バズワードの先へいく“ビッグデータ” 「データ解析をもっとシンプルに」トレジャーデータCTOに聞く
日本人3人がシリコンバレーで起業した「トレジャーデータ」は、データの収集・保管・分析を一貫して行うクラウド・ソリューション「Treasure Data Service」をエンタープライズ向けに提供する企業だ。分散処理を行うミドルウェア「Hadoop」や自社開発のデータベースを組み合わせたプラットフォームは、素早い実装と拡張性、安定性が評判を呼び、創業から約3年で100社以上に導入されている。
ビッグデータという言葉はビジネス用語として定番となりつつあるが、データの管理の負担が大きいなど、フルに活用できている企業はまだ少ない。世界でも注目されるスタートアップの1つである同社を率いる創業者の1人、CTOの太田一樹さんにビッグデータビジネスの今後の展望などについて聞いた。
データ解析をもっとシンプルに
「Treasure Data Service」の導入先は現在120社程度、そのうち約4割が日本企業です。3年前に起業した当初はスタートアップを中心に1~2万社に導入してもらいたいというビジネスモデルでしたが、クエリも多くデータ量も巨大なエンタープライズをメインターゲットにしようと1年ほど前にシフトしました。なので社数で言うと大きく伸びているわけではないですが、事業の規模としてはかなり大きくなってきています。
クライアントとして多い業種は、Yahoo!JAPANやグリーなどのネット・モバイルサービス系、ヨーロッパ最大のアドネットワークを展開するMobfoxなどの広告系です。とにかく大量のトラフィックを、ユーザーの反応や効果などさまざまなデータと結びつけながら、解析しやすい形で収集・管理しています。
最近伸びてきているのはIoT(モノのインターネット:Internet of Things)の分野。9月にパイオニアと業務提携を発表した自動車業界向けの事業のほか、これからが期待されるウェアラブル端末などです。
例えば、スマートウォッチの事例です。数日間充電しないでも使える長時間駆動が売りの商品でも、当然使い方によって差が出てしまいます。製品改良に生かすため、アプリの使用状況と電池の減り具合を照らしあわせてTreasure Dataのシステムに送り、常にトラッキングし続けています。
社内で活用するだけでなく、ユーザーから問い合わせがあった時には実際のデータを元にアドバイスできるようになっています。ウェアラブル端末の分野は生体情報や行動記録を取り続けることが多いですし、ネットワークを介してリアルタイムにクラウドにデータをためていく需要は増えていくように思います。
製品自体が「データ解析をもっとシンプルに」という軸で作られているのでかなり広範に需要があるのが強みです。顧客やWebサイトのデータ、なんとなく収集はしていてもうまく使えてない――という悩みは業界業種を問わず意外に多いのではないでしょうか。もっというと「データは集めているが管理するのが面倒」というレベルをまずなんとかしたい。担当者がいなくてもOK、連携させるだけですべて任せられるシステムを目指しています。
オープンソースとの共存
データ収集プラットフォーム「Fluentd」をオープンソース化して提供しているのも特徴です。任天堂やLINEなど大手企業でも利用されているこのソフトウェアの利用をきっかけに、集めたログを生かして一貫して解析まで行える「Treasure Data Service」の導入に至るケースが現在3割ほどあります。
事業としてオープンソースソフトウェアのサポートを行うパターンはありますが、ビジネスモデル自体がオープンソースと共存するモデルを作れているところはほとんどないのではないでしょうか。僕自身プログラミングを勉強し始めたころから積極的にオープンソースに関わってきたので、大事にしたいと思っています。
「シリコンバレーは毎日が戦争」
19歳くらいからスタートアップに関わってきたんですけど、Clouderaという会社が1~2年で数人から一気に数百人まで大きくなったのを目の前で見たんですね。ダイナミックに動く様を目の当たりにして、「日本で同じことやってもこんなに爆発しないな」と思ったのがシリコンバレーで事業を始めることに興味を持ち始めたきっかけです。
その後、2011年に日本人3人で起業したのですが、そこに至るまでがまず本当に大変でした。ビザがない状態で1年に14回日米を行き来したことも……。シリコンバレーはチャンスも多いですがある種閉鎖的な場所。スタートアップ、ベンチャーキャピタル(VC)、過去に成功した起業家、3者のエコシステムの中に入り込んでいけるかが最初のハードルになります。著名な投資家であるビル・タイに投資を受けたことが存在感を高める大きな転機になりました。
シリコンバレーのいいところは……なんでしょう、娯楽が少なくて仕事以外にすることがないところです(笑)。毎日社内外でいろいろなことがあって刻一刻と状況は変わっていくので、仕事は戦争。戦いに行く気持ちで毎朝家を出ています。
技術者の視点でビジネスを作る
CTOとして今は完全にビジネスサイドに携わっていて、コードは書いていません。自分で書いてもメンテナンスする時間がないのと、むしろ自分よりよくできる人を見つけて任せるのが仕事なので。スタートアップは多くの場合創業者がけんか別れして終わるんですけど、僕ら3人の興味がビジネス、エンジニアリング、そしてプロダクト開発でお互いかぶっていないのがうまくいっている大きな理由の1つだと思います。
自分が一番得意なのは「プロダクト開発」――つまり今ある問題を把握して抽象化することなのでそれに集中しています。そもそも創業のきっかけもHadoopの管理に困ってる人が多いな、何か楽にする方法ないかな? というところだったので、一貫して「技術の力で今ある問題を解決したい」という思いが強いです。
自然にこんな風に考えるようになったのは自分の育ちのせいかもしれません。実家が大阪で小さな薬局を経営しているんですが、今売り上げの半分がECサイトからなんですね。最初は両親がWebサイトを作って僕がSEOをしていました。もちろん規模は全然違いますが、自分のフィールドで試行錯誤する姿を当たり前のように見てきた影響は大きいと思います。
技術の凄さで競うより、それをどれだけの人に使ってもらえるか――Googleだって検索技術が突出してよかったから成功したというより、ビジネスとしての強度、ユーザーにとっての魅力のバランスがよかったからここまで大きくなったんですよね。技術が飛躍的に進化して、データの量や種類、ストレージの容量が増え、データ管理が一般化していく中で「それをどう使うの?」がボトルネックになっているならスマートなソリューションを提案したいという自然な発想です。
バズワードとして「ビッグデータ」という言葉もありますが、実際に時代の流れとしてこの分野の重要性はさらに増していく手応えがあります。誰かが必ずリーダーになるはずなのでその中の1つになれるように、できることを広げていきたいと思います。
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