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「世界の全ての本棚を図書館に」──本と場所と人を結ぶ「リブライズ」、開発者が目指す大きな夢(2/3 ページ)

» 2012年12月27日 11時30分 公開
[榊原有希,ITmedia]

本棚から見えてくるもの

photo リブライズを開発した地藏真作さん(右)と河村奨さん

 このユニークな“図書館”はどのように作られたのだろうか。「下北沢オープンソースCafe」の本棚を前に、河村さんはふりかえる。

 「去年の夏から、この本棚に自分の本を放り込んできましたが、段々とここのスペースを使う人たちも本を持ってくるようになりました。本が増えると、自力で管理するのは大変。でも、個人的な本棚を管理するサービスはあるけど、こういう共有スペースのためのサービスは探してもなかった。最初は、誰々がこんな本を借りて行ったとFacebookに手動で投稿していました。そうすると、『じゃあ、誰々さんにこの本の感想をブログに書いてほしい』とか、他の人から反応がけっこうあったんです。それで、Facebookと連動させるシステムを作ったら、面白そうだと思いました」

 共有スペースの本棚からは、意外な発見もあった。

 「本棚から見えてきたのは、この場に集まる人たち、このコミュニティーの性格を反映しているということ。人の家の本棚って見てみたいじゃないですか。1人のオーナーが集めた本棚も面白いですが、複数の人が関わるとまた違った面白さがある。本棚を見れば、そこがどういう場所なのか理解してもらえる、その場所に関わってもらえるためのツールにもなると思いました」

 一方、河村さんの友人で、「下北沢オープンソースCafe」を利用していた地藏さんにも、本棚に対する思いがあった。「家のそばに公民館があって、本はあるけど、誰も読んでない。実際に読むための仕掛けがあれば、読む人が増えるのではと考えました。例えば、お母さんたちが絵本を持ち寄って、貸し借りしていますが、それも誰に貸したか見えるようになれば、もっと面白いのかなと」

 そこで2人は、Facebookと連動させたシステムの開発を今年1月から始めた。掲げたコンセプトは、「全ての本棚を図書館にする」。かつてない発想とシンプルなシステムが評価され、9月にサービスを立ち上げた直後、第1回「Facebook App Awards」コンテストの部で1位となった。11月に横浜で開かれた図書館や出版社の関係者が集まる国内最大規模のイベント「図書館総合展」にも参加し、注目を集めた。ブースには人が絶えず、600部作っていったリブライズの冊子や本に貼る専用のシールなどは、全て売り切れた。

本のある場所に人が移動するというアクション

 図書館、出版業界からも期待が集まるリブライズだが、本の世界に今後、どのような影響を与えるのだろうか。リブライズに注目する一人、 「マガジン航」の編集人である仲俣暁生さんは、「特定の場所と結びついた蔵書を公開することが、人と人とをつなげるという発想に共感しました。本に関するソーシャルサービスはいろいろ見ていますが、具体的な場所があることと、本のある場所に向けて人が移動する、というアクションを喚起するところがとてもよいと思います」と評価する。

 リブライズは、電子書籍にはない、「紙の本」のメリットである「貸し借りのしやすさ」を活用したサービスでもある。「本の貸し借りは、人が移動するための『きっかけ』みたいなもので、リブライズを本格的な(つまり大量の本を扱う)『貸し出しシステム』として使うには、まだまだ課題があると思います。しかし、これまで本の『貸し借り』は図書館以外、知り合い同士でしかしにくかったのに、Facebookを使うことで初対面でも身元保証ができるため、本を介在させた出会いが可能になったのはいいと思います」

 では、図書館や出版社、書店に何らかの影響はあるのだろうか。仲俣さんは、「大きな影響はないと思いますが、貸し借りによって気に入った本を、改めて書店で買うということは起きると思います。図書館との住み分けも、借りた本の履歴が『公開』されてしまうリブライズと、個人情報が保護される公共図書館とでは役割がちがうので、住み分けられていくのではないでしょうか」とみる。

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