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» 2012年05月21日 17時11分 UPDATE

新連載・部屋とディスプレイとわたし:「中二」という病(やまい)と音楽産業 (1/3)

若者が盗んだバイクで走り出したり、支配から卒業していた時代は遠くに過ぎ去った。いま音楽産業は「中二病」を取り込めていないのではないか。作家・堀田純司さんによる新連載の第1回目。

[堀田純司,ITmedia]

オリコンデイリーランキング3位が693枚という時代。若者が盗んだバイクで走り出したり、支配から卒業していた時代は遠くに過ぎ去り、現代のメジャー音楽は「中二病」を取り込めていないのではないか。昨今のコンテンツ事情に詳しい作家・堀田純司さんの連載1回目は中二病と音楽産業について。(編集部)


 先日、オリコンのデイリーランキングで、「1日の売上693枚のCDが3位に入った」という話題がネットに流れ「じゃあ数百枚買えば、自分の出した“オレCD”でもオリコンのランキングに入ることができるのか!」と、大いに注目を集めました。

 かつてバンドブームの時期に青春を過ごし、ミュージシャンを夢見て東京に出てきた過去を持つ私にとっても、感慨はひとしおの話題です。もっとも、某拙著などはデイリーどころかオールタイムで数百部しか売れず、出版界でも稀有な黒歴史となっており、まったく笑っている場合ではありません。

 私が末席を汚す出版分野もご多分にもれず低迷がささやかれ、人様のことを心配している場合ではないのですが、音楽産業も「若者のCD離れ」といった話題で、不振がしばしば報じられます。原因は複雑だろうと思いますが、私はその理由のひとつとして、音楽産業が「中二病」の変化に対応できていない。現代の「中二病」にキャッチアップしていないのが大きいのではないか、と思っています。

「思春期産業」としての音楽産業

 「中二病」。それは思春期を過ごす少年少女の特有の、肥大した自我についてまわる青い妄想や幻想を指します。ネットを通じて流通し、今では一般社会にまで浸透するようになった言葉だと感じますが、しかしもともとこうした思春期の「イタい心情」は、人間の歴史に普遍的に見られるものであり、昔から発症しアウトブレイクしてきた病でした。そして本来、音楽産業はこうした思春期的心情をよく汲み上げ、いわば思春期産業として機能してきたものでした。

 しかしかつての中二病。「中二病」という言葉が成立する以前の中二病は、今と変わらないようでいて、結構違います。それは「若さゆえの理想主義」「社会への反発」「反逆ののろし」といった空気が濃厚で、「反抗期」などとも呼ばれました。そしてこうした気分は、もちろん娯楽分野にも濃厚に反映されていました。

 たとえばアニメーションの巨大ロボットもの。中でも1979年に放映された「機動戦士ガンダム」などでは、少年が白い巨人と出会うことで、愚かな大人たちが起こした戦争に反発しつつも、巻き込まれる。そして社会を変革する(かもしれない)力を手に入れます。

 この構造は1985年放映の「機動戦士Zガンダム」でさらに顕著になり、あの作品の主人公は「そんな大人、修正してやる」という有名なセリフを叫びました。

 話がマニアックになり過ぎて申し訳ないのですが、「ガンダム」シリーズの監督、富野由悠季氏が1989年に発表した小説「閃光のハサウェイ」では、連邦の大人たちがつくった秩序に反発する組織にモビルスーツガンダムが与えられ、腐った社会を破壊する闘争が開始されます。私などはこの作品において「少年が巨大なパワーを持つロボットを手に入れ、社会を改革しようとする」という物語は、ひとつの典型に達したと感じます。

中二的精神の変化

 音楽産業もまた、もともとロックという分野が、ジャンル丸ごと「既存の社会体制や権力への反発」というテーマを持ち、青い暴走と反抗を全肯定する分野だったこともあって、こうした思春期的な心情を汲み上げることを、むしろ得意としてきました。バイクを盗んで走りだしたり大人のつくった秩序から卒業してみたり、自由に向かって発砲しながら列車に乗ったりして、思春期を迎え、若者ゆえの理想のために大人の世界の秩序に反感を感じていた少年少女たちの心を、鷲づかみにしたものです。ある意味、音楽産業と中二の幸福な時代でした。

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