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「萌えやツンデレを輸出すべし」――パロ同人誌を合法化、国際化するには漫画家・赤松健×小説家・桜坂洋 電子書籍対談(中編)(1/2 ページ)

» 2011年02月07日 14時51分 公開
[ITmedia]

作家は一次産業という本来の姿に立ち返る 赤松健×桜坂洋

 iPhone/iPad向け電子書籍「AiRtwo」(エアツー)に掲載されている、漫画家・赤松健さんと小説家・桜坂洋さんの対談「作家は一次産業という本来の姿に立ち返る 赤松健×桜坂洋」の一部を、特別編集版として公開します。AiRtwoのダウンロードはこちら


前編:作家から見た「絶版」

同人誌を世界へ

赤松 ライトノベルでは、意外と作家名では売れないそうですね。

画像 桜坂さん

桜坂 たしかに、作家名では売れないですね。作家ではなく作品ごとにファンがつくんです。とても有名な作家であっても、次の作品にファンがスムーズに流れるわけではない。

赤松 ほかの業界でも起こりうる話ですよね。たとえば映画『おくりびと』(2008)の滝田洋二郎監督の場合、モントリオール世界映画祭でグランプリを受賞した後すぐに封切られた『釣りキチ三平』(2009)が結構不調だったり。

 みんな監督名では観ていないんだな、ってわかった。たとえ深作欣二監督レベルの方であっても、ガラッとカラーを変えた作品を出したとしたら、映画館の前を通っても気づかれないんじゃないかなと思いました。

 だからこそ成功した作品の続編ブーム、スピンアウトブームになるのかなあ。この点、ライトノベルは、作者にとってはつらいかもしれないですね。

桜坂 そうですねえ。作家にファンがつくなら、マンガはいいなあ。

赤松 それは絵柄が好まれるからなのかな。作風かな。いや、作風といったら、ライトノベルだって文体は変わらないわけだし。

桜坂 作品に広告を入れて、DRMをかけない。その広告つきのファイルがコピーされて増殖するのはむしろ歓迎という、赤松流の広告モデルでいくと、今まで誰も解決できなかった、同人作品を公式化できる可能性も視野に入ってきますよね?

赤松 広告モデルであれば、たとえば『キャプテン翼』(集英社、1981)の高橋陽一先生が許可を出しさえすれば、同人作家と原著作者である先生が広告収入を折半して、『キャプテン翼』のカップリング小説や同人誌を世界に広める、ということも可能になります。性表現があると、相当危ないですけど。

桜坂 そうすると、同人誌も堂々と表を歩けるようになりますね。まあ、描いているかたたちが公認を望んでいるかどうかはまた話が別ですが。

画像 赤松さん

赤松 コミックマーケットの準備委員会が、倉庫にものすごい数の見本誌を保管しています。しかし、これらの同人誌は禁帯出。二次創作の同人誌を建物から外に出したら、それは著作権違反の書物でしかない。やはりパロディ同人誌は、著作権的には黒、違反なんです。本当は売ったら駄目。黒であることを、なんとか黙認してもらうことで、保たれてきた場だった。

 これを原著者の了解を得て、著作権もちゃんとして合法化したらどうか、という話が出てくると、コミケの根幹に関わる大事になってくる。だから、我々が提携を申し込んでも「その申し出は大変に素晴らしいけれども、協力はできない」と断られました。

 一方、ガレージキットの見本市、ワンダーフェスティバルでは、当日その会場のみに通用するライセンスを許諾してもらうという「一日版権」の制度をつくって、権利関係を明確にして即売しています。

 だからコミケでもこれを踏襲する手があったと思うのですが、コミケ準備会の方針で、やはり権利関係を明確にはしないようです。それで僕は「では我々の方で、同人誌の合法化実験をやってみます」と言ってあるんですけどね。

桜坂 こと同人誌には、いろいろ揉めてきた歴史がありますからね。

赤松 コミケも、出だしの設立当初に権利処理を行っていれば、今とは違った様相になっていたかもしれませんよ。

桜坂 それはどうかなあ。コミケが盛り上がったきっかけは『キャプテン翼』の「やおい」ものだから、難しかったんじゃないかなあ。

赤松 確かに、一次創作者サイドの許可が出ないかもしれないですよね。エロだしね。やっぱダメか(笑)。

 僕自身は、二次創作同人誌が描かれることは、ファン活動としても非常に嬉しいんです。でもたまに、二次創作の方から、「『ネギま!』のショートストーリーを書いたんですが、ネットで発表してもいいですか?」ってモロに聞かれることがあるんです。

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