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「ネットはリアルにどんどん浸食されている」――ニコ動6周年 川上会長に聞く、リアルに投資する理由(3/4 ページ)

» 2012年12月20日 08時36分 公開
[岡田有花,ITmedia]

「政治の素人」が党首討論を実現

画像 党首討論のニコ生は、140万人が視聴した。「翌日テレビでやっていた党首討論は、ネットへの対抗意識もあって議論が深まり、良くなっていたと思う。世の中のためにもやってよかったイベントだ」と川上会長

 党首討論の実現に向けて現場が動いていることや、抗議書について川上会長は、直前まで知らなかったと話す。「党首討論は、ジャーナリストの角谷浩一さんが仕掛け、ニコ生の報道のチームが政党に持ちかけて実現した。抗議書を出すと報告を受けたのは、(見習いとして勤務している)スタジオジブリの京都旅行中、熱を出して寝込んでいた時。寝込んでいたからよく分からないというのが、党首討論に関する見解のすべて」と、ひょうひょうと語る。

 同社は「政治の素人」。政治番組も、現場が手探りで作り続けているという。「ドワンゴはもともとエンタメの会社で、政治が分かる人が社内にいない。政治番組を始めたころの担当スタッフは、ニコニコ大会議を担当していたイベントの人間で、政治の知識はゼロ。“違いが分からない人間”が手探りでやっていて、それは今も変わっていない」

 素人丸出しだからこそ、政治関係者に信頼してもらいやすいと話す。「政治家に近づく人は警戒されるものだが、ドワンゴはどうみても裏がない、ガチで何も知らないと分かってもらえると、信頼されるポイントになる。ドワンゴが政治報道で役割を果たしたのは、ほんとうに素人だったから」

なんでこんなに、本当の報道機関みたいなのをやっているんだろう

 「政治へのスタンスは、最初からひどかった」と笑う。ニコ動が最初に政治家に関わったのは、鈴木宗男さんの着ボイス「ムネオボイス」を配信した07年。鈴木さんの動画や音声をリミックスした「ムネオハウス」や「ムネオラップ」といった動画の人気を受け、本人にアプローチしたという。

 都知事選に出馬し、過激な政見放送が話題になった外山恒一さんの動画が人気を集めると、外山さんに接触して着ボイスを配信。07年7月には小沢一郎さんがニコ動に初出演。「小沢さんがニコ動に出たら違和感があって面白いというだけの理由で」でアプローチし、「着ボイスと一緒に営業をかけていた」という。

 それが「途中から、僕らの思惑を外れて、だんだん大事になっていった」という。「なんでこんなに、本当の報道機関みたいなのをやっているんだろうと、僕らもびっくりしている。党首討論も、(政治報道として)一流の仕事だと思うが、なんでこういうことやっているんだろうという違和感は、僕ら自身も持ちながらやっている」

 フリージャーナリストやネットメディアが主導した記者会見のオープン化運動を支援した関係で、国会中継や東京電力の記者会見の配信も続けている。「フリーランスやネットメディアは記者を継続的に派遣できる体力がないので、もう会見に行っていない。うちが抜けると、『記者会見のオープン化って何だったんだ』となってしまう」から、配信をやめられないのだという。

 記者クラブによる記者会見の独占は、クラブ外のメディアやジャーナリストにとっては、「参入障壁」だ。「ネットで公開されている会見のアーカイブが最低1つあり、ネットメディアの人たちも見られる状態にしておくことが大切。ほかにやれそうな所がないから、うちが社会正義でやっている」

「ネットの番組が進化したらテレビに似てくるのは当然」

 最近のニコ生番組は、テレビが作ったフォーマットをネット生放送に載せ替えた番組も多く、「ニコ生が小さなテレビのようになっている」という批判もあるが、「ネットの番組が進化したらテレビに似てくるのは当然。ネットはテレビのレベルを目指すべき」と、川上会長は反論する。「ネットで一番面白い番組と、テレビのそれを比較して、どちらが面白いかは歴然としている。テレビは何十年もの歴史で進化している。テレビと同じだからダメという批判はおかしい」

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