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Androidアプリをテスト端末にワイヤレス配信「DeployGate」 ミクシィが「mixiらしくない」新サービス

» 2012年09月10日 15時46分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 DeployGateトップページ

 ミクシィは9月10日、Androidアプリ開発者向けサービス「DeployGate」を公開した。開発中のAndroidアプリをサーバにアップロードし、複数のテスト端末に一斉にワイヤレス配信できる。アプリ修正のたびに開発PCとテスト用端末を有線接続してアプリを入れなおすといった手間を省き、開発をスピードアップできる。無料〜月額9975円まで4つの料金体系を用意した。

 同社が新規事業創出を目的に8月に新設した「イノベーションセンター」からリリースしたサービスの第1弾。エンジニア2人がチームを組み、企画から1カ月半で公開にこぎつけた。日本語と同時に、英語版サイトもオープン。同社の技術資産を生かした新ビジネスとして、世界市場にチャレンジする。

アプリ最新版をテスト端末に一斉配信 リアルタイムにログ取得も

画像 プログラムファイルを持っていないディレクターやテスターなども試せるよう、サンプルアプリを用意している

 Webから利用できる開発者用の管理ツールと、専用のAndroidアプリを組み合わせたシステム。ユーザー登録し、Android端末にDeployGateアプリをインストールすれば準備OKだ。

 アプリ開発者は、管理ツールからアプリのプログラムファイル(APKファイル)をアップロードした上で、テストしてほしいメンバーをメールで招待。招待されたメンバーは、DeployGateアプリインストール済みのAndroid端末で開発中アプリを受信し、動作確認を行える。アプリのバグを直したり新しい機能を実装した際は、管理ツールでアプリを配信し直せば配信先端末に自動通知し、最新版へのアップデートを促す。

 配信したアプリのインストール状況は、管理画面のダッシュボードでリアルタイムに確認可能。端末の動作ログも管理画面からリアルタイムにチェックでき、不具合などにもいち早く対応できる。SDKを利用すれば、起動やクラッシュなどの取得も可能。プログラムファイルの過去のバージョンを保存しておき、いつでも先祖返りできる機能や、端末紛失時、リモートからログアウトして開発中アプリの流出を防ぐ機能、コマンドラインからプログラムファイルをアップロードできる機能などを備えた。


画像 配布したアプリのインストール状況は、管理画面でリアルタイムにチェック可能
画像 ログのリポート画面

画像 ライバルとなるiOS向けテストアプリ配信サービス「TestFligyt」との機能比較表。iOS向けDeployGateもニーズがあれば開発を検討する

 従来、テスト版のアプリをマーケットを経由せずにAndroid端末で動作確認するには、開発用PCと、テスト用の端末を1台1台USB接続し、アプリをインストールする必要があった。DeployGateを使えば、複数の端末に対して一度にアプリをワイヤレス配信できるため、開発者とテスターが遠隔地にいたり、テスト端末が複数台あっても効率良く動作検証が可能だ。

 価格は、動作検証専用でアプリ登録できない「Guest」プランなら無料、4アプリまで登録でき、5バージョンまで保持できるLite版が月額525円、20アプリまで登録でき、10バージョンまで保持できるPro版が3750円、100アプリまで登録でき、100バージョンまで保持できるBiz版が9975円。決済はPayPalで行う。会員登録から10日間は、Lite版を無料で利用できる。

mixiの資産を生かし、「mixiらしくない」サービスを

 DeployGateを開発したのは、2008年に新卒入社したエンジニアの井上恭輔さん(27)と、藤崎友樹さん(28)から成るDeployGateプロジェクトチームだ。藤崎さんがmixiのAndroid版の開発を担当していた際に作ったツールに井上さんが目を付け、外部開発者向け商用サービスとして設計し直した。開発期間は1カ月半。同社としては異例のスピードだ。

 「mixi向けのサービスは、Web初心者から上級者までさまざまな人が使うため、品質を高めねばならず、制約も多かった」――今年3月まで1年間、米国シリコンバレーのベンチャー企業に出向していた井上さんは、mixiのサービス開発が遅くなりがちな理由をこう説明する。「3カ月あればサービスを作ってリリースして検証までできることをシリコンバレーのベンチャーで学んできた。1年あれば、このサイクルを4回まわせる」

 mixiのサービス開発は、「ある程度完成したサービスを維持しながら機能を付け加える作り方」(藤崎さん)だが、DeployGateはゼロからの開発。自ら方向性を決め、予算や売上高の見通しを立てながら開発するプロセスは、mixiとは全く違ったという。プロジェクトチーム専用のオフィススペースもなく、最初はカフェで、今は社内の会議室を1室を使って開発している。“会議室オフィス”の雑然とした雰囲気はまるで、シリコンバレーのベンチャー企業。YouTubeで公開したサービスの説明動画も米国風で、「mixiらしくない」(井上さん)。

画像 “会議室オフィス”の様子

 同社には5年ほど前から、「たんぽぽチーム」というエンジニアチームがある。「刺身工場で、ベルトコンベアから流れてくる刺身の上に“たんぽぽ”を乗せるような簡単な仕事」を社内からなくすというミッションで生まれたチームで、技術力の高いエンジニアが所属し、全システムを横断的にチェック、作業効率化ツールの提供なども行なっている。藤崎さんはたんぽぽチーム出身。「GitHubのように、Webサービスやアプリ開発を効率化するサービスやツールを提供するビジネスはシリコンバレーに多い。今後アプリ開発者は日本の市場でも増えていく。開発はもっと効率化されてくべき」(藤崎さん)

 「mixiは国内最大のSNSを運営しており、大きなサービスを維持するための技術力、資本がある。これまでmixiの開発だけに生かしてきたものを、世の中のすべての人に手軽に利用できるようにしたい。いろんな資産を持っているので、いい形で出していきたい」と井上さんは意気込んでいる。

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