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“幕張の屈辱”を2年越しに晴らすために――文化系プロレス団体「DDT」が挑む「超会議」

» 2015年04月17日 11時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]

 「“幕張の屈辱”、2年越しに晴らしに行きます」――「ニコニコ超会議2015」(4月25〜26日、千葉・幕張メッセ)に登場する「超プロレスリング」に出場するプロレス団体「DDTプロレスリング」。niconico上ではニコニコチャンネル「DDTプロレスアワー」を開設しており、動画やブロマガが充実した人気チャンネルの1つだが、意外にも超会議への参戦は初めてだ。そこには深い因縁が……? 出演者の1人、ゲイレスラーの男色ディーノさんを直撃した。

photo 公式ニコニコチャンネル「DDTプロレスアワー」

 「超プロレスリング」は、超会議に集まるさまざまなカテゴリがリング上で相まみえる場所として今年新たに設置される。DDTプロレスリングの所属レスラーによる試合はもちろん、人気ゲーム実況ユニット「M.S.S Project」とレスラーのゲーム実況対決、アイドルやゆるキャラが出演するプロレス、壁ドンや床ドン、汗まみれハグを受けられるイケメンレスラーとの「ふれあい撮影会」などが予定されている。

 盛りだくさんの「超プロレスリング」だが、男色ディーノさんは「正直、私たちが超会議の会場に立てるかまだ安心できないの、半信半疑なのよね……」と硬い表情を浮かべる。「私たちは『超会議』と因縁があるの。そう、2年前の悪夢を、“幕張の屈辱”を今年は晴らしたいと思ってるのよ」

「プロレスってこういう感じなの?」 “ギャップ萌え”でハートをつかむ

photo 男色ディーノさんとヨシヒコ

 「DDTプロレスリング」は、1997年に旗揚げされたインディーズプロレス団体。「スポーツバラエティ」をうたい、エンターテインメント色が強い興行をするのが特徴だ。リングの内外で好みの男性客やレスラーの唇を奪う男色ディーノさん、甘いマスクと高い身体能力で女性ファンも多い飯伏幸太さん、“人間離れ”した動きで相手を翻弄するダッチワイフレスラー・ヨシヒコなど、個性豊かな選手がそろう。

 ニコニコ動画の公式チャンネルを立ち上げたのは2012年、テレビ放送していた専門番組が終了したのがきっかけだった。コンスタントに映像制作してきた経験と自社内で撮影から編集までできる強みを生かし、これまでの活動の延長として発表場所をネットにシフトした。高木三四郎社長のもと、すでにブログやmixiを活用していたDDTが新メディアを活用するのは自然な流れだった。

 最新興行の中継や記者会見、レスラーが出演する生放送などを行いながら、ネットユーザーにウケる題材の試行錯誤も重ねた。チャンネルの人気動画には「人間vs地獄の墓掘り人形の死闘! 2009年裏ベストバウト」など名試合のアーカイブ、「プロレスラーがアイドル戦国時代の代理戦争をしてみた」「いい大人達がキャンプ場でプロレスしてみた」など、思わず目を引くタイトルが並ぶ。

 「格闘技は怖くて痛そう? それだけではないんですよ、プロレスは楽しいものなんです」――軽快なマイクパフォーマンスやダイナミックな動き、リングだけでなく路上やキャンプ場でも繰り広げられる“ショー”は、格闘技になじみがなくても楽しめる。

 「パブリックイメージと違うもの、面白い部分が分かりやすい動画が人気が出やすい傾向かしら。コワモテなのに楽しい、体育会系かと思ったら文化系――“ギャップ萌え”よね。そもそもDDTという団体自体が、格闘技としてのプロレスが本流にある上でサブカルチャーとして成立しているので、その『普通じゃなさ』を追求する姿勢はネットと相性がよかったと思う」(男色ディーノさん)

 新たなファンをつかみながら少しずつ存在感を高め、13年春の「ニコニコ超会議2」に出演。人気動画の1つ、往年の名選手の動きをオマージュした「ハルク・ホーガン体操第一」を披露する予定だったが、当日幕張に赴いた選手たちの前には想像したものとは異なる光景が広がっていた。きちんとしたステージは用意されておらず、注目を集めることもできないまま、消化不良のパフォーマンスで会場の片隅で屈辱を味わった。この経験は選手だけでなくファンにも大きな傷を残した――ニコニコ大百科にはそう記されている。

 「未だに何が起きていたよく分からないんだけど、私たちが誰にも注目されなかったのは事実。アウェイどころか、無。『超会議』という大きな力に負けたんです。何もできず終わったこの“幕張の屈辱”が嫌な記憶としてあるので、ぶっちゃけ『超会議』にいい印象は……ないわ!」(男色ディーノさん)

「人を楽しませるプロ」としてのプライド

 その後もたゆまずチャンネル運営を続け、月額540円の有料会員数も右肩上がり。テレビや雑誌と異なり過去のアーカイブに簡単にアクセスできるのも公式チャンネルのよさだ。ネットを入り口にファンを増やしている手応えも大きく、毎週末のように全国で行っている興行の集客も好調だ。レスラー個人のファンを生んでいるのはもちろん、団体として“箱推し”する人も多い。

photo 毎日のように新しい動画が追加されている

 「熱気あふれる生の会場が1番面白いというのはもちろん譲れないけれど、目にとめて足を運んでもらうために、そして理由あって会場に来られない人に向けて届けるためにも、ネットは重要なツール。勝負の勝ち負けをつけるという以上に、私たちは楽しませるプロ。お客さんがリング上で望むこと、喜んでくれることなら何でもやる、というところにプライドがある」(男色ディーノさん)

 興行がなく通常の試合の中継ができなかった日に、特別企画としてレスラーが「人狼」をする様子を放送した。毎週待っているファンもいるだろう、何か放送しよう、と考えた苦肉の策だったが、その珍しさが逆に話題を読んだ。当日は有料会員の新規登録者も多く、予想外の反響に驚いたという。「まだまだできることはある、プロレスだけ見せていればいいわけじゃないんだ」――これからも試行錯誤を続けていく。

photo 発表会には男色ディーノさんとボブ・サップさんが登場しドワンゴ夏野取締役とファイト

 「特に意気込みはありません、いい意味でいつも通り」――ドワンゴからDDTへ「超会議」に出演依頼があったのは昨年の冬。この経緯を踏まえ、「今回こそは」と力を入れているのではと尋ねると、こんな答えが返ってきた。プロレスを知らない人、見たことがない人にも立ち止まってもらうのがプロとしての技量だ。生の試合の迫力、そしてショーとしての楽しさをアピールできればという。

 「ネットを使う理由は、とにかく多くの人に見てもらいたい、知ってもらいたいというのが1番。東京ドームを満杯にしても5万人なのに、ネットでは数十万数百万再生を目指せるのはすごいこと。プロレスを楽しむことをもっとメジャーにしたい、ニコニコのランキングでも1位をとれるように! ……そしてあんな屈辱をもう受けないように!(笑)」(男色ディーノさん)

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