音量も同様に、実際の音量の変化を、ところどころ修正していく。VOCALOID EditorのDYNが変化量を表示しているのに対し、こちらは絶対量。こっちのほうがわかりやすいかな。ささらさんは特定のロングトーンで、途中で音量が上がる傾向があり、そこをふくらみすぎないように削ってやる作業は、ここで行う。
ビブラートは表現豊かだ。ビブラートの深さと速さ、2つのパラメータを別個に描くことができるので、フレーズの最初の部分は微細な高速ビブラート、決めの部分は深いゆったりした深いビブラートといった表現も手軽にできる。
最後のタイミング調整。これがちょっとユニークだ。1つの音を5つの縦糸に分け、その縦糸を一つずつ左右にずらしていく。ちょっとわかりづらいが、目の詰まった編み物を、広げていくような作業だ。子音と母音のそれぞれの縦糸があり、子音の部分を前にずらしたり、逆に語尾だけを長くしたりとかできる。歌に特有の表現が、これで可能になるわけだ。作例では「かっけーてー」の最初の「か」で子音を先行させてみた。
子音をゆっくり発音するか速く発音するかについては、VOCALOIDではVEL(ベロシティ)というパラメータで調整する。それと、音符をずらすのをいっしょの画面でやってしまおうというわけだ。一見するとややこしそうな操作だが、画面下の子音と母音の境界線を横にずらしていくだけでいいので、意外に簡単だ。
このタイミングの部分は、1音素の中の特徴的な部分を5分割して、その割合を自由に調整できる。音高や音量もそれに合わせて変わってくる。例えば次の音に変化する遷移の部分だけを伸ばしたり、消してしまったりで、さまざまな効果が生まれる。テクノスピーチ代表取締役で、名古屋工業大学の特任助教である大浦圭一郎さんは高度なテクニックを披露してくれた。
このような調教方法は、VOCALOIDではまったく使われてこなかったもので、CeVIO特有のもの。これからどんなテクニックが生み出されるのか楽しみだ。
VOCALOIDやUTAUのように、音符の長さを細かく変えられるようにすればいいんじゃないか、という意見もあるだろうが、それはやらない。なぜならば、CeVIOの歌唱情報は、いったんMusicXMLという、楽譜をベースにしたフォーマットとして解釈したうえでそれに応じた歌声を再生するという仕組みだからだ。
CeVIOプロジェクトの中心となっている、名古屋工業大学大学院の徳田恵一教授は、「CeVIOは、さとうささらというバーチャルシンガーがいて、彼女に楽譜を渡して歌ってもらうようなもの」と説明する。MIDI情報に基づいて波形をつなげていくVOCALOIDは、楽器に近い。CeVIOの調整機能は「スタジオで歌手に、そこは少しためて歌って、と指示するようなイメージ」という。
「調教」のやり方にもCeVIOらしさが出てくる。音符の長さを細かく設定して、というのはCeVIOではやらない。タイミングを合わせる最小単位を決める「クォンタイズ」が32分音符までなのは、それ以上の譜面は人間の歌手が読めない、読めても歌に反映できないからだ。そのかわり、その譜面を見て、歌手が適切な長さに、いいと思ったタイミングで歌う。
ソフトの中に住んでいる歌手に譜面を渡すと歌ってくれる……そのイメージ通りのことが実際に行われている。
音符の入力(といっても、おたまじゃくしではなくて、ピアノロールという、コンピュータを使った音楽制作では一般的な形式)はわりと大まかに。四分音符、八分音符くらいの精度で、音の長さも細かく調整しない。つながりはCeVIO側で自然にやってくれるから。音符を置くと、そこの音名(ドレミファソラシドのいずれか)が歌詞の代わりにつく。ソの音にはハ長調であればソが、ト長調であればドが割り当てられる。画面は音階によって色分けされていて、基音(ハ長調であればド)がどれか、分かるようになっている。その仕組みが分かると使いやすい。
製品版で新たに追加された機能としては、声質調整がある。これをスライダーで調整すると、歌声がロリ声から大人びた女性の声まで変化する。VOCALOIDでいうと、GENに相当する。かなり自然な変化なので使えるかも。いまのCeVIOはシンガーが1人だから、VOCALOIDやUTAUと併用するのでなければ別トラックに、声質を変えたささらさんをアサインしておくといいかもしれない。
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