ITmedia NEWS > 社会とIT >

「財布を持ち歩くのはかっこ悪いという時代がくる」──リアルを狙うソフトバンクとPayPal提携

» 2012年05月09日 15時14分 公開
[ITmedia]

 「5〜10年先には若者がお財布を持ち歩くのはかっこ悪いと思う時代がくるのでは」──ソフトバンクと米PayPalの戦略提携では、スマートフォンをクレジットカード決済端末として使うことができる「PayPal Here」を日本で展開し、ネットだけではなくリアル店舗でも使えるO2O(Online to Offline)ナンバーワンの決済インフラ確立を目指す。

 5月8日、孫社長と、PayPalを傘下に持つ米eBayのジョン・ドナヒューCEOが都内で会見して発表した。孫正義社長は「日本の決済市場を変える。一気に日本の消費者のライフスタイル変える」と意気込んだ。

photo (右から)PayPalのデビッド・マーカス代表、孫社長、eBayのドナヒューCEO、新会社CEOに就任する喜多埜氏
photo PayPal Hereに使うカードリーダーは1200円程度の安価なもの。ヘッドフォンジャックでiPhoneに装着できる。Androidにも対応

 提携では、両社で10億円ずつ出資し、新会社「PayPal Japan」を7月までに設立。CEOとして前ヤフーCOOの喜多埜裕明氏(現ソフトバンクモバイル常務)が就任する。

 新会社は国内で「PayPal Here」を展開していく。PayPal Hereでは、iPhone/Androidに装着可能な小型クレジットカードリーダーと無料の専用アプリを組み合わせ、スマートフォンをクレジットカード決済端末に使う仕組みだ。

 飲食店での支払いの場合、客のクレジットカードを店のスマートフォンとリーダーで読み取れば、代金が店のPayPalアカウントに支払われる。レシートはユーザーにメールなどで届く。客はPayPalアカウントを持っている必要はない。客がPayPalアカウントを持っていれば、スマートフォン上からPayPalで支払うことも可能になる。

 ユーザーがスマートフォンアプリでお店に「チェックイン」すれば、店舗がアプリからユーザーを確認し、買い物代金をPayPal経由で請求するお財布いらずのショッピングも可能になるとしている。

 カードリーダーは1200円前後でソフトバンクショップで販売する予定。初期費用や月額利用料などは不要で、決済する金額の5%を徴収する。支払われた代金は最短3日間で引き出せるなど、迅速な資金回収が可能な点もアピールする。

photo

 孫社長は、中小の飲食店などがクレジットカード端末を導入するにはコスト面などから難しいが、PayPal Hereなら安価かつ簡単に導入できると指摘。「これまで現金しか現金しか受け付けられなかった中小店舗でも気軽にクレジットカードを利用できるようになる」という。

 ソフトバンクは、ソフトバンクショップや法人営業網を活用して全国の店舗にPayPal Hereの普及を進めていく。「一気に100万、200万まで増やしていきたい」(孫社長)

 PayPal HereはiPhone向けに5月8日から一部店舗に提供を開始。7月ごろをめどに一般に提供していく計画だ。

「eコマース」から「e」はなくなっていく

 eBayのドナヒューCEOは「これから3〜5年間の間に10〜20年続く変化が起きる。わたしたちは転換点にいる」として、スマートフォンやソーシャルメディアの普及で「Eコマース」(電子商取引)と呼ばれてきたものが変わると指摘。「米国では、買い物行動の中でネットで商品や店舗を検索することが当たり前になっている。既に『eコマース』から『e』が落ち、『コマース』になっている」と、商取引でネット・リアルの区別はなくなっていくとの認識を示す。

 PayPalは1億1000万超のアクティブアカウントを抱え、2011年に1180億ドルの取引実績を持つオンライン決済の標準サービスだが、日本での普及はいまひとつ。ドナヒューCEOは「グローバル決済会社として日本でも一番にならなければならない」とし、「オフラインでもナンバーワンのサービスを目指す」と力を込める。

 おサイフケータイやNFCなど、スマートフォンを使った決済も携帯電話事業者などが普及を狙うが、孫社長は「基本的には小額決済であり、チャージが面倒といった問題がある。PayPal Hereはクレジットカードをそのまま使えるので、何十万円であっても使える。PayPalからも払えうことができ、支払いの幅が広がる」とした。

 eBayとの提携については、孫社長が数カ月前に「雑談的に」eBayを訪問したのがきっかけという。かつて国内ネットオークション事業で競争した両社だが、「当時のメグ・ホイットマンCEOとオークションを合弁でやらないかという話をしていて、ギリギリまでいったが結果的に競合になった。そういうことが中国などでもあり、4度目の正直として何かやらないかと。それがほんの2ヶ月半前で、一気に合弁発表までこぎつけた」(孫社長)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.