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「日本人が優しすぎるから」――ニコ動で“育つ”香港の歌姫(1/3 ページ)

» 2008年09月05日 15時46分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 歌うのは、お風呂に入っている時の鼻歌ぐらい。人前で歌うのは恥ずかしいから、カラオケにもほとんど行かない。歌は下手だと思っていた。

 そんな彼女が歌声を届け始めたのは、日本のニコニコ動画ユーザーの優しさに感動したから。透んだ声が今、「ニコ厨」たちの心に響く。

 ハンドルネームは「ほんこーん」。香港に住む高校3年生・18歳の女の子だ。母語は中国語だが、日本語を話し、丁寧な日本語で歌う。

 遊びで「組曲『ニコニコ動画』」を歌い、日本人へのメッセージを添えてニコニコ動画に投稿した。それっきりのつもりだったが、日本人からの優しいコメントがうれしくて、歌い続けた。

 歌い始めて1年も経たないが、急激に成長した。どんどんうまくなっていく自分に、自分でも驚く。「歌手になりたい」。今はそう思う。

 この夏5回目の来日を果たした。これまでのような家族旅行ではない。NHK BS2の番組「ザ☆ネットスター! 9月号」(9月5日午後12時〜)で歌うために。

画像 「恥ずかしいから」と顔は見せてくれなかったが、「ネットスター」では顔出しで歌っている。「香港で買った日本のブランドの服なんですが、日本の流行とは違って恥ずかしい。日本でいっぱい服を買っちゃいました」

 来日した彼女は、ふわっとしたシフォンブラウスと、肩まで伸びた真っ黒のストレートヘア。眉毛の上で切りそろえた前髪に、ふちなしの眼鏡がよく似合う。照れくさそうに話す姿は、中学生ぐらいにも見える。

 日本語も上手。「私ニコ厨だよ、サーセン」なんて“ニコ動用語”もナチュラルだ。

 そんな彼女にファンへの気持ちを聞いていたら、突然泣き出してしまった。「みんな優しすぎて、感動します」――眼鏡を外して涙をぬぐう。

 「テレビに出る直前はすごく緊張していて、それをmixi日記に書いたら、ファンのみんながコメントで『緊張しないで、笑顔で歌えばいいよ』って応援してくれて……。日本人は、優しすぎます。みんな大好き」

小学生からオタクなんです

 歌の動画にはたいてい、自作のイラストを付ける。歌よりも絵のほうが得意だと思っていた。人気の初音ミク曲「メルト」を歌ったときは、自作の絵だけで動画を作った。

 「小学生からオタクなんです」――絵のキャリアは小学校5年生から。歌よりずっと長い。

 5年生の夏休み。暇だったから、人気漫画「ふしぎ遊戯」のキャラクターなどを描いてみた。同い年の子よりうまくてほめられて、うれしくて描き続けた。中学3年生のときに初めて同人誌を作った。香港の同人イベントにも出展する。

 日本語を学び始めたのも5年生の夏休み。ゲームマニアのおじさんの家で暇を持て余し、日本のゲームを手に取った。「セガサターン」の「サクラ大戦」だ。

画像 自画像(左)と、動画でよく描いている「ほんこーん」のキャラ。「私は顔が地味だから、ほんこーんのキャラと一緒に描きました」

 日本語は分からなかったが、漢字から意味を推測してやってみたら面白くて、ハマった。グッズやポスターで部屋を埋め、アニメDVDやキャラクターソングの入ったCDを買って日本語を勉強した。中学2年生から日本語の塾に通い、本格的に学んだ。

 香港では日本のポップカルチャーが流行しており、両親はアジア好き。日本の食べ物や音楽、ファッションには小さいころから親しんでいた。家族旅行で初めて来日したのは6歳のとき。前回の来日――16歳のときは夏コミにも足を運んだ。

「ニコ厨」に

 中学生のころからネットが好きで、学校から帰るとすぐPCに向かう。1日8時間ほど、台湾や日本のサイトを見たり、友人とメッセンジャーでチャットする。

 ニコニコ動画を知ったのは昨年5月。台湾のサイトで面白いMADが紹介されていたのを見て興味を持ち、アカウントを取った。毎日ランキングをチェックし、夏休みはずっと見ていた。「中毒になりました」

 投稿したことはなかったし、しようとも思わなかったが、ある日出合った1つの動画に心打たれ、歌を歌って投稿しようと思い立った。

 その動画は昨年11月にアップされた「日本人が台湾人にお返しの組曲作ってみた」。同年8月、台湾のニコニコ動画ファンたちが集まり、「組曲『ニコニコ動画』」を合唱した動画に対する、日本人有志からのお礼の動画だ。

 作ったのは「NNT団」。台湾の動画に感激した有志が「2ちゃんねる」に集まり、「お礼をしたい」と話し合い、3カ月かけて作り上げた。メンバーは掲示板やチャット、Web会議などで連絡。完成まで1度も顔を合わせていないという。

 絵コンテから描き起こして13分の動画を作り、歌詞にも台湾人への感謝を埋めこんだ。「台湾がすげぇと笑いながらコメント」「国が違っても僕たちは友だちさ 僕たちは同じニコニコで笑いあえる」――

 ほんこーんさんはこの動画に心を打たれた。「日本人は本当に優しいなと感動して。香港人もニコニコ動画が好きだから、私も日本のみなさんにメッセージを届けたいと思って」

 そして初めて、「歌ってみる」ことにした。

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