった。Googleは新しいWebベースアプリケーションで、Microsoftの牙城へ急進攻しつつある。

 実際、Interarbor Solutionsのアナリスト、ダナ・ガードナー氏によると、Googleが競争の先頭馬に浮上する中で、MicrosoftのYahoo!買収失敗は、将来的にエンタープライズ市場に響くかもしれない。MicrosoftのYahoo!への提案撤回により、ネット検索・広告市場でGoogleが首位であり続けるだけでなく、エンタープライズ市場の行く末にも影響を与える可能性がある。

 Googleは企業向けに検索アプライアンスの販売と、クラウドベースのインターネットサービス戦略の一環としてGoogleのサーバでホスティングするコラボレーションスイートの提供を行っているが、エンタープライズ市場での存在感は比較的小さい。これら製品が同社の収益に占める割合は合計でわずか2%程度とみられる。

 しかしコンピューティングの展望はクラウドコンピューティング指向を強めつつあり、Microsoftが手掛けてきたクライアント/サーバおよびパッケージソフトのモデルは脅かされるとガードナー氏は言う。企業は既に、Googleが同社のデータセンターでホスティングしているアプリケーションの利用に目を向けている。Microsoftも同じ地位に立ちたいと考えており、その助けとしてYahoo!――あるいはYahoo!のような企業――を必要としている。

 「クライアント/サーバベースのアーキテクチャという旧来のアプローチはコスト効率が悪いという認識が浸透している」とガードナー氏は言い、多くの企業でPC 1台の維持管理費は月額1000ドルを超すと言い添えた。

 さらに、Microsoftが手塩にかけたWindows Vistaが発売されても、こうした負担は何も解消されなかったため、企業はクラウドベースコンピューティングやSaaS(サービスとしてのソフトウェア)といった代替に目を向けることになる。

 結果的に、もしGoogleのような企業が月額12ドルでアプリケーションを顧客に提供すれば、クラウドに目を向ける企業が増えるとガードナー氏は見る。「結局は価格競争になる。かつての利益率の高い自社運用型ソフト事業から、利益率が低い大容量クラウドベース事業に移行することを意味しているため、Microsoftにとっては不利だ」

 Ovumのアナリスト、デビッド・ミッチェル氏によると、クラウドに進出しようとするMicrosoftにとって、Yahoo!は確立された欧米市場で大量のユーザーをもたらしてくれる存在だ。

 「(Yahoo!ユーザーを獲得できていれば)貴重な顧客基盤を拡大することができ、Microsoftのクラウドベース製品を使ってもらえる可能性があった。急ピッチで浮上し、今後も浮上し続けるクラウドサービスは、Yahoo!の技術力があれば市場に出すペースを加速できていただろう」とミッチェル氏。しかし「Microsoftはどんなことができていたかを考えて嘆くよりも、迅速に動く必要がある」

振り出しに戻ったMicrosoft

 MicrosoftがYahoo!買収提案撤回を決めたことで、恐らく両社で多数のトラブルが回避されたが、数カ月にわたったゴタゴタで両社ともある程度衰弱し、すべてが始まる前の状態、つまり、Googleが独占しているインターネットマーケティングの分野でどうシェアを伸ばすかを模索する状態に戻った。

 「もしGoogleの立場だったらほくそ笑んでいるはずだ」と話すのは、Yankee Groupのアナリスト、ローラ・ディディオ氏。Googleが満足感に浸っているようなことはないだろうが「これで時間が稼げる。敵が衰弱したばかりか、次の動きを考えることに気を取られるのだから」

 MicrosoftとバルマーCEOは構想を練り直す必要があるだろうとアナリストは言う。しかし同社には既に、多様な製品群や、日々同社製品を利用している何億人ものユーザーといった大きな資産がある。

 現時点で真にプレッシャーがかかっているのはYahoo!のジェリー・ヤンCEOだ。同氏はMicrosoftと業界に対し、Microsoftが最終的に提案してきた1株33ドル以上の価値がYahoo!にはあることを証明しようと、さまざまな動きに出た。結局Microsoftはこれを否定し、ヤン氏は自らが仕掛けた多様な戦略でYahoo!が浮上することを願うしかない。Microsoftが提案撤回を発表した後、Yahoo!株が15%以上下落した状況ではなおさらだ。

 ヤン氏はまた、疑念を持つ株主にどう対処するかの決断も迫られる。株主の半数は買収成立を望み、さらにそのうちの半数以上がMicrosoftの株主だとディディオ氏は指摘する。Yahoo!とYahoo!取締役会がMicrosoftによる買収を成立させなかった責任を問う集団代表訴訟も起こされた。

 「ヤン氏は苦境に立たされている」とディディオ氏は指摘し、Yahoo!のライバルがGoogleのような超人気企業でなければ状況もそんなに悪くはなかったのだが、と言い添えた。「ほかの市場であれば、そしてライバルと対等に肩を並べている場合であれば、(ヤン氏の)取り組みは良いといえる。しかしこの市場では、良いというだけでは不十分なのだ」

 Forrester Researchのシャーリーン・リー氏も同じ見方で、5月4日付のブログで次のように述べた。

 「Microsoftに買収される恐れがなくなった今、Yahoo!には猶予期間が与えられたが、Yahoo!には1株37ドルの価値があるという信念の裏付けとなる戦略を説明・実行しなければならない。さもなければ別の買収提案にさらされ、株主が反乱を起こすだろう」

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