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「ネットはリアルにどんどん浸食されている」――ニコ動6周年 川上会長に聞く、リアルに投資する理由(2/4 ページ)

» 2012年12月20日 08時36分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「ニコ動は、オタクが作ってヤンキーが見ている。2次創作はオタク文化から来たものだが、コメントやコミュニケーションを楽しむのはヤンキー文化。ヤンキーは流行りものが好きで、コメントが付いている動画なら何でもいいが、オタクはそうじゃない。ヤンキーとオタクが、お互い自分たちが中心だと思っていて、ニコ動を通じて、衝突が起きている」

 ボカロPの曲を歌い手が無断で歌い、P側が不快に思ったり、顔出しで生放送する“イケメン生主”を、匿名のコアユーザーが批判したり――この対立も、「オタクとヤンキー」という両者の属性の違いが背景にあるとみる。

 ニコニコ超会議など、リアルの場でユーザー同士が交流できるイベントは、“ヤンキー”側と親和性が高いという。「大会議とか超会議とか、オタク側は『誰が行くんだ』と本気で思っているが、実際いっぱい来たから、オタク側はショックを受けている。歌い手のイケメンに女の子のファンが付くとか、(“ヤンキー”側の動き)は、一部の狭い世界だと思ってたんだろう」

 リアルイベントを行い、集客してみせることでニコ動は、「現実社会は多様だ」と、オタクに迫る。「ネットは自分が見たい意見しか見えない構造なので、自分の意見が世の中のすべてだと錯覚しやすい。みんなが自分の好きなものだけを見て幸せにやっているならそれでいいが、自分の意に沿わないものを弾圧しようとし、そこに争いが生まれてしまう。世の中はもっと多様だと認識したほうがいいと思う」

 生放送で配信する政治番組や党首討論、それに先立ち2008年から実施してきた、リアルタイム世論調査「ニコ割アンケート」も、ネットユーザーの多様性をすくい上げる手段の1つという。

ニコ動と「偏り」

 「ニコ割アンケート」は、特定の時間にニコ動を見ているユーザーが1人1回だけ投票できる世論調査で、普段は10万人前後、多い時で100万人以上が回答する、ネット上で最も大規模なアンケートの1つだ。

 「ネット世論は暴走・炎上しがちだが、炎上するのは、1人が何度も書き込むから。“工作”が難しいニコ割アンケートは、本当のネットの世論を世の中に届けようと考えて作った。ニコ動も炎上の震源地にいると思うので、われわれも責任を持とうと」。川上会長は同サービスを始めた意図を、こう説明する。

 政治関連番組をすべて生放送で行っているのも同じ意図だ。録画番組だと1人が繰り返し再生・コメントできるため、コメントが偏り、“炎上”するおそれがあるが、生放送ならそういった工作がしにくく、ネットの意見の平均値に近い意見が反映できるとみる。


画像画像 今回の衆院選前、11月27日〜30日に行ったニコ割アンケートの結果

 ただ、選挙前後に行われるニコ割アンケートは毎回、実際の投票結果より自民支持者が多く、党首討論の生放送でも、自民党・安倍晋三総裁の応援コメントが目立った。ニコ動ユーザーは自民党支持に偏っているようにも思えるが、川上会長は、「ネットユーザーの中で政治に関心がある人が右傾化しているのだろう」とみる。ニコ動ユーザーが偏っているのではなく、政治に関心のあるネットユーザー全体の平均値が右寄りに偏っている、という認識だ。

 党首討論の実施をめぐり、民主党の安住淳幹事長代行がニコニコ動画について、「極めて偏った動画サイト」と発言したことは、公平なプラットフォームを用意してきたつもりの同社にとって、心外なできごとだ。同社は「根拠の無い誹謗中傷」と抗議文を発表し、ネットで話題を集めた。

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