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» 2012年07月20日 15時21分 UPDATE

iPhoneアプリで食べていく――「ぐんまのやぼう」ができるまで (1/3)

全国を群馬県にしてしまう人気ゲーム「ぐんまのやぼう」を開発したのは、アプリ開発だけで生計を立てている28歳の自称「ネオニート」。これまで100本以上のアプリを作ってきたが、「できれば働きたくない」「ひっそりしたい」と話す。

[岡田有花,ITmedia]
画像 RucKyGAMESさんのiPhoneで、ぐんまのやぼうを起動したところ

 「東京都は群馬県になりました」「日本の都道府県はすべて群馬県になりました、つまり日本は群馬県です」

 日本中を群馬県にしてしまうスマートフォン向けゲーム「ぐんまのやぼう」がヒットしている。5月初めの公開から2カ月で60万ダウンロードを突破。関連グッズが発売されたり、開発者が群馬県の観光特使に任命されるなど、アプリの枠を超えた盛り上がりを見せている。

 開発したのは、群馬県出身のプログラマー・RucKyGAMES(ラッキーゲームス)さん。スマートフォン向けアプリからの収入だけで生計を立てている、自称「ネオニート」の28歳男性だ。RucKyGAMESは彼とデザイナーから成る2人チームの名称だが、企画やプログラミングなど仕事の大半を、彼がこなしている。

 これまで作ったアプリの数は約110、合計ダウンロード数は約600万。思いついたらすぐ作る、できることは何でも試すという軽いフットワークで、ゲームを作り続けてきた。100万ダウンロードを超えるヒットアプリもあり、著書も出しているが、名前を売りたいとか、人気クリエイターになりたいといった野望はない。技術力にも自信がなく、ただ「ひっそりしていたい」という。

 「早くサラリーマンの生涯年収を貯めて引退したいです。家賃収入で暮らすとか、あこがれます。働きたくないです、可能なら」

「やばいなって」 アプリ開発を独学

 小さいころからゲーム好きで、ゲーム開発に携わるのが夢だった。高校卒業後に上京し、専門学校でプログラミングを学んだが、「授業を無視して、1人でゲームを作ってました。友達がいなくてつらかった……。本当、学校に行きたくなかったです」と振り返る。専門学校卒業を待たず、ゲーム開発会社にプログラマーとして就職。ニンテンドーDS向けゲームなどを手がけたが、すぐ限界を感じた。「自分にはプログラミングは向いてないと思いました」

 iPhoneアプリを作り始めたのは2009年5月ごろ。DSの失速で、会社が受託する仕事が減り、「この会社、大丈夫かな」と危機感を覚えてたという。「仕事がない状態が1年ぐらい続いて、やばいなって。転職するにもプログラミングの実力が伴っていない。自分でできる範囲で、何か作っておいたほうがいいのでは、と」

 Flashゲームを作ってひっそり公開してみたり、携帯アプリにチャレンジするものの機種依存の壁に挫折したり、Xboxのインディーズゲームを作ろうと準備するも、国内サービス開始が遅れたりしてできずにいるうち、iPhoneアプリが流行りはじめた。「アプリを作ろう」と思い立ち、09年4月、MacBookとiPod touchを購入。アプリ開発を独学で学び始めた。

初のアプリ「i刺身LITE」に大反響 「App Storeで一番アプリを出している個人開発者になりたい」

画像 一定のスピードで右から左に流れてくる刺身パックの写真をタッチし、黄色い“たんぽぽ”(実際は食用菊)を載せるだけの「i刺身LITE」は、1分もプレイすれば嫌になってくる。「刺身にたんぽぽを乗せる仕事」は、単調でつまらない仕事を指すネット用語。「面白いよりつまんない方がいいかなと思って、あえてつまらないゲームにしました」

 Mac購入から1カ月ほどで、最初のアプリをリリースした。「i刺身LITE」(無料)だ。つまらない仕事の代名詞「刺身にたんぽぽを乗せるだけの簡単なお仕事」を再現したゲームで、一定のスピードで右から左に流れてくる刺身の写真をタッチし、黄色い“たんぽぽ”(食用菊)をひたすら載せていく。企画から制作まで約2時間。App Storeのアプリ審査の流れを知るためだけにお試しで作ったゲームだったが、有名ニュースサイトに取り上げられるなど話題になり、App Storeのエンターテインメントランキング1位に。「びっくりしました」

 だが無料アプリはいくらダウンロードされてもお金にならない。有料アプリを売らねばと、パズルゲームなどを作って販売してみるも鳴かず飛ばず。「当時はiPhoneユーザーもまだ少なく、115円のアプリを買うのが、缶ジュースを買うよりも敷居が高い市場でした」

 人気アプリの有料版ではどうかと、「i刺身LITE」に、横になったペットボトルを縦に直すなど無駄なオプションを追加し、「i刺身」として発売。「バイオハザードと同じ値段でAppStoreに並んでいたら面白い」と、800円で出してみた。多くのメディアに取り上げられ、「価格設定がふざけている」という狙い通りの評価を得たものの、売り上げでは大敗北。「あれだけ記事で紹介されたのに、あそこまで売れなかったアプリはなかなかないと思います」


画像 初めて出した有料アプリ「カラーパズル」(09年6月リリース)
画像 i刺身。倒れたペットボトルにタッチして縦にするゲームなどで遊べる。発売当初は800円だったが、今は85円になっている(09年6月リリース)
画像 「真っ白なジグソーパズルのつらさをみなさんに味わってもらいたい」と作った「ホワイトジグソーパズル」(09年7月リリース)

画像 i大富豪

 それでもあきらめなかった。「App Storeで一番アプリをリリースしている個人開発者」という地位を獲得しようと、「1カ月に最低1本作る」というルールを自分に課し、1カ月に1〜5本のハイペースでゲームやパズルのアプリをリリースし続けた。そして09年7月、ついに有料ヒットアプリを生み出した。

 トランプゲームの大富豪で遊べる「i大富豪」(09年7月発売、当初115円、現在85円)だ。当時、App Storeランキングで総合2位を獲得。自動販売機のジュースを買うのすらためらう彼にとっては、「正直、引くレベル」の売り上げだったと当時を振り返る。「給料より多いお金が入ってびっくりしちゃった。見慣れない数字で、どうしようと」。i大富豪はこれまでの3年間で、約5万本売れている。

 機能を絞った無料版を出すことで、有料版を宣伝するという手法にもチャレンジ。i大富豪の無料版「i大富豪LITE」を出してみたところ、有料版の10倍もダウンロード数を獲得した。だが同時に、有料版の売り上げがガクンと落ちてしまった。

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