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活動終了まで残り1年 「ニコニコ学会β」が示した楽しいアカデミズム、そして後に残すもの(1/2 ページ)

» 2015年04月24日 13時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]

 「野生の研究者」が集う場所、ユーザー参加型研究の世界を作り上げたい――プロ・アマ問わず研究の魅力を広く伝えてきた「ニコニコ学会β」。2011年の発足当初に掲げた5年間の活動期限は残り1年となった。「ニコニコ超会議2015」(4月25〜26日)の見どころは、そして終わりを見据えて――委員長の江渡浩一郎さん(産業技術総合研究所主任研究員)に今の思いを聞いた。

photo 昨年の「超会議」での第6回シンポジウムの様子(以下、撮影:石澤ヨージ)
photo ポスターセッションも盛況

 「超会議」で開催される「第8回ニコニコ学会βシンポジウム 〜現実性を超えて〜」では、2日間に渡って6セッションを用意する。地図やIngressなど空間情報科学に関わる「空間と凹凸と私」、哲学にも似た数学の深淵な世界を垣間見る「数のお遊戯・上級編 」、女装や男装を取り上げ、“セーラー服おじさん”こと小林秀章さんも登壇する「現実をハックする異性装」など、ジャンルはさまざまだ。

 名物セッション「研究100連発」は科学技術広報研究会(JACST)会長の岡田小枝子氏、事務局長の小泉周氏を座長に迎え、素粒子物理学や天文学、民俗学などの第一線の研究者がアカデミズムの世界を紹介する。一般から「野生の研究者」を募る「研究してみたマッドネス」には「NHKだけ映らないアンテナ」「ふりかけでご飯に絵を描くプリンター」「猫車にモーター積んだ結果」などが登場予定だ。

photo ステージ前は人であふれた

発足当初から「活動期間は5年」

 ニコニコ学会βは、東日本大震災の後、11年11月にスタートした。年に2回シンポジウムを開催しており、今回の「超会議」が第8回となる。発足当初から活動期間を5年と定めており、12月にニコファーレで開催する第9回を「実質的にラスト」とし、翌4月の第10回で幕を閉じる。

 委員長の江渡浩一郎さんは、当初から活動終了を決めていたことについて「コミュニティーの温度感を保つのは5年くらいが限度かなと。期間限定とすることでできることもある。学会誌として知識を蓄積することではなく、知の領域を広げることが目的で、学問を守り育てる、続くことが大事という通常の学会とは立ち位置が違う」と話す。

 「データ研究会」「宇宙研究会」「運動会部」などテーマごとの分科会は継続する予定だが、その他の具体的な形はこれから検討していく。シンポジウムを重ねて得たイベント・コミュニティー運営のノウハウやメソッドは何かしらの形で伝えていければとしている。

「自分は何をしてきたのか」を見つめ直す「研究100連発」

 アカデミズムをエンターテインメントとして一般の人にも届ける――通常の学会発表とは異なる、ニコニコ学会βが生んだ特徴的なギミックが「研究100連発」と「研究してみたマッドネス」だ。

 「研究100連発」はその名の通り、各研究者が自身のこれまでの成果を“連発”するスピーディなセッション。5人が代わる代わる登壇し、15分ずつ各20個の研究や取り組みを発表する形式が多い。

photo 第7回シンポジウム「研究100連発」。JST科学コミュニケーションセンターフェローの永山國昭氏は座長も務めた(撮影:石澤ヨージ)

 通常の講義やプレゼンテーションとは形式が異なる上に、「そもそも自分を何をしてきたのか」を長いスパンで見つめ直す必要があるため、事前準備の負担は大きく、断られることも少なくないという。日ごろ人前で話す機会が多い著名な研究者であっても綿密に準備し、「スクリプトをかっちり決めてアドリブを混ぜない」「スライドではなく持ち時間に合わせた動画を用意し、それに合わせて話す」などそれぞれに工夫して挑む。

 短い時間の中に研究者としてのコアとなる部分を詰め込んで話す姿は「内容が分からなくても熱が伝わってくる」(江渡さん)。聴衆のまなざしだけでなく、ニコニコ生放送を見る視聴者のコメントが会場を盛り上げる。毎回聞き手に好評なだけでなく、話し手も「チャレンジできてよかった」「いい経験になった」と興奮気味に振り返るという。

 “本拠地”である「ニコファーレ」が生み出す効果も大きい。壁一面のLEDパネルをコメントが流れる様は「話してる側の緊張感、伝わってくる熱がまったく違う」。「ネット空間がそのまま現実に現れている、ネットとリアルの存在感が逆転した場所。単なる生中継ではなくこのサイバースペースで続けてきたことに意味があった」(江渡さん)。

photo 「ニコファーレ」ステージ上からの景色。スライドやコメントが壁一面に(撮影:石澤ヨージ)

 昨年12月の第7回は、JST(科学技術振興機構)科学コミュニケーションセンターと初めて連携し、同センターのフェロー2人が人選から企画設定まで行う「座長」を務めた。「見えない世界を可視化する」と冠されたセッションは、生物学や神経学、センシングとビッグデータ、宇宙や銀河の成り立ちなどが語られ、従来よりさらに硬派な「100連発」となったが、江渡さんは大きな手応えを感じたという。

 「『研究成果を20個』は分野によっては難しいかもしれないと思っていたが、同じ研究テーマを続けていてもぶつかる壁、超えていくための視点はいつも新しい。一生『フーリエ変換』について考えている先生が見ている世界に触れられることに価値がある」(江渡さん)

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