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個人クリエイターに収益を――「面白いもの、広めたい」とスパイシーソフト

» 2008年09月22日 10時04分 公開
[宮本真希,ITmedia]
画像 マンガ★ゲット

 「面白いものは広まるという仕組みを作りたい」――スパイシーソフトの山田元康社長は話す。同社は創業間もないころから、個人クリエイターを応援してきたという。

 2001年、個人クリエイターが自作アプリを配信し、収益も得られる携帯サイト「アプリ★ゲット」をスタート。今夏、自分で描いた漫画を携帯電話向けに無料配信し、人気が出ればお金がもらえる「マンガ★ゲット」を始めた。

 マンガ★ゲットの広告収入はすべて漫画家に分配している。1カ月に数万円稼ぐクリエイターもいるが、同社の収益はゼロだ。「3年間くらいはゼロでもいい。『初めて描いた漫画を公開するのはマンガ★ゲットで』という新しい文化を作ろうとしているのだから」と山田社長は意に介さない。

 赤字を出しながらもなぜ、こんなサイトを運営するのだろうか。話は創業から1年後、2000年にさかのぼる。

個人でも、面白いものは作れるはず

 「もうすぐ携帯でアプリが動くようになるらしい」――新事業を模索していた2000年夏ごろ、そんな話を聞きつけ、ゲームアプリを配信する公式サイトを作る計画を立てた。だが当時は実績も知名度もない小さな会社。公式サイトの審査に通らなかった。

 「公式サイトを作ることが難しい人でも、面白いものは作れるはず」。中小企業や個人で活躍するクリエーターを応援したいと考え、01年にスタートしたのが非公式サイトの「アプリ★ゲット」だ。

 クリエイターは「作者」登録し、アプリを配信する。有料配信すれば、売り上げの一部(割合は配信形態によって異なるが、約7割など)が作者のものになる。人気が出れば、iモード公式サイト「アプリ★ゲットDX」でも有料配信できる。

 アプリのクリエイターは現在約1200人。開設3年めごろから、サイトの収入だけで生計を立てる“専業”クリエイターも現れた。今は10人ほどが専業で、中には月200万円を稼ぐ人も。アプリ★ゲットで配信していた個人クリエイターがアプリ制作会社を設立した例もある。

 サイトに掲載する広告と、有料配信アプリの売り上げの一部が同社の収益になる。人気アプリが増え、売れっ子クリエイターが増えるほど、同社の収益も増えるという正の循環が回っている。

アプリ制作者と漫画家の違い

画像 山田社長

 山田社長はある時、アプリ★ゲットだけで生計を立てているクリエーターに話を聞く機会があった。「アプリ★ゲットで稼ぎながら、悠々自適にスローライフを送っている」男性だったという。

 彼の兄は漫画家。寝る間もないほど忙しく働いているにも関わらず、弟よりも収入が少なく、その上漫画を掲載していた雑誌が廃刊になってしまった――という状況だと聞かされた。

 「アプリのクリエイターならばゲーム会社に就職することも可能だが、漫画家は就職口が少なく、作品は雑誌に掲載するしかない」

 自作漫画を無料配信できる「マンガ★ゲット」を作ったのは、漫画家に作品発表の場と収入を得る手段を提供するためだ。今年7月にクローズドβ版としてオープンし、8月に正式版を公開した。

「1億円プレーヤーを輩出したい」

画像 マンガ★ゲット

 マンガ★ゲットでは、作品の閲覧数やレビュー数、ファン登録数が増えるとポイントが貯まり、ポイント数に応じて広告収入の一部が漫画家に毎月分配される。

 現在、550人の漫画家が2000作品を配信している。3万回閲覧されている作品もあり、8月に数万円の収入を得た漫画家もいる。

 アダルト作品の配信は禁止。「少年マガジンや少年ジャンプを読んでるようなユーザーが、安心して利用できる場にしたい」という。

 電子コミック市場は伸びている。同社によると05年は40億円だったが、昨年は190億円に拡大した。配信されているのは、有名作品か18禁が多く、価格は単行本より高いという。

 一方、漫画雑誌は休刊が相次ぐなど苦戦している。「雑誌がなくなればファンが減り、単行本や電子コミックを買う人も少なくなる」。漫画文化そのものの元気がなくなるのではと心配する。

 マンガ★ゲットで個人の漫画を無料配信することで、ファンを増やし、漫画文化を盛り上げたい考えだ。「3年以内にマンガ★ゲットから、1億円プレーヤーを輩出したい」と意気込む。

海外展開も

 今後は両サイトの海外展開を検討する。まずはマンガ★ゲットで、せりふを自動で翻訳し、配信できる仕組みを準備中だ。

 携帯で漫画を描けるような機能を提供することも、今後の目標。「携帯はPCと違って遊ぶだけで終わってしまいがち。創造する方にも興味を持ってもらえれば」と話す。

 クリエイターが収益を上げられる仕組みを、アプリや漫画以外の分野にも広げたいという。「どこの分野のクリエイターが困っているのか。満足していないクリエイターがいるなら、解決したい」

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