「だって夜は眠るものじゃないですか」。営業時間は、午前10時から午前0時。Webブラウザ上で利用できる2D仮想空間「Nicotto town」(ニコッとタウン)は営業時間の決まった規則正しい仮想空間だ。
アバターを着替えさせたりチャットしたり、ブログを書いたり、ゲームをプレイして楽しめる。2008年9月に正式公開し、09年9月5日には登録者数が30万を突破。月間ページビュー約3億のコミュニティーに成長した。
深夜は一般的に、チャットサービスやオンラインゲームが盛り上がる時間だが、ニコッとタウンでは、一部のゲームエリアを除き、仮想空間すべてをクローズする。早々に店じまいをするのは、「夜は眠るもの」だから。ニコッとタウンを運営するスマイルラボ(スクウェア・エニックス100%子会社)の伊藤隆博社長は、平然と笑う。
理由は、ユーザーに眠ってもらうためだけではない。「日本人は途中で『帰りたい』と言いづらい。飲み会をいったん締めて、行きたい人だけ2次会にいくのと一緒で、午前0時にいったん終われば、『あぁ終わりですね』と帰りたい人は帰れる」。居心地のいい場を目指しているという。
男女比は3対7。圧倒的に女性が多い。20〜40代が75〜80%。このサイトで初めてコミュニティーや仮想空間に触れる初心者ユーザーも多いという。
日本人向けに特化した空間作りが特徴だ。「世界一かわいい」と自負するアバターや、浮世絵師の絵を参考にしたタウンデザイン、インターフォンを押さないとほかのユーザーの部屋に入れない仕組みは日本ならではだ。
「グローバリゼーションは、徹底したローカライゼーション」――日本ならではの繊細な“もの作り”こそが世界に対抗するための手段だと、伊藤社長は話す。
アバターは、日本人の目で見て「かわいい」と感じるデザインを追求した。2Dでイラストタッチ。目のパーツだけで100個以上用意し、厳選に厳選を重ねたという。
男女のアバターではミリ単位で寸法が異なり、女性アバターの足は内股になっている。そのため同じパンツでも、女の子と男の子は別デザイン。アバターアイテムを男女で2パターン作らなくてはならなくなる。「コスト2倍だ、どうしよう、と思ったが、アバターデザインを買って頂くからには、世界一かわいいアバターと言いたい」から、コスト度外視でこだわる。
ニコッとタウンの街は2Dで描かれているが、奥行き感のある立体的な絵だ。安藤広重の浮世絵「東海道53次」のパースを参考に、立体的に見えるよう描き込んでいるという。タウンデザインにも妥協はしない伊藤社長は、ユーザーに分からないレベルでも、パースが狂っている場合には描き直させる。藤色や山吹色といった日本の伝統色を使い、タウン全体をくすんだ柔らかな色に見せている。
デザインにこだわるのは、美大出身で、シューズブランド「卑弥呼」でデザイナー経験もある伊藤社長ならでは。「世界と戦うためには、最も自分が得意なことをやらないと。だったらデザインを売っていこうと考えた」
仮想空間が世界的に流行し、海外サービスが日本にやって来た時に備え、競争力を高める意味もある。「海外の会社にできないのは、ローカルな国民がかわいいと思う絵を描くこと。仮にできたとしても、海外企業は業務効率を重んじるので基幹システムやベースデザインは外国で展開しているものと同じになり、徹底的なローカライズはできないと思う」
目指すのは、海外企業にも負けない、10〜20年後も続く息の長いサービス。「合理化ではなく、日本の匠(たくみ)の世界、職人の世界、こだわりの世界。それが本来のもの作りで、世界に対抗するための唯一の手段だと思う」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR