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「ニコニコなくして岩手県なし」──ネットのエネルギーを地域はどう生かせるか 県と復興庁が見る「町会議」

» 2015年08月04日 11時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]

 「ニコニコ超会議」の地方版「ニコニコ町会議 全国ツアー2015」の第1弾が、7月18日に岩手県平泉町で開催された。スタートから4年目を迎える町会議だが、同県では2度目。ネットの世界をリアルで楽しもうと、各地で多くの若者を集めている同イベントを岩手県と復興庁はどう見たか。

photo 平泉町での「町会議」

 「町会議」は、「あなたの町のニコニコに会いに行く」を合言葉に、その名の通り全国の市町村を巡回し、「ゲーム実況」「踊ってみた」「歌ってみた」などニコニコ上や「超会議」で人気のコンテンツを再現するイベントだ。2014年は全国12カ所で開催し、総来場者数約20万人、ネット来場者は250万人を超えた。

 開催地はニコニコユーザーから寄せられる「わが町へぜひ」という推薦の声で決め、各地のお祭と併催するのが特徴。今年は北海道から沖縄まで全10カ所での実施が決まっている。

photo ひと夏をかけて全国を巡回する

知事の一言から開催へ 若者向け政策にも影響

 岩手県内での開催は、13年7月の洋野町に続き2回目。NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」の舞台となった同町では「たねいちウニまつり」と併催する形とし、約5000人が訪れ、来場した達増拓也岩手県知事がニコニコユーザーと触れ合った。達増知事は、「これほど多くの若い人たちが一堂に会する機会は、洋野町のような地域ではほとんど例のないこと。パワーと熱気にとても元気づけられた」と当時の驚きを振り返る。

photo 開場前から列が
photo 会場は超満員(いずれも写真は平泉町)

 そもそも、岩手県で開かれたきっかけは、自身もプレミアム会員という達増知事がTwitterで「岩手でニコニコ超会議をやってほしい」とツイートしたこと。ネットメディアやそこから生まれたカルチャーを活用したいという思いが個人としてあったものの、県庁職員のほとんどは「超会議」「町会議」のことは知らず、「知事は何を言い出すのかと少なからず驚いたのではないでしょうか(笑)」(達増知事)。

photo 前回に続き、達増拓也知事も来場し開催を祝った

 当日は地元の若者はもちろん、県外から訪れた人も多く、人気ユーザーのステージやブースは1日中賑わった。ニコニコ生放送では地元の特産品や文化や歴史の紹介を交えながら、イベントの熱気に加え土地の魅力も伝えた。「バーチャルなネット空間と地域が結び付き、いろいろな側面から土地への興味につながるポータル、玄関となった」手応えを感じたという。

 町会議の成功は、東日本大震災からの復興と、その先にある未来を担う若い人々を応援しようという県の政策の方向を決定付ける一助になったという。音楽やファッション、食に関する発表と交流の場となる「いわて若者文化祭」は昨年始め、秋には第2回が行われる。

 広い世代にダイレクトに情報を届けられるネット活用も強化し、町会議開催から4カ月後の11月には岩手県の公式チャンネル「いわて希望チャンネル」を設け、生放送の配信をスタート。「ニコニコ超会議」(千葉・幕張)にも2年連続で出展するなど、「ニコニコなくして岩手県なし」――と達増知事は言う。

世界遺産の町に集う7000人

 今年、会場となった平泉町は、同じ県内とはいえ前回の洋野町とは趣が異なる町だ。中尊寺や毛越寺など奥州藤原氏の栄華をしのぶ寺院などが世界文化遺産に登録されており、観光地としても名高い。町会議の公式サイトでは、地元のニコニコユーザーが「町ユーザー記者」として写真や動画で見どころを紹介し、一般的な観光情報から一歩踏み込んだ魅力を事前に発信した。

photo 街の魅力を発信

 当日は「ひらいずみ夜祭り」と併催し、人口約8000人の町に約7000人の来場者が集まり、約30万人がネットで楽しんだ。参加者をその場で募る「歌ってみた」「踊ってみた」や、ボーカロイド楽曲のDJステージなどが盛り上がりを見せた。会場をまわって楽しむ参加者の多くは10〜20代だ。

「まずは今の東北を知ってもらう」

 平泉町での町会議は、復興庁が初めて共催として名を連ねた。復興を単なる原状復帰と捉えず、地域の課題解決につなげることを目指す「新しい東北」事業のPRの場としてドワンゴとともに官民で取り組む。東北各地の事業者がブースを出展し、ユーザーと触れ合い、生放送で声を伝えた。竹下亘復興大臣も自ら来場し、会場を回った。

photo 来場者を前にする竹下亘復興大臣

 「今の東北の姿や挑戦的な取り組み、地域が持つ素晴らしい素材を知ってもらうことが、『かわいそう』だけではない積極的な意思や支援につながる」――町会議のイベントとしての集客力や発信力の強さはもちろん、若い年代向けに熱意やエネルギーを“翻訳”して伝えられること、ネット生放送を通じて全国にリアルな声を発信できることなどを貴重なチャンスと捉え、共催に至ったという。町会議とニコニコは、ネットとリアルの両面から、行政とは異なるネットワークで地域の魅力やチャレンジを発信できる「力強い味方」と感じていると同庁の担当者は話す。

photo 宮城県石巻市から参加した「かぎかっこ」は高校生がアイデアを出し合って作り上げた商品を販売。地元食材を使い、地域をPRする
photo ニコニコ動画の人気者を描いた「ニコニコケシ」

 達増知事も「震災から4年と4カ月たった今、津波被災地復興への歩みは大きな節目を迎えている。改めて現状を知ってもらい、応援していただくきっかけになれば」と復興に対する思いを寄せる。

 とはいえ、あくまで町会議は「ネットの中のニコニコワールドがリアルな姿でやってくる、それが土着の祭と結びつくという他にないイベント」(達増知事)。地域の課題や復興支援を全面に押し出すのではなく、これだけの人数の若い人々が集まり、目を輝かせて生き生きと楽しんでくれることが何よりもうれしい――と言う。

 「来場する方はそれぞれ『ゲーム実況をこの目で見たい』『百花繚乱さんのたこ焼きを食べたい』などお目当てのコンテンツがあるだろうし、まずは文化祭として存分に楽しんでもらうのが大事なこと。その上で、復興に頑張っている岩手県、歴史も文化も自然も、おいしいものもたくさんある岩手県に目を向け、もっと好きになり、ファンになってもらいたい。ニコニコの皆さん、岩手とともにあらんことを!」(達増知事)

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