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» 2008年07月01日 07時00分 UPDATE

ファン目線すぎて「きもい」と言われた――ネット時代の音楽ニュース「ナタリー」

音楽ニュースサイト「ナタリー」は、ファン目線に徹しているのが特徴だ。毎日1500のアーティストサイトを回り、「きもい」と言われるほど細かく情報収集。TwitterやFacebookなど“Web2.0ツール”を活用しながら、集めた情報をネットの上に広げていく。

[岡田有花,ITmedia]

 音楽サイト「ナタリー」は、読者から「きもい」と言われたことがある。あまりに情報が細かすぎ、コアな音楽ファンが作っていることが、記事から垣間見えたらしい。

画像 ナタリー

 一般の音楽雑誌のようにドラマチックなインタビューや、新人アーティストの大げさな売り込みはないが、岡村靖幸さんが法廷で朗読した自作の詩の全文や、雑誌「婦人公論」で、X JAPANのTOSHIが「洗脳騒動」の真相を激白など、ファンなら気になるニッチな情報や深い情報を、日刊で更新する。

 メインの情報源は、アーティストの公式サイトやブログだ。1日1500のサイトをスタッフが目視で確認。ブラウザのタブを切り替えながら、ネタを拾い上げて記事にする。雑誌やテレビ、ラジオもチェックし、人力・アナログで情報収集。それをWebサイト、メールマガジン、ブログパーツ、Twitter、Facebookアプリなどデジタルの最新ツールで配信し、ネットの上に広げていく。

 ページビューは月間130万〜150万。上昇軌道に乗り始めたが、ビジネスはギリギリだ。社長を含めた幹部は先月まで無給で働いてきた。記事の外部サイトへの販売が軌道に乗り始め、今月からやっと全員に給料を支払えるのだという。

個人サイトから、音楽ポータルに

画像 大山社長

 ナタリーを運営するナターシャは2006年2月、音楽関連の編集プロダクションとして設立。社長の大山卓也さん(36)は、元メディアワークスで「電撃オンライン」を担当していた編集者。今年5月に閉鎖した人気サイト「ミュージックマシーン」管理人でもあった。

 ミュージックマシーンは、音楽関連情報の個人ニュースサイト。徹底したユーザー目線で本当に面白いと思ったニュースだけを、コメントを付けて淡々と更新していた。1日平均2万程度のページビューがあり、サイト巡回ツール「はてなアンテナ」登録数1位だったという。

 「これまでのメディアは、広告と結びついた記事も多く、メディアが推したいアーティストを推していた。だが、読者が欲しい情報だけを届けるメディアを作ってみたい」――大山社長はミュージックマシーンを運営しながら、そう感じていたという。個人サイトではなかなか手の届かない1次情報もユーザー目線で発信し、ネットだからこそできる双方向メディアにも、挑戦してみたかった。

収益モデルは、特に考えていなかった

 ユーザー目線の音楽サイトを作ろう。そう決めてナターシャを設立。「ナタリー」の準備を始めた。

画像 オフィスは世田谷区の一軒家だ

 会社を作ったものの、収益モデルは「特に考えてなかった」と、大山社長はしれっと言う。「どうやって回していくか、計画はなかった。みんなが欲しいメディアがあれば便利だし、いいものを作ればお金はなんとかなるだろう、と思って」

 東京・下北沢に一軒家を借りてオフィスにし、社長を含めた3人で、サイトの構想を考え始めた。最初に考えていたのは、登録したアーティストの情報が手に入るメールマガジン単体のサービス。情報を押しつける旧来型音楽メディアではなく、欲しい情報が手に入るWebならではのメディアにしたかった。

 だが「せっかくならサイトがあったほうがいい」「これからはSNSだ」など、議論していくうちに欲しい機能がどんどん増え、盛りだくさんのサービスに。会社設立から1年経った07年2月になり、ナタリーはやっとスタートした(音楽ニュース&SNS「ナタリー」)。

会社が回るわけがない

 音楽の好みが似たユーザーと交流できるSNSや、CD発売日などを管理できるカレンダー機能など、さまざまな機能を詰め込んでオープンしたが、利用者数が低迷した。「ナタリーって面白くないんじゃないか」――社長本人がこぼすほどの状態だった。

