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クリエイターの夢を形に “商売抜き”でアニメの未来を育てる「日本アニメ(ーター)見本市」の狙いと成果(1/2 ページ)

» 2015年03月18日 11時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]

 予算とスケジュールさえ守れば、題材はまるっきり自由――クリエイターそれぞれが自由な発想で作り上げた短編アニメを毎週1本、Webサイトで公開していくスタジオカラーとドワンゴの共同企画「日本アニメ(ーター)見本市」がセカンドシーズンを迎える。

photo 吉崎響監督による「ME!ME!ME!」

 小説家の舞城王太郎さんと鶴巻和哉監督がタッグを組んだ「龍の歯医者」に始まり、庵野監督が構成・演出を手がけて「機動戦士ガンダム」のオリジナル原画を紹介する「安彦良和・板野一郎原撮集」など、昨年11月からこれまでに12本を発表してきた。

 有名監督から新進気鋭のクリエイターまで幅広くそろえるなかで、再生数1位を記録したのは吉崎響さんの初監督作品「ME!ME!ME!」だ。過激さとスタイリッシュさが融合した刺激的な表現として海外からも高い評価を得るなど、商業ベースの作品とは異なる成果を収めている。

 同企画でそれぞれ作品を発表しており、セカンドシーズン第1弾「Kanón」ではともに取り組んだ前田真宏監督と吉崎響さんに話を聞いた。

「日本のアニメーターの可能性を信じたい」 庵野監督の思い

photo テイストの異なる作品が並ぶ

 企画の発端は2013年の秋。「新世紀エヴァンゲリオン」などで知られるスタジオカラーの庵野秀明監督が日本のアニメーターの可能性を探る場所を作りたい――とドワンゴに持ちかけたのがスタートだった。

 当初から企画を聞いていたという前田監督は「アニメを語る時どうしても名前がある人が前に出がちだが、表に出ない形でいい仕事をしている人たちはたくさんいて、若い才能も育ってきている。映画でもTVアニメでもない形で後進を育てる場所、エデュケーションの側面もある」と企画の意義を話す。

 「社長(庵野監督)の中で『まんが日本昔ばなし』がイメージだったので、最初はこの企画のタイトル、「日本アニメ話」だったんですよ。……でも、宮崎駿監督に題字を書いてもらえないかとお願いにうかがった際に、『日本アニメ(―ター)見本市』と変わったみたいです(笑)」(前田監督)。

 企画の骨子ができあがり、クリエイターの1人として吉崎さんに声がかかったのはちょうど1年ほど前のこと。アニメだけでなく、ミュージックビデオやVJ、ライブ演出なども手がける活動の幅広さから「若手飛び道具枠」(前田監督)として白羽の矢が立ったという。

 「『こんな企画をやるけどやってみないか?』とプロデューサーの緒方さんに声をかけられたのが最初。候補に挙がっていた他作品の監督陣が著名な方々ばかりでビビりつつも、こんなに自由に夢を実現できるチャンスは2度とないかもしれないと思い、『やらせて下さい!』と即答しました」(吉崎さん)

photo 前田真宏監督

 「そもそもオリジナルの短編アニメを好んで見る人なんてどれだけいるのだろうか」――作り手として魅力的なチャンスとなるのはもちろんだが、ニーズに対しては不安の声も少なくなかった。原作ありきのアニメ化でもなく、映像技術を駆使したハイエンドな劇場版でも、話数を重ねてストーリーを紡ぐTVアニメでもない形の短編アニメ。どう見せられるか、誰に見てもらえるのか。

 「高性能なデジタルツールや発表の場がたくさんある今は、個人のクリエイターやアマチュアにはとてもいい環境。逆に、飯の種として取り組んでいるプロには普段その恩恵があまりない。そこで戦う機会を作るとどうなるかは興味があった」(前田監督)

 実際にふたを開けてみたら、SNSをはじめ予想以上の反響だった。英語字幕バージョンも各話用意しており、TVアニメと違って海外にも時差なく届くため、海外のイベントから出展の声がかかるなど、国を超えて広がっている手応えもあるという。

自分の思う“カッコイイ”を形に 「ME!ME!ME!」

 第1シーズン12作品で最も再生数が多いのは吉崎監督の初監督作品「ME!ME!ME!」だ。TeddyLoidさんとdaokoさんによる音楽とシンクロするアニメーションは、エロティックな描写が主張する過激な表現と、ダイナミックなカメラワークや独特な色彩、思わせぶりなシーン展開が大きな話題を呼んだ。最後まで見ると冒頭に戻るループ再生も、Webでの視聴を前提としたコンテンツならではのギミックになっている。

photo (C)nihon animator mihonichi LLP.

 「いつかやりたいと思っていたアイデアがいくつかあって、その1つをやると決めつつも、スタジオカラーらしさを意識するべきでは? 上手い演出とは? などと悩んでいたら『何も気にせず、まずはやりたい事を全部吐き出して』と促されて。自分がカッコイイと思っている音楽とアニメーションがシンクロするミュージックビデオという形にしようと決めました。映像だけでなく、音楽制作にも関われるなんてとても贅沢な経験」(吉崎さん)

 制作期間ギリギリまでかけて目指したのは、音楽とアニメーションがシンクロする気持ちいいカッコよさと、キャッチーでエッジな表現。エロティックな描写も“セクシー=カッコイイ”という位置付けで用い、クラブカルチャーやモータースポーツなどに親しんできた自身の価値観が大きく影響しているという。

photo 主人公に迫り来る女の子・メメ(C)nihon animator mihonichi LLP.

 キャラクターデザインと作画監督を務めた井関修一さんとの“化学反応”も大きな要素だった。「この世界観をもっと洋風の絵で描いていたらまた印象が違ったはず。井関くんの絵で自分にはないポップさが生まれたと思う」(吉崎さん)

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