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» 2014年05月09日 10時00分 UPDATE

深海生物「テヅルモヅル」──“役に立たない”研究でもクラウドファンディングで応援 新しい研究費獲得の形「academist」 (1/2)

研究費獲得に特化したクラウドファンディングサイト「academist」がオープンした。「世の中の“役に立たない”魅力的な研究を伝えていきたい」――自らも物理学の研究者だったという運営者が目指すのは「研究のエンタメサイト」だ。

[山崎春奈,ITmedia]

 研究費獲得に特化したクラウドファンディングサイト「academist」が、4月10日にオープンした。第1弾の深海生物「テヅルモヅル」に関する研究プロジェクトには開始から2週間強で目標額の40万円を超える資金が集まった。「一見“役に立たない”と見過ごされがちな研究を補助金や寄付金などと違う形で支援したい」――運営するエデュケーショナル・デザインの柴藤亮介社長に話を聞いた。

photo 「深海生物テヅルモヅル」……何やら怪しい名前が

 第1弾のプロジェクトは「深海生物テヅルモヅルの分類学的研究」。多くの人はまったく聞いたことのない生き物の名前だろう。冒頭の紹介動画を見ると、京都大学で深海生物を研究する岡西政典さんが簡単な自己紹介のあと、突然バケツをあけ、ヒトデのような不思議な生物をわしづかみにする。「テヅルモヅルはクモヒトデの仲間、サンゴや海草などではなく1個体の動物です」「みなさんの支援をいただくことでテヅルモヅルのさらなる分類を進めていきたいと思っています」と資金の使い道について語る。

 「なんだこの生き物」「テヅルモヅル好きは要チェック」「解説動画が面白い」「名前にやられました、ぜひ謎を解き明かしてください」――プロジェクトを機に初めて「テヅルモヅル」を知った人から深海生物ファンまで、ネット上で多くの反応を得て、目標額の40万円は18日で達成した。5月いっぱいまで出資を受け付けており、獲得金額60万円に届きそうな勢いだ。

 順調に達成したように見えるが、柴藤社長は「僕は絶対成功する、させたい、と思っていましたが、岡西さん本人は正直半信半疑だったのでは。専門的な内容を知らない人に魅力を感じてもらえるか不安はあったと思う」と笑う。「ほっとしているし、うれしいが、まだ1つ目が成功したばかり。どんどん魅力的な研究や研究者を紹介していきたい」と意気込む。

 研究費獲得に特化したクラウドファンディングを構想し始めたのは3年ほど前。「研究費に絞ると狭すぎる、もっとジャンルを広げた方が」「自分の生活とかけ離れた他人の研究にお金を出す気になるのか」「そもそも面白い研究って何?」――事業構想を相談すると反対されることも多かったという。「いろいろ言われましたが、正直ピンとこなくて。自分は他人の研究の話を聞くのがすごく面白いし応援したい気持ちになる。きっと同じような人はたくさんいるはずという確信があった」(柴藤社長)

photo 柴藤亮介社長

 柴藤社長自身も物理学の研究者として博士課程まで進んだ。当時自分の研究に取り組みながら、対象に没頭することで狭い世界に閉じこもってしまうことに危機感を抱き、大学院生を対象とした「異分野交流会」を開催したのがこの事業を立ち上げるきっかけの1つになった。普段関わりのない分野の研究の話を聞くことは刺激も多く、話し手にとっては当たり前のことでも門外漢にとっては驚きや発見がいくつもあることに面白さを感じたという。

 「学生として研究しながら高校の非常勤講師をしていた時、教科書をなぞるよりも自分が挑んでいる研究内容や世界で誰も答えを知らないことに関して話した方が生徒の反応がよかった。『分からないからつまらない』のではなくて『分からないから面白い』と思ってもらえるチャンスをもっと増やしたい」(柴藤社長)

 同時に、研究費獲得の困難さも身に染みて感じていた。国が交付する科学研究費を全国の研究機関で奪い合う状況は過酷で、全体額を維持していくのも難しい。特に実用化に至るまでのプロセスが長い基礎研究や理論、実績が少なく目新しい分野などはなかなか研究費が獲得しにくく成果も出にくい。「そういう“役に立たない”と思われている分野こそ専門外の人は何も知らない。こちらから語ることで支援を集められる可能性がある」と考えた。

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