 ビジネスも、何ともならなかった。Amazon.co.jpのアフィリエイトやGoogleのAdSenseを入れていたが「お小遣い程度で、会社が回るわけがない」(大山社長)。

 社員ライターが、外部の雑誌など仕事を引き受けて運営資金をまかなう状態が続き、社長を含む幹部の給料も出なかった。「最初はみんなに『給料を払ってすらいいと思っている』なんて冗談で言っていたが、だんだん笑顔が引きつってきた」(大山社長)

「情報が早すぎてきもい」と言われる

 ナタリーからの収益が上がり始めたのは07年夏ごろ、外部サイトへのコンテンツ販売を始めてからだ。携帯電話向け「モバゲータウン」などに販売し、安定した収入が入るようになった。

 その冬には、利用が伸び悩んだSNS機能などを整理。「ニュースを核にしよう」と改めて決め、面白い原稿が書けるライターを投入し、コンテンツにこれまで以上に力を入れ、ナタリーらしさを打ち出していこうとした。

 今年5月2日にレポートした岡村靖幸さんの初公判は、ナタリーらしい記事の1つと自負する。バイト総出で17人で並んでやっと1枚の傍聴券を手に入れ、大山社長が1人で傍聴。岡村さんの似顔絵も社長が描き、イラストレーターに手直ししてもらって掲載した。法廷で岡村さんが音読した自作の詩が、公判終了直後にほぼ全文載ったWebメディアは、ナタリーくらいだ。

 Perfumeに関する情報のきめ細かさにも定評があり、読者から「情報が早すぎてきもい」「ストーカー」などとコメントが付いた。「企業のメディアで“きもい”と形容されたのは、ナタリーぐらいでは。ファン目線で、かゆいところに手が届く、というほめ言葉だと思ってる」

 現在のスタッフは15人。ライターもデザイナーも技術担当も「音楽好き」が採用条件だ。「過酷な労働環境だけど、ライブやフェスの時は早退したり、休める」という。

コンテンツを、テクノロジーで広げたい

画像 立薗さん

 ナタリーは、アーティストの公式サイト、雑誌、書籍、テレビ、ラジオなどさまざまなメディアに散らばった情報をまとめ、アーティストごとに分解し、ネットに載せて必要な人に届けている。「旧来のメディアに取って代わるのではなく、メディア間のハブになりたい」と大山社長は言う。

 届け先を増やすために、Twitterを使った情報配信やiPod touch向けサイト、Facebookアプリ、英語版、ソーシャルブックマーク連動機能など、外部の“出口”を増やしてきた。「それぞれコストは低い。やってみてダメならあきらめればいい」(技術担当の立薗理彦さん)という腰の軽さだ。

 英語版は今年4月に公開した。「国を超えても特に違いはない。ダメならやめらいいじゃんというノリ」――Nokiaの日本法人など、外資企業で働いた経験を持つ立薗さんは言う。

 同社の15人のスタッフのうちほとんどがライターで、技術を担当しているのは2人だけだ。「ナターシャはITベンチャーではなく、あくまでコンテンツの会社。テクノロジーはコンテンツをいかに広げるかのドライブだ」(大山社長)

画像

 サイト名の「ナタリー」の由来は「Windowsメッセンジャー」の音だという。「『Windowsメッセンジャー』でメッセージが来たときの『ピロリン♪』という音が、『ナタリー♪』に似ているから、ネットを通して情報が届く音は『ナタリー』だと思った」(大山社長)。社名のナターシャは、「ナタリーを作る会社」だからナター「社」だ。

 サイトのキャッチコピーは「音楽ファンの一里塚」「飛び出せ!愛され破壊神」「ゆるふわ愛され音楽ニュースサイト」「最新型音楽ニュースサイト」などと変遷してきた。すべて大山社長が付けたもので、独特のセンスが光る。

 「キャッチコピーも機能もトライアンドエラー。反応を見て修正しながら、Webならではのスピード感で進んでいきたい」(大山社長)

